個人情報を出さない六歳児に四角関係を相談されたけれどきちんと答えられてよかった
「はあ、まったり」
「ハーブティーはいいですねえ」
今日は婚約者のギルバートとお茶会なのです。
ギルバートのヨーク男爵家とうちモーガン男爵家は、領地がお隣で共同事業も行っている関係で、昔から親密ですのよ。
ギルバートとわたくしフィリスは同い年ということもあって昔から仲がよく、自然と婚約という運びになったのです。
まだお互い一六歳なのに老夫婦みたいな落ち着きがあると、侍女には言われます。
でもギルバートの側はとても和むのですもの。
「フィリスおねえさま。わたしにはすこしにがいです」
「あらあら。お砂糖を入れてあげましょうね」
「ありがとうございます」
今日のお茶会にはゲストがいるのですよ。
わたしの母方の従妹のパティ・ウェルチ男爵令嬢六歳です。
パッチリおめめのとっても可憐な子なんですよ。
ほら、ギルバートだってパティちゃんを見る表情がふやけていますからね。
「おいしいです!」
「よかったわね」
「ところでわたしは、じんせいのせんぱいギルバートおにいさま、フィリスおねえさまにおしえてもらいたいことがあるのです」
「ふうん、何かな?」
「もちろん相談に乗りますわ。パティちゃん、どうしたのです?」
「ようがくじゅくで、さんにんのおとこのこにいいよられてこまっているのです」
「「えっ?」」
「どうしたらいいでしょうか?」
……質問が恋愛上級者なのですけれども。
パティちゃん六歳でしょう?
わたくし令息に言い寄られた経験などありません。
ギルバートと目と目で会話します。
ギルバートは令嬢にモーションかけられたことある? ないない、もちろんない。フィリスもないよね? ありませんね。パティちゃんすごくない? 完全に同意です。
付き合いだけは長いので、これくらいはお茶の子さいさいです。
でもパティちゃんの役には立たないかもしれません。
使えないポンコツと思われるのも癪ですね。
ギルバートが切り込むようです。
「三人って、どんな男の子なのかな?」
「こじんじょうほうになりますので、こゆうめいしはださないですけれどもいいですか?」
「もちろん」
パティちゃんってすごくちゃんとしてるわね。
おかしなところに感心しました。
「ひとりはだんしゃくけのちゃくなん。ふたりめはおうとのおおだなのあとつぎ。さんにんめはきゅうていまどうしのむすこで、ほんにんもまほうのさいのうがあるそうです」
「……難しいね。身分を取るか、財産を取るか、才能を取るか」
「ええ? ギルバートちょっと待ちなさいな。即三人の内の誰かを選ぶという考えになるの?」
「パティちゃんの情報が正しいとするなら、とてもいいお話だと思うから。三人目に不明な部分が多いけれど、才能ある魔法使いなんて一番出世の機会があるとも言えるし」
「かもしれないけれど、パティちゃんはまだ六歳よ? 人生を決めるのは早過ぎるでしょう」
「早いとは思う。でも現実には六歳で婚約している人も、メチャクチャ珍しいわけじゃないよ」
ギルバートの言う通りではありますけれども!
ふうと、パティちゃんが子供らしくないため息を吐きます。
「さんにんがきそいあって、ふんいきがわるいのです。おんなのこのともだちからもなんとかしなさいといわれて、ほとほとよわっています」
「で、でもパティちゃん。その三人から選ばなくてはいけないというわけじゃないでしょう? もっといい人が現れるかもしれないし」
「フィリス、それは無責任な発言じゃないかな? 今ほど条件のいい縁談がまとまって来て選べる状態なんて、パティちゃんにこの先あるかどうかわからないぞ?」
「そうなのです。ですからなやんでしまって」
ギルバートとパティちゃんが眉にしわを寄せた、似たようなしかめっ面をしています!
二人してとっても可愛いですけれども、何これ?
わたくしが最もドリーマーみたいな空気ですが、六歳児が恋愛四角関係で悩むっておかしいですからね?
縁談って決めつけることこそどうなの?
そもそも……。
「これ、おじ様おば様は把握している話ですの?」
「りょうしんですか? はい、パティはもてるのだなと、わらっておりました」
あっ、絶対わかってない!
ただの微笑ましい自慢話くらいに思ってますわ!
