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私はごく普通の転生者である。
否、転生者の時点で普通じゃないのは理解している。けれど今時、転生小説なんてものは世間のどこかしこに、ばっこ蔓延っているものだ。だからきっとこの私のような転生経験は想像しやすいものであると思うし、それ以上に転生した人間がそのまま自分を題材に私小説と世間に知らせぬまま書き連ねて、しまいには発表されベストセラーなんかになっていたりするかもしれない。
そう思うぐらいには、身近と言えば身近な出来事であるのではなかろうか。
そんな文字上ではありきたりの経験をこのたびしたのが、私である。
で、だ。
例にもれず、私の転生した世界は日本ではなく、魔法世界であった。これにガッツポーズをした私は悪くない。
そんな魔法世界の大国、アルターレに産まれた私は、公爵令嬢という中々な身分に産まれた第二子、長女である。兄様が居る時点で家を継ぐ必要がないので、少々気楽。公爵、と言っている通り王政が敷かれている世界だが五歳までの住み心地は悪くないの一言。
両親も中々に柔軟な思考を持っているようだし、夫婦仲はラブラブと言って良い。兄様は私をダメ人間にする勢いで可愛がってくれる。使用人たちも家のおかげか信頼のおける者が多い。現代日本に染まりきった人間であっても、こう甘やかし時に厳しく育てて貰っていれば悪くないと言うだろう。
色々と調査した結果。大体の地球文化はあった。特に食事。この時点でこの世界に日本産まれ、または育ちの転生者が居た事は確実である。あとは娯楽的なものだ。ここまで復旧させたとなれば、それなりに稼いだんだろうなーとか思ったが。
食も娯楽も私から見ればそれなりに充実しているこの世界。日本人として過去生きてきた私は、この世界のメインである魔法や武器など、そう言った者を研究すれば人生をつぎ込むことができるだろう。あるいは、前世で叶わなかった恋をこちらの世界で叶えさせるのもいいだろう。
……だけど、それでは足りないのだ。
新しい事をしたいだなんて、中々に我儘だとは思うが。それでも、やってみたい事が私にはあった。簡単に言ってしまえば、日本にあった魔法少女アニメのような、エンターテイメント性に優れた魔法使いになりたいと思ったのだ。いや、まんま魔法少女がしたいとか、そういうのではない。現在年齢5歳だとは言え、中身はアラサーに引っかかる年齢なのである。中身を置いておいても、10代まではぎりぎりセーフとしてそれ以上の年齢でやるには痛すぎる。あくまで、例えとして魔法少女を出しただけだ。
が、その魔法少女は娯楽としてみるととても面白いと思うのだ。魔法を使うだけではなく変身する、更にエフェクトやら付属音楽やら色々加味しても、それはエンターテイメント性に溢れている。
そう、見ていて楽しい、そして力にもなる、という魔法使いを私は目指したい。ただの魔法だけでも、結構な労力を使うであろうことは予想がついている。でも、見ていて楽しい魔法使いになりたい。つまり、「エンターテイメント系魔法使い」になりたいのだ。魔法の動作に、ダンスや歌、音楽を織り交ぜて展開すれば、見ているものはとても楽しい。そして私も楽しい。
ダンスと言えば社交ダンス、音楽はお堅い楽器のみなんてそんなこだわりしなくても良いだろう! 特に歌がはしたないだなんて言われるこの世界。なんでも歌う為に大口開くのが駄目なんだそうだ。
でもそれを聞いてはいそうですか、と頷けるほど私は物わかりが良くない。前世を知っているからなのだろう。寧ろ知っていなきゃ今の性格の私はいなかったとは思うが。そう、私は前世で歌う事が好きだった。つまりカラオケである。プラス、宴会芸ではないがダンスも嗜む程度には好きだったのだ。それらが私の娯楽としてインプットされている状態で産み落とされてしまったのだから、真っ直ぐに突っ込んでいくしかないだろう。
だから私は、新しいこととして「エンタメ魔法使いになる」という目標を掲げたのである。
『……で、それはそなたの知識にあるアイドルというものと何が違うのだ?』
「話し聞いてたか!? この腐れブック! 全然違うだろう、天と地の差だけれども!?」
『いや、違わないだろう。そなたの記憶にあるアイドルというものは歌って踊っていたではないか。そこに魔法を組み合わせただけであろう?』
「そうだな、傍から見ればそうかもしれないな!でも違うんだよ、アイドルはアイドルという人間をいかに魅力的に演出するか、つまり人物を売っているんであって、私は魔法と言うものを魅力的に映し出したいんだよ。アイドルってなったら私が私を売り込んでるってことになるだろう? 違うんだよ、そこらへん分かるか誘拐犯!」
『我は誘拐犯ではない、魔術書だ。』
「私を誘拐したのは事実だろうが!」
時は少し前 (おそらく)に巻き戻る……。