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創世遊戯

作者: 矢子沼蜻蛉
掲載日:2026/03/23

クトゥルフ神話関連の創作神話です。

内容の壮大さに比べて、非常に短い話になっています。


「カクヨム」にも投稿しています。

 超古代、火山が噴火した。

 空前絶後――そう形容するしかない大噴火だった。

 雷を纏った噴煙は、高々と伸び上がり、天空へと広がると、その影で大地を覆いつくした。


 その雄大な情景を、遙か高みから見つめる存在があった。


 灰色の髪と髭を蓄えた老人で、筋骨隆々たる体躯には、ゆったりとした一枚布を羽織っている。


 その御名をノーデンス。


 その姿は、人類と見紛うほどによく似ていた。


 ノーデンスの眉間には、皺が深く刻まれていた。

 巨大火山が織りなす、一大スペクタルを鑑賞しに来たのだが、ふと地上に目を転じれば、枯野が急速に広がり、次に人類、動物が倒れ伏し、骸から白骨へと変じていくのに気付いたのである。


 ノーデンスは、しばし沈黙した。


 矮小な存在。

 だが、自らに酷似し、よく懐く生き物。


 救うことは容易い。


 天変地変を鎮め、環境を整えてやればよい。

 住まいを与え、食料を望むだけ与えてやれる。


 しかし思いとどまった。


 ナイアルラトホテプ。あれが大喜びで介入してくる。


 お互いが、力の行使に加減を加えぬともなれば、地球はもつまい。

 全ての努力を、台無しにされるのは、面白くなかった。


 地球を俯瞰すれば、アフリカの南方には、比較的安寧に暮らしている人類の一団があった。

 しかし、その暮らしぶりを見れば、自分達が生きるのに精一杯だ。他の集団を受け入れる余裕はないであろう。

 ノーデンスは、地球に見切りをつけた。


 そして遥か彼方、我らが太陽系とは異なる恒星系に目を転じた。

 そこは、ノーデンスが知る限り、環境が地球に最も近い惑星があるのだ。

 何よりも、そこには、ナイアルラトホテプの手が及んでいない。

 絶望に追い詰められた人々の移住先として、これ以上にマシな場所はあるまい。


 そこには、原住生物がいた。

 彼らは自分達が住まう地を「ザモンド」と呼んでいる。


 しばらく考えを巡らしていたノーデンスは満足げに頷いた。


「実に良い。やはり、あそこで良かろう。」


 環境が地球に近いと言っても、そのままでは人類は生存できない。

 ならば環境に手を加えねばならないが、そうなると、原住生物が急激な環境変化に適応できない。彼らを無碍に扱っては片手落ちである。


 そう考えたノーデンスは、ザモンドの魔王と話し合いを持つ事にした。


 魔王は、全ザモンドを飲み込まんと暴虐を働く存在だったが、生態系の崩壊を危惧したノーデンスが、懲罰を与えたことで、その性向はだいぶ丸くなっているはずである。


 ノーデンスほどの神ともなれば、別の恒星系の惑星に、顕現するのは造作もない。


 闇の中にあった魔王の宮殿に、突如として破裂したように光が広がった。

 その光は輝きを増し、やがてノーデンスの姿へと変貌していく。

 この煌々とした輝きは、周囲を照らし出した。

 それは、広大な広間、林立する巨大な石柱群、そして玉座を露わにした。


 惑星ザモンドを支配している種族は、他の原住生物と異なり、有機質の身体を持たない。

 魔力が自由意思を持ち、具現化した存在だ。大気が凝縮したような身体を持ち、それぞれが思い思いの形を取っている。

 彼らは、惑星に充満している魔力を思いのままに操り、他の生き物を圧倒してきたのだ。


 そして、魔王と呼ばれる存在は、その中でも最強の個体である。

 それは、闇の塊のような巨大な球体から、無数の触手が四方八方へと生え伸び、フワリ、フワリと宙に浮いていた。

 その下に、床に彫り込まれた奇怪な意匠の円陣が、赤々とした光を放っているが、それが玉座である。


 魔王は、ノーデンスの顕現を認識すると、忙しなく動き始めた。

 無数の触手が、細くなり太くなり、長くなり短くなり、消えたり現れたりと目まぐるしく変化している。球体の奥に見え隠れする無数の光点は、大きくなり小さくなり、点いたり消えたり、直進しあるいは円弧を描いたりと、慌ただしく蠢いていた。


「お前は、お前は、何しに来た。俺は、俺は、言いつけを守っているぞ。世界に、何が起きても、何があっても、手を出していない。何で、何で、ここに来た。」


 ノーデンスは、のっしのっしと、魔王へと歩を進めながら言った。


「殊勝な心掛けである。褒美を与えよう。この世界の半分だ。我を唸らせるような、素晴らしい統治を期待する。」


 魔王の動きの全てが止まった。


「統治、統治だと。俺は、手を出してもいいのか?世界に。」


「だが、世界の残り半分は我が領分だ。もちろん、こちらへの手出しは無用である。異存はないな。」


 魔王は、一も二もなく承諾した。

 その球体の奥に見え隠れする無数の光点は、色を変え変え振動していた。


 ノーデンスはザモンドを二つに分けた。

 本来なら神と言えども、困難極まる作業である。

 しかし、この惑星に満ち溢れる魔力、これを利用することで楽々と成し遂げた。

 もちろん、惑星を物理的に真っ二つにしたのではない。ザモンドの時空を分断して並行世界を作り上げたのだ。

 ザモンドの魔王以下、原住生物が棲む世界を「始原界」、地球からの移住者が住むべき新たな世界を「人界」。ノーデンスはそう名付けた。


 グズグズしていたためか、人類の生き残りは、大きく減じている。

 かろうじて千人に届くだろうか。

 梃入れが必要だ。

 充分な食料と資材、それに知恵を与えた。


 今、ノーデンスの眼下には、テラフォーミングされた人界で、いそいそと活動を始めた人類がいる。


 彼らは勝手に増え、勝手に築く。


 人界に、火が灯った。

 道具を使い、集まり、言葉を交わし、いよいよ文明の形を作り始める。

 だが、たどたどしい。

 未熟であり、愚かですらある。


 ――これは、楽しい。


 時折、ほんのわずかに手を加える。

 少しの導き。少しの試練。

 すると彼らは、必死に抗い、考え、進んでいく。


 ――これは、実に楽しい。


 ノーデンスは、豪快に笑った。


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