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第三話 おかしな世界

違和感というものは、

最初はとても小さい。

気のせいかもしれない。

考えすぎかもしれない。

そう思って、

人は見ないふりをする。

でも――

小さな違和感は、

少しずつ増えていく。

そしていつか、

無視できないほど大きくなる。

あの夜のパーティーのあと、

私の世界は、

少しずつおかしくなり始めていた。

パーティーは、

表面だけ見れば普通だった。

笑い声。

軽い音楽。

誰かがグラスをテーブルに置く音。

けれど私は、

なぜか落ち着かなかった。

部屋の隅で、

さっきの女の子がまた私を見ている。

目が合うと、

彼女はにっこり笑った。

でもその笑顔は、

どこか作り物みたいだった。

「どうしたの?」

兄が隣で聞く。

「え?」

「さっきから静かだろ」

私は少し迷ってから言った。

「……あの子」

「ん?」

「さっきの女の子、なんか変じゃない?」

兄はその方向を見る。

そのときには、

もう彼女は他の人と話していた。

兄は肩をすくめる。

「気のせいだろ」

そう言って、

軽く私の頭を撫でた。

その仕草だけで、

胸が少し落ち着く。

……でも。

違和感は消えなかった。

しばらくして、

私は水を飲みにキッチンへ行った。

そのとき、

廊下の向こうから声が聞こえた。

小さな声。

誰かが話している。

「……まだなんだって」

「へぇ」

聞こえたのは、

あの女の子の声だった。

私は思わず足を止める。

「でも珍しいよね」

彼女は笑いながら言った。

「こんなに大きくなるまで、

気づかれないなんて」

「仕方ないよ」

別の声が答える。

「最近、人間少ないから」

――人間。

その言葉に、

私は少しだけ首をかしげた。

どういう意味だろう。

「まあ、いいじゃん」

女の子は軽く言う。

「そのうち分かるでしょ」

「そうだね」

「だって――」

そこで、

彼女は少し声を潜めた。

「……あの子、“まだ人間”なんだから」

その言葉に、

背中がぞくりとした。

“まだ”?

どういう意味?

そのとき、

床が小さくきしんだ。

「あれ?」

女の子の声。

「誰かいる?」

私は慌ててキッチンへ入る。

冷蔵庫を開けるふりをした。

数秒後、

廊下から足音が聞こえる。

振り向くと、

あの女の子が立っていた。

彼女は私を見ると、

また微笑んだ。

「喉渇いた?」

「……うん」

私は小さくうなずく。

彼女は冷蔵庫を覗き込んでから言った。

「人間ってさ」

突然そんなことを言った。

私は驚く。

「え?」

彼女は楽しそうに続けた。

「弱いよね」

その言葉の意味を、

私は理解できなかった。

ただ――

なぜか怖かった。

帰り道。

夜の街は、

来たときよりも静かだった。

私は隣を歩く兄を見る。

兄はいつも通りだった。

優しくて、

落ち着いていて、

何も変わらない。

それなのに。

さっきの言葉が、

頭から離れない。

「……まだ人間」

どういう意味なんだろう。

そのとき兄が、

ふと私の方を見た。

「どうした?」

「……なんでもない」

私は首を振る。

でもその瞬間、

兄の目が一瞬だけ――

とても冷たく見えた気がした。

その理由を、

私はまだ知らない。

でもきっと。

この世界は、

私が思っているよりずっと――

おかしい。

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