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ジョアンナさんを呼んで、アーヴィンさんにお話ししたいと頼んでみた。
アーヴィンさん用のノートパソコンと周辺機器を持っていこうとすると、護衛の方に荷を預かられた。そのまま後ろを着いていって応接間にご案内された。
「ハナ様、お呼びだとお聞きしました、何か問題がありましたか?」
心配そうなイケオジ、眩しい。日本ではイケオジとは全くご縁が無かったので、昨日ぶりのイケオジ眩しすぎる。頑張れわたし。
「アーヴィンさんに検証して欲しいことがあってお願いします。」
「はい。何でしょうか。これは?」
「これはノートパソコンと言います。」
「あ、これがパソコンですか!落ち人様の記録に時々『ここにパソコンがあれば…』と呟かれていたというメモが残っています。これがそのパソコン。初めて見ました!!」
まぁ死にそうな時にパソコン抱えている人は少ないだろう。
わたしは本当外出中で、すべてを身につけていて本当に良かった。
「このノートパソコンはアーヴィンさんのものです。使い方を教えていきますね。」
「おお、このような高級な魔道具を良いのですか?ハナ様はお困りになりませんか?」
ノートパソコンを押し付けられ、それを抱きかかえたままアーヴィンさんが聞いてくるけど、顔がもう喜んでいるよ。
「アーヴィンさん、大丈夫です。わたしのスキル生活魔法は複製が出来るのです。これは複製したもので、わたしのものは手元にあります。」
「なんと、複製が出来るのですか?!ハナ様の生活魔法は素晴らしい!!」
ぱーっと笑顔が輝くアーヴィンさんは眩しい。それに褒められるとなんだか嬉しいね。日本にいた時って褒められることってなかったものね。でも、アーヴィンさんがインターネット使えるか早く知りたいから、次々行くよ。一度もパソコンを触ったことがないアーヴィンさんに教えていく。さすが公爵家ご当主様!領主をしているだけあって、アーヴィンさんは優秀。超賢い。さくさくと進む。ローマ字入力には手間取ったけど、覚えれば早い。
そしてアーヴィンさんが検索画面で、検索ワードを入力してもらう。最初だから『アーヴィン』と入れてもらう。出た。検索結果が出た。アーヴィンさんも検索使える。次は購入だ。通販サイトに移動する。アーヴィンさんは目を白黒させている。
「おお、これが落ち人様の世界の製品!おおお。」
何が欲しいか聞いてみると、何を選んでいいのかわからないと返ってくる。当然か。
じゃ、手っ取り早くわかりやすい。美味しいお酒を注文してみる。クリックをする。注文画面が出る。『残高0円』『投入口』あ、アーヴィンさん用のパソコンだからか、残高はわたしと共有していないんだな。わたしは念のため持ってきていた金貨を複製してから、アーヴィンさんに渡す。アーヴィンさんは言われるがまま、投入口に金貨を押し付け、吸い込まれていく様子を驚いてみている。『残高630,000円』注文確定のボタンをクリックしてもらうと、アーヴィンさんのパソコンの上から謎空間が出現し、同じように箱が現れたので、受け取ってもらう。
驚いたままのアーヴィンさんに箱を開けてもらうと有名どころの日本酒が出てきた。わたしのお気に入りだ。控えていたジョアンナさん、執事らしい人が動き、コップが出てきた。お酒を注ぐと執事らしい人が先に一口飲んでいる。小さい声で「美味しい・・・」と呟かれたのを聞いて、アーヴィンさんも飲みだす。
「おお、これは美味しい。上等なお酒だ。この瓶もガラスですね。薄くて透明で均一の厚さで素晴らしい。ハナ様、落ち人様の世界は凄いですね。こんなことが可能だなんて!」
「いえ、アーヴィンさん、お金が直接投入できるのと、物がすぐに出てくるのは、こっちの世界に来てからです。向こうの世界でも物は買えましたが、ここまでではないのです。こっちの世界も凄いのです。」
アーヴィンさんが執事らしき人に声をかけ、こっちの世界の金貨を持ってきてもらっていた。こっちの金貨も美しくてどっしりしている。投入口に入れると受け入れてもらえた。『残高1,235,000円』日本の金貨と同程度だった。アーヴィンさんも興奮しだした。
「ハナ様、このパソコンで落ち人様の世界の物が買えるんですね!これは凄いです!!あー・・・。恥ずかしながらいい年をしているのにすっかり興奮してしまって・・・。」
アーヴィンさんの顔が上気している。赤いし手振り身振りが激しい。喜びの舞でも踊りそうだ。大丈夫?
