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次は少し領都の方角に戻ってココスの町に行く。領都から南の方角にサッチの町、絹さんの村、野菜と森の村と南へ南へと進んできたけど、ココスの村は領都の西側なので、いったん領都に戻る必要がある。領都の領主館でゆっくり一泊し、次の日はココスだ。
今度は西へ西へと進む。
ココスの町は特にこれとった目立ったものがないと聞いていた。普通の町だ。サッチの町とおんなじぐらい3,000人規模だ。サッチの町との違いといえば、サッチの町は豪農地帯で半分は農業に従事していたけど、ココスの町は職人の町だ。武器屋に防具屋、鍛冶屋に金物屋、木工細工に、大工にガラス工房と領都に近く、領都より土地が安いことで工房を持つ人が多い。近くに小さなダンジョンがあることもあって、冒険ギルドもある。職人と冒険者の町ということで荒くれ者も多い。アビゲイルさんがハナ様を守らなくてはと気合を入れているのが聴こえた。大丈夫だと思うけど、少し平和な村を回った後だから、緊張する。
ココスの村でもお祭りの準備をしていると、世話人は冒険者ギルドのギルド長を兼任しているゾイドさんだ。渋いイケオジである。
「サッチの村で、ベビーカステラという屋台の権利を譲ったと聞いた。うちもサッチに負けたくない。焼きそばという屋台を譲りうけたい!」
正々堂々のサッチの村への敵対宣言である。まぁまぁとアーヴィンさんが抑える。とにかく焼きそばがどんなものかわからないのに、欲しいというのも何なので、ゾイドさんに先に食べてもらう。
「お、これは。思ったより、美味しい。この茶色い辛くて甘い、焼けると良い匂いのするソースが決めてだな。この青い粉はなんだ。ふわふわ揺れている茶色い薄いものは生きているのか。赤いのは絹様のご発明の紅ショウガだな。全部一緒に食べるとうまい。これは良い。やはりうちの町で屋台を出したい。」
「焼きそばに使っているソースは、お好み焼きやトンカツにコロッケも美味しいですよ。ソース味わたし好きなんですよ。」
と、雑談のようの話したところ、イケオジのゾイドさんに、がしっと手を握られ、
「ハナ様、今、おっしゃった料理も食べてみたいです。」
強い笑顔で迫ってこられる。イケオジには耐性ないんだよー!
ということで、今、ギルドの厨房にいる。材料はゾイドさんの指示であっという間に集まった。お好み焼きに、トンカツにコロッケ!コロッケは何気に作るのに手間がいるんだよねー。もとは30歳のOLだ。それもいつか異世界に飛ばされるかもしれないと思いながら日々暮らしてきた変わり者だ。お好み焼きにトンカツにコロッケ。異世界で伝授して無双できそうな料理はしっかり作る事が出来る。ああ、無駄にため込んだ知識を今開放せよとばかりにちまちまと作り出す。
面倒だけど、手作りは美味しいよね。
落ち人様の手料理だと、ギルドの料理人が目を見開いているのがちょっとうっとおしいけど、これが異世界なのかもしれないと頑張ってみる。
途中、「キャベツに粉だと!」「肉に何かまわりつけている!」「あああんなに大量の油に!!ジャガイモを茹でて肉をいれて、またまわりに粉をつけて、こっちも大量に油の中にー。」
とか、驚きの実況中継者となり果てたゾイドさんがいたけれど、無事に完成。
出来上がったお好み焼き、トンカツ、コロッケ、熱々が美味しいからソースをつけて召し上がれ。
アーヴィンさんの側近の方が毒見をされたまま、全部囲んで食べようとされたので、アーヴィンさんは遅れてはならぬと自分の分を確保された。焦ったゾイドさんも負けてなるものかと手に取られる。ブライトさんも負けていない。ちゃっかり自分の分は確保されている。あのね、これは主食ではなくて味見。今日のメインはお祭りだから、これは味見だからねー。
「美味しいです。焼きそばもかなり美味しかったけど、これはいけます。お好み焼きの優しい美味しさ。茶色いソースと白いソースが絶妙です。そしてこの肉の揚げたもの、外側がぱりぱりで肉がジューシーでソースが本当に美味しい。そしてジャガイモを揚げたものがここまで美味しくなるなんて。革命です!素晴らしい。これは売れます。」
「トンカツやコロッケはソースかけてキャベツと一緒にパンに挟んでも美味しいですよ!」
「な、なんと。パンを持ってきてくれ!」
即座に作られるカツサンドとコロッケサンド。ソースが