「おじ様おば様を介入させなさい。こうこうこういう具合に迷惑を被っていると。パティちゃんだけだと本気で聞いてもらえないなら、わたくしも話してあげましょう」
「わあ、こころづよいです。でもこどものはなしにおやがでてきてもいいものでしょうか?」
「貴族の婚約は互いの親同士が決めるものですよ」
「えっ? れんあいのばあいでもですか?」
「例えばわたくしとギルバートは愛し合っていますけれども、婚約はもちろん親が決めました」
「そうなのですね? しりませんでした」
ようやく人生の先輩面ができました!
面目が立ってよかったです。
ギルバートが僕達って愛し合ってるんだっけ? という顔をしていますけれど、当然だという顔をしていなさい、と合図を目で送ります。
はい、了解ですね。
「じゃあ早速です。パティちゃんの家に行きましょうか」
「そうだね。早く決着をつけたほうがよさそうだ」
「ギルバートおにいさま、フィリスおねえさま。ありがとうございます」
パティちゃんはきちんとしていて偉いわあ。
◇
――――――――――後日のお茶会にて。
「あとでウェルチ男爵家から来た連絡によると、ほぼほぼパティちゃんの言う通りの状況だったのですって」
「つまりパティちゃんを巡る三人の令息のギスギス度合いは、かなり深刻だったってこと?」
「そう」
互いの親が慌てて話し合いを持ち、少なくとも幼学塾に通っている内はパティちゃんの取り合いはやめること。
皆で仲良くすることを取り決めたということをギルバートに説明します。
「幼学塾の先生は把握していたのかね?」
「していたみたいよ。だからこそ各家ですぐ情報を共有できたのでしょうし」
「ふうん。怠慢じゃないか?」
「想定外の事態でしょう? 所詮六歳児のことだからって様子見していたらしいの」
「ところがヒートアップしちゃったってことか」
「そうね。でも無事解決してよかったわ」
次会う時は、きっとパティちゃんの表情もにこやかになっていると思います。
パティちゃんは笑っている時が一番可愛いですよ。
「でもさあ。いくらパティちゃんが美幼女だからって、六歳にして三股って僕ビックリ」
「三股じゃないわよ。実際に付き合ってたわけではないのですから」
「魔性の女であることは確か」
これは否定できないような。
成長したら何人もの令息を虜にしそう。
パティちゃんの性格が歪みませんように!
「ウェルチの叔父様からお礼を言われたのよ。危機を正確に教えてくれて助かったって。さすがラブラブカップルだって」
「ええ? 僕達ラブラブカップルに見えるのかなあ?」
「……うちの侍女は老夫婦みたいって言うけど」
「その老夫婦みたいって表現、フィリスはどう思う?」
ギルバートったら、おかしなところに突っ込みますのね。
「既に枯れてる二人、みたいな感じがしません? 実はあんまりいい印象がないのですよ」
「フィリスの感想としてはそうなのか。僕はいいと思うんだ」
「どうして? ギルバートの考えを知りたいわ」
「僕達は今、知識や技術を得たり、人間関係を充実させたりに忙しいじゃないか。その上恋愛まで一生懸命なんて、疲れてしまうと思わない? やることが多過ぎるよ」
「……そうかも」
「僕達は恋愛に一生懸命にならなくてもうまくやれるってことだよ。つまり恋愛の達人なんだ」
恋愛の達人ですって?
目から鱗が落ちました。
一生懸命恋愛できることが素敵だって思い込んでいましたけれど、一生懸命にならなくても恋愛できるのはいいことだと考えたことはなかったですね。
「恋愛の達人って、とても格好よろしいわ」
「だろう? 僕達は恋愛の分他に力を回せるじゃないか。これはすごいことだと思わない?」
「……ギルバートは時々頭のいいことを言うんですよね」
「見直した?」
「わたくし達は一々見直すなんてことをしなくてもうまくやっていける間柄ですよ」
「ええ? 僕褒められたい!」
「惚れ直しましたわ」
「おおう!」
うふふ、ギルバートが目を見開いていますよ。
まったく子供みたいなところがあるんですから。
パティちゃんのほうがよっぽど大人ではないですか。
省エネの愛でも、わたくしはちゃんとギルバートのことが好きなのですからね。
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