「王家にもパソコンは献上いたします。ただし、王家でインターネットが使えるかどうかわかりません。献上する前に、アーヴィンさん、長男さん、次男さんがある程度パソコンが使えるようになってから、王家に献上したらどうでしょう。もし、王家でインターネットが使えなくても、表計算、文書作成はできますし、雑学辞典や音楽、物語など入っているので、少しは役にたつと思います。」
「そうですね。この素晴らしい成果を早くお知らせしたいところですが、もし、落ち人様の世界の物を購入できるのが、ここだけだと、ここで購入したものを献上する必要が出てくるかもしれません。そうなると何を献上すればいいのか、学ぶ必要があります。陛下だけではなく王妃への献上もあれば、メアリーと相談する必要も出てくるかもしれません。そうですね。しばらくパソコンを使いこなせるように頑張ってみます。ハナ様、さきほど、オリバーとブライトにも使えるようにとお話がありましたが、2人にもこのパソコンを貸していただけるのでしょうか。」
「ええ、わたしのスキルで複製したものですが、オリバーさんとブライトさんの分ももう複製しています。プリンタもあるので、お仕事できる部屋があればそこで設定したいですね。」
「ぷりんた?とはよくわかりませんが、ハナ様のおっしゃるとおりいたします。では、執務室に参りましょう。あ、ハナ様、紹介していませんでした、執事のアダムスです。優秀な執事なのでわたしがいない時はアダムスに声を掛けてください。アダムス、オリバーとブライトに執務室に来るように伝えてくれ。」
執事のアダムスさんは、執事らしく隙がなくすらっと細身で白髪をオールバックにしていて眼鏡を掛けていて素敵である。すっとオリバーさんとブライトさんに連絡するため部屋から出ていかれた。
「あ、ジョアンナさん、わたしの部屋に置いているノートパソコンとプリンタとか持っていきたいものがあるので、一緒に運んでくれる人お願いしていいですか?」
「かしこまりました。」
アーヴィンさんとは執務室で会う約束をして、一度部屋に戻り、持って行くものをジョアンナさんと護衛役の方2名と一緒にパソコンと周辺機器とコピー用紙を運んでもらう。
執務室に到着すると、既にアーヴィンさんとオリバーさんとブライトさんがいた。3人が並ぶと同じ毛色の上品な躾の行き届いたふわふわの子犬を思い浮かべてしまう。いや全員イケメンでカッコいいんだよ。でも、目がなんていうのかつぶらでいつもこっちをわくわく期待した感じで待っている姿がね。『待て』をしている子犬のようで、しっぽがぶんぶん振られているように見えるんだよね。人懐っこい紳士たちなんだろうか。
子犬に見えるとは言えずに、パソコンの配線をしたいとアーヴィンさんに了解をとり、ノートパソコンとプリンタをLANケーブルで繋いでいく。日本にいた時小さな会社だったから、ただの事務要員のわたしも駆り出されて設定したんだよね。
3人ぐらいの小さなものなら大丈夫。
アーヴィンさんは大事に抱えているノートパソコンを机の上に置いてもらい、他の2台もそれぞれの机の上に置く。設定ができたところで、まずはアーヴィンさんのパソコンを立ち上げ、アーヴィンさんに、何か調べたいものがあるか聞いてみる。
「落ち人様の英知・・・。うちの領地に役立つ情報が欲しいですね。先ほどいただきましたお酒美味しかったです。あのようなお酒の造り方とかわかれば大変嬉しいです。」
「たぶん、調べれば細かいところまで出てくるかもしれませんが、とりあえず簡単なお酒の造り方を探してみましょう。」
アーヴィンさんのパソコンで『お酒の造り方』と入力して検索して、図入りのわかりやすいものを選ぶ。選んだ画面を印刷設定し、スタートボタンをクリックしてもらう。
ぶうん。かたかた。
プリンタが唸りだしたので、必死にパソコン画面を見ていた3人が同時にびくっとした。
「あれはプリンタの起動音ですよ。大丈夫です。見ていて下さい。この画面があれで印刷できるのです。」
家庭用のプリンタががたごといいながら1枚印刷しおえた。
「おお、素晴らしい。この画面の文字や図がこの紙にそのまま写し取る事が出来るなんて!神の英知か!」
「素晴らしい。父上のパソコン!」
オリバーさんが目を輝かせる。そうだろ。そうだろ。最初は驚くと思う。画面の文字がプリンタで印刷できるなんて魔法のようだってね。ぜんぜん魔道具じゃなくてごめん!
「わたしのパソコンでも出来るだろうか。」
ブライトさんは『待て』状態だ。やりたいけど、下手に触って壊すと怖いからか触るに触れないよね。
ということで、印刷の素晴らしさに感嘆されたご兄弟にパソコンを基礎から教える。やはりお2人も超優秀。頭の出来がいいんだろう。羨ましいぐらいさくさくと覚えて下さる。
アーヴィンさんは、検索であがってきたお酒についていろいろ読んでいるようだ。時々「日本語を学んでいて本当に良かった!」と呟いておられる。
感激感動しているアーヴィンさんに、
「インターネットは英知の塊ですが、嘘も混じっています。正しい知識なら本の方がましだと思います。ただ、インターネットの情報は早い、情報のきっかけを調べやすい。例えばお酒の造り方の本を探すにしても、どんな本が欲しいかを入力して探し出すことができます。あるということを知っていないと検索するのも大変だと思いますが、最初のうちは何でも聞いて下さい。」
「落ち人様の世界も嘘があるんですね。正しいことばかりではないと心にとめておきます。」
アーヴィンさんがしみじみしているけど、ほんと本気で騙してくる人もいる世界だ。落ち人の世界だからすべて正しいと思ってもらっては困る。こんないい人たちを騙したくない。
息子さん、お2人のパソコンも検索出来た。良かった!そして通販サイトにも行ってみた。どっちも残高0円だったので、控えていた執事が素早くどちらにも金貨1枚を手渡している。お2人は真剣に画面を見つめている。買える物が多すぎてわからなくなってきているみたいだ。
「最初だから、わたしが使っている手帳とシャ―ペンとかどうですか?使いやすいですよ。」
そう言って、メモ書き用の手帳とシャーペンを見せてみる。オリバーさんはそれを聞いて素直にそうしようと手帳とシャーペンを選択して、注文のボタンをクリックしたようで、謎の空間から箱が浮いて出てきた。
「はい、受け取って下さい!」
オリバーさんが箱を開けると、わたしの手帳とは少し違う大判で男性向きのものと、シンプルなシャーペンを取り出した。消しゴムと替え芯を追加で注文してみるように言ってみると、少し慣れた手つきで追加購入していた。
「試し書きするなら、コピー用紙がいいですよ。1枚ずつ使えますから。」
コピー用紙は500枚入りを5包みの1箱で購入してあるからどれだけ使っても大丈夫だよ。オリバーさんはシャーペンで試し書きしては、顔が笑っている。とても嬉しそうだ。
ブライトさんはうんうん唸って悩んでいたけど、これ買えますか?と聞いてきたので、大丈夫だと言うと、美味しそうなチョコレートを選んだ。お嫁さんに渡したいそうだ。
出てきた箱を見て、恐る恐るそれを手に取り、箱を開けてチョコを取り出す、味見は必要か。すちゃっと執事がやってくる。異世界からの食べ物は注意しないとね。執事は1個口に入れるとほうっという美味しそうな顔になった。手渡してもOKだとサインが出た。ブライトさんも1個味見だ。
「これは!食べたことがないが、とても美味しい。ユリアーナが喜びそうだ。」
「ブライト、それはどこで売っていたのだ。教えてくれ。ユリアーナに渡してクロエに渡さなかったら、後が怖い。」
それを聞いたアーヴィンさんが、ブライトさんのそばにやってきた。
「ブライト、わたしにも教えてくれ。メアリーとリリスに睨まれてしまう。」
3人で仲良く同じチョコを2個ずつ買って、「いや、これは美味しいな。」「父上、食べすぎです!」「ほんとこれが空間から出てくるなんて不思議だ!」と、ひと箱は男3人で味見と称して食べきった。
この後、3人で王家に何を献上すればいいのか相談しているが、すぐに答えは出てこない。まずインターネットが王家で使えるかどうかわからないのだ。ノートパソコンを持ってお試しに行った方がいいんだろうか。
とりあえず、繋がる場合、繋がらない場合を想定して、考えるべきだということになったが、それぞれパソコンの使い方や情報や買えるものを調べていくことにしたようだ。
この後、わたしは遊び心で、ついうっかり、音楽も聴けるし、動画も見ることができると言ったら、それから大変だった。アーヴィンさんもオリバーさんもブライトさんも嵌った。調べるもの、興味のあるもの、買いたいもの、未知のもの、初めてパソコンを触って、興奮したあの気持ち、何でもできる万能感を手に入れた感情の高揚に取りつかれてしまったようだ。
「兄上、ここを触れば音が出ます。なんて妙なる美しい音楽だ。」
「父上、印刷をし過ぎではないですか。わたしが印刷できないじゃないですか。」
「いやいやなんとも凄いものだ。お酒という文字を入れるだけで、情報があっと言う間に集まるし、それが文字となって手元で確認することができるなんて。素晴らしい。」
「父上、落ち人様の音楽についてはわたしが今後管理したいです。」
「おおそうか、ブライトは音楽が好きだったな。では、お前に任せることにする。」
「有難き幸せ!」
ブライトさんがめちゃくちゃ嬉しそうだ。ダウンロードした音楽のリストと、ネットの音楽動画の検索の仕方を教える。あと、CDやDVDの買い方と音楽レコーダーも教えておこうか。音痴だったけど、聴くのは好きだったんだよね。聞くと、こっちの世界の音楽とは、舞踏会でのダンス用、吟遊詩人、収穫祭等お祭りの際の歌、教会の讃美歌、庶民の子守歌ぐらいだそうだ。日常に音楽は少ないらしい。
ブライトさんはそんな中、貴族の嗜みの楽器で聴いたことのある音楽を繰り返し再現していたのだとか。聴いたことがある曲を自分で奏でられるとは絶対音感ありだよね。ちょっと羨ましい。
クラッシックから現代音楽まで多種多様の無数の音楽に溺れていくことになるんだろうな。どんな曲が気に入ったのかまた聞いてみたい。
プリンタを使わなければ、ケーブルから外して自分の部屋でもパソコンだけでも使えるとお伝えし、外しても検索が可能か、物が買えるか、検証してくれることになって、執務室より解散になった。ソーラーの充電器、バッテリーは予備も含めて複数台複製した。予備がないなんて恐ろしいこと出来ないものね。それもソーラー充電器だ。お天気に左右される。お部屋用に1台、仕事用に1台、それらの予備に各2台と渡しておいた。多めに渡しておく方がいい。予備があるっていうのは心の平穏だからね。
興奮しながら部屋に戻っていった3人は、きっと今日は眠れないんじゃないかな。あれもこれもと思うと気になって触ってしまうだろう。パソコンはそれこそ検索も通販サイトも24時間使えるのだ。危険なものなのだ。




