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次はワインの産地の村だ。アーヴィンさんが力を入れているワイン作り。

既に、葡萄の苗も取り寄せて、堆肥、腐葉土、家畜の糞や、クローバーや豆を育てて漉き込んだり石灰やカリウムなどを入れたり、石を排除したりと出来ることは全部試しておられるそうで、前に比べて勢いがあるらしい。

テレビで見たことがあるフランスの有名なワインの産地のような葡萄畑が続いているのが見えてきた。葡萄の葉が黄色く染まって来ている。あ、赤くになっている葉もある。どこまでも広がるブドウ畑だ。広い。広ーい。綺麗。いい感じー。


村に着くと世話役が出迎えてくれた。マティアスさんというらしい。村で一番大きいワイン工房の工房長をしているらしい。四十代で落ち着いた穏やかな感じのイケオジだ。こっちの国はいろんなタイプのイケオジが多すぎる。わたしはドキドキしぱなっしだ。

マティアスさんにも桜を植えたいと言ってみたところ、広場の近くの街路樹が並んでいる一角をお勧めされた。ここにはベンチが置いてあり、広場の屋台で買ったものを食べたりする人がいるそうだ。憩いの場所ならいいね。

早速アビゲイルに雑草抜いてもらい、土に腐葉土や堆肥を混ぜるのを手伝ってもらう。穴を掘って、植物魔法の使いのナナシ―ノさんが、根付くように魔法をかけて、支柱をたてて、藁を敷いてと一連の作業をしていると、周りに見物客が増えてきた。

みんな興味津々のようだ。「さすが領主家のおかかえの植物魔法使い様だ。見事な魔法だ。」「あの苗はなんの木だろう。」「あの黒髪の人が落ち人様なんだろうか。今回は若い女性だと聞いていたからそうだろう。」とか聞こえてくる声を真後ろにいるジョアンナさんが通訳してくれる。


馬車と徒歩でしか移動方法がないのに、噂はあっという間に届く世界。使い魔がいるからねー。ほんと不思議。


マティアスさんにワイン工房を案内してもらう。アーヴィンさんと秘密の部屋に入ると、そこはブランデー作りの実験工場だった。

本を読んで、図面を見せて、錬金術師と鍛冶屋に頼んで、銅の蒸留器と窯と管が作られていた。今後、燃料は南の森から、オークの樽も注文するそうだ。

それほど美味しくないワインもブランデーにすると美味しくなるそうなので、非常に楽しみだとにっこりされた。


「ハナ様のスキルの恩恵でこの村も活気が出てきました。どうせこの程度しかできないと何の工夫もせず愚痴ばかりだったのですが、日本のワイン作りの本を読みながら、日本の美味しいワインを飲み、土の改良を始め、堆肥、腐葉土、家畜の糞や、クローバーや豆を育てて漉き込んだり石灰やカリウムなどを入れたりと大変でしたが、そうすることで、みるみる間に土が蘇り葡萄がつやつやし、魔法で時間を少し進めて出来たワインは今までの中で一番美味しいものになりました。

ブランデーはこれからですが、希望に満ちています。ハナ様ありがとうございます。」


丁寧にマティアスさんにお礼をされて、恐縮する。わたしが特別何をしたわけではない。アーヴィンさんが頑張って検索しワイン関係の本を探して一生懸命勉強をして、次々導入し指導し足を運んだ結果だ。わたしのパソコンがなかったらできなかったことであるのは確かだけど、なんともいえない座り心地が悪い感じがする。わたしの成果だと胸を張って断言できるほどわたしは強くもないし傲慢でもないし恥知らずでもない。でも、わたしがいなければ達成できなかったのも事実。うむむ。大量のパソコンとスマホをこっちの世界の人に渡した時に覚悟すべきことだったのかもしれないけど、ただただ流されたままに来ているので、そんな覚悟まだないんだよねー。そのうち出来るかな。こっちの世界では17歳だ。向こうでもぺいぺいだった。こっちの世界で一緒に成長できるといいな。


