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さぁお祭りの日だ。王都も領都も建国祭だ。建国1225年、ドラゴンと戦っていて、この国の真ん中に辿り着いた勇者が最初の王だと伝えられている。残念ながら王は落ち人ではない。こっちの人だ。金髪碧眼。今の陛下と同じ色合いだったらしい。王が亡くなってから完成したこの国一番古い教会のモザイク画に保存魔法が掛けられていたせいか残っていて、そのモザイク画が金髪碧眼の勇者がドラゴンと戦っている姿が残っているのだ。
600年前の上級鑑定士がこのモザイクが600年以上前のものだと鑑定した。基礎となる土台がもう20年ぐらい古かったので、建国は625年ぐらい前にしようと、当時の王が決めたらしい。そこから600年経って、建国も1225年となった。少しおおざっぱなような気もするけど、現在の上級鑑定士も残ったモザイク画を見てほぼ間違いなしって言っているらしいからそうなんだろう。
ということで、今日はエルダリス王国の建国1225年のお祝いの日だ。朝から領主館も浮足立っているような気がする。いや、領主家の皆さんも侍女さんもメイドさんも護衛たちもみんな冷静だ。浮かれているのはわたしだけかも。でも、楽しみ。
空砲のぱんぱんという音がする。お祭りの始まりだ。
領主館から満開の桜並木を横目に通り領都へ降りてきた先の広場で、領主の振る舞いのエールにスープ、公爵領の町や村の出張屋台が広がる。わたしの企画した焼き鳥、フライドポテト、三色団子にダーツと輪投げ、孤児院主催のバザーに人が集まる。去年はなかった屋台に、見たことがないダーツや輪投げ、ロイヤルファミリーの刺繍やぬいぐるみ。収穫祭の噂を聞いた人も多い。焼きそばもベビーカステラも美味しいワインや梅酒、クラムチャウダーに和菓子。どんどん人が集まってくる。わたしの企画の屋台は公爵家の料理人とメイドさんが手伝ってくれている。ダーツは公爵家の騎士団の人たちが輪投げも景品が取られちゃダメだからと強面の護衛担当が手伝ってくれている。いいのか。それで。ダーツと輪投げは景品が出るから1回300ダル取っている。他の屋台は200ダルで、領主の振る舞いのエールとスープは無料になっている。わたしの屋台も無料にしようかなと思ったけど、各町と村からの出張屋台は経費かかっているから無料がキツイものね。こっちだけ無料だと人が集まりすぎるのも怖いからお金を取ることにした。
儲かったら今日手伝ってくれた人へのお礼にしようと思っている。
ダーツが盛り上がっている。あ。輪投げも結構人が。食べ物も凄い列だし、ワインも梅酒も大歓迎されている。ハンカチもぬいぐるみもあっという間に完売してしまった。落ち人様の桜だということで、領主館へ向かう馬車道の隣に作られた遊歩道を歩く人々も多い。
わたしもジョアンナさんとアビゲイルさんと3人で人気の屋台を見て回った。
領都の人の屋台は、焼きソーセージに串焼き、豆のスープに、お焼きのようなもの、アクセサリーや小物のお店もある。
白いお花を売っているところがある。このお祭りでは花を贈りあうのだそうだ。そういえば、皆、服に髪に花をつけている人が多い。
アビゲイルさんが花を買ってわたしの髪に刺してくれた。今日はジョアンナさんが編み込みのハーフアップにしてくれているから、編み込み部分に花が咲く。
「アビゲイルさん、ありがとうございます。」
「どういたしまして。ハナ様可愛いからね。」
え?聞き間違い?可愛い?わたしが?えええ。お世辞だよね。可愛いだなんて一度も誰からも言われたことないよ!動揺しまくった。
アビゲイルさんがにっこり笑う。やっぱり目じりに皺が寄るアビゲイルさんの笑顔は素敵だ。ジョアンナさんがくすくす笑い、「さぁ他も行きましょう。」と、また一緒に屋台を回る。
ダーツの景品でお酒を貰う人の弾けた笑い、ロイヤルファミリーの刺繡のハンカチをどれだけ買おうかテンションの高い若い女性たちの興奮した声、ワインや梅酒でほろ酔いになりながら、今年のエールは一味違うぜと差し出され笑顔で受け取る領民たち。
いいなぁ。何言っているのかわからないからジョアンナさんが時々通訳してくれる、物凄く楽しそうだった。
吟遊詩人が広場で音楽を奏で、それに負けずにブライトさんがスピーカーで踊りたくなるような音楽を流しながら、ユリアーナさんと2人でもう踊っている。
アーヴィンさんとメアリーさんが最低限の護衛だけつけて歩いている。領主を見つけて感謝の言葉を掛けてくる領民たち。その後ろをオリバーさんとクロエさんも一緒に歩いている。みんな華美すぎないラフな格好だ。
いいね。本当。とても楽しい。
アビゲイルさんがエスコートしてくれて、ブライトさんの音楽で踊る。振りもステップもわからないまま踊る。ブライトさんとユリアーナさんは優雅にでも少しテンション高めでぐるぐる回るように踊っている。
それをみた領民たちがどんどん踊りに参加してきた。
ふふふ。つい笑みがこぼれる。
「ハナ様、楽しいですね。」
アビゲイルさんがにっこり笑う。繋いだ手が温かい。
「ええ、アビゲイルさん、とても楽しいです。」
今日の日を忘れない。
日本でいた時は1人で生きてきたわたしが、こっちの世界でたくさんの知り合いが出来て、心から楽しいと踊る日が来るなんて。びっくりだわ。癌を告知したあの医者に今幸せーって伝えたいぐらいだ。
わたしが企画したものも、町や村の出張屋台も、孤児院のバザーもすべて大成功でお祭りは終わった。はぁ楽しかった!
孤児院の子どもたちも興奮している。
「ハナ様、めちゃくちゃ売れました。全部売れました。凄い売り上げです!!」
「わたしまた刺繍します。また教えて下さい!」
「はなさま、たのしかった。おまつりたのしかった!!」
親のいない子は親と縁の薄かった自分の子どもの頃を思い出す。小さな手を小さな体を抱きしめる。今日の楽しかった日を一緒に覚えていようね。