「マティアスさん、お願いがあります。」


こっちの世界で一緒に成長したいと覚悟した今、大事なことがある。


「ハナ様、なんでございましょう。私にできることであればお受けいたします。」


真摯なマティアスさんに隣でアーヴィンさんも気になっておられるみたいだ。


「この村のブドウで、ラムレーズンを作って欲しいです。」


「らむれーずん?ですか?どんなものでしょうか。」


「ブランデーができたら、甘い葡萄を干したもの、あ、少し柔らかさが残る感じのものを陶器かガラス瓶に入れてブランデーに付け込んで下さい。蜜蝋で密封して1週間から1か月ぐらいで出来上がります。美味しいです。パンに入れたり、お菓子に入れたり、冬の保存食にもなります。サトウキビの蒸留酒でもいけると思います。わたし、ラムレーズン好きなんです。ふわっと甘い香りがするのに酒精があって、大人のお菓子が作れます。あ、ちょっと待って下さい。」


ノートパソコンをカバンから取り出し、ラムレーズンのお菓子、バウンドケーキ、アイスクリーム、ラムレーズンそのものを通販サイトから取り寄せる。

謎空間からいきなり箱が出てくるのを初めてみると驚くよね。マティアスさんもかなり驚かれている。


「これです。これがラムレーズンです。アイスは溶けるので、アイスから食べて下さい。」


アーヴィンさんとマティアスさんとブライトさんにラムレーズンのアイスを押し付けて、あ、毒見役の側近の方にも渡して、自分も食べる。なんだか久しぶりのアイスだ。こっちの夏はあまり暑くなり過ぎないのでうっかりアイスを食べずに秋になってしまったんだよね。落ちてきて初アイスだ。


「うっ、これは!氷菓子なのか。美味しい。この黒いものがらむれーずん。ほのかにお酒の香りがして葡萄の味が凝縮していて美味しい。大変美味しいです!」


マティアスさんが興奮している中、アーヴィンさんは真剣に食べている。ブライトさんはアイスの後にバウンドケーキにそのままのラムレーズンももぐもぐ食べていく。ブライトさんは芸術肌の繊細な方かと思っていたけど、食いしん坊でもあるんだよね。いつでももくもく食べているのに気づく。わたしが見ているのに気づいたのか、こっちを見て軽くウィンクしてくる。う、イケオジのウィンクには慣れていないため少し苦笑してしまった。


「これは素晴らしい。葡萄がこんなに素敵な変化をするなんて。ブランデーが出来たら是非作りたい。サトウキビも蒸留酒ができるとお聞きしたので、サトウキビ畑の村でも蒸留酒つくりをしても良いか。ああ、でも、まずはこっちが成功してからだな。」


アーヴィンさんは常に領地の発展を考えておられる。上手くいくといいな。ラムレーズン本当に好きなんだよね。お酒も好きだけど量は飲めないので、ほろ酔い気分になれるラムレーズンはいいんだよね。


お祭りの時間がきて、エールの他にこの地で作ったワインに、先ほどのラムレーズンのバウンドケーキを出すことにした。焼きそばとベビーカステラに紐飴の噂は届いていて、最初から好評だ。自分たちが作っているワインがとても美味しくなったこと、作っている葡萄が更に美味しいお菓子になる可能性があることで、村人の顔は笑顔でいっぱいだ。


美味しいお酒に、美味しい料理、めったに食べられない甘味。ブライトさん選択のお祭りらしい賑やかで踊りたくなる音楽が流れ、歌って踊ってといつもどおりお祭りは成功した。ただ単に出来の悪い葡萄を育てあまり美味しくないワインが出来て日々変わり映えのしない日常に変化が入った今年。みな希望の光を見出していた。収穫祭がこんなに楽しかったのは初めてだ。大人も子どももずっと笑顔だった。少し疲れた感じの男性たちも、今日は少し良い服を着て、お揃いの刺繍入りのスカートをはいた可愛いおばさんたちも少女たちも、みんな笑顔になっていた。幸せな一日だったね。


次の日マティアスさんにスマホの使い方を教え、トークルームの登録をした。ラムレーズンができたら教えてくれるそうだ。「日本のらむれーずんに負けないような美味しいものを作ってみせます!」穏やかなマティアスさんに力強く宣言され、心が温かくなる。いつものとおり大勢の村人に手を振られ感謝の声を掛けられ見送られる。この村も楽しかった。また来ます!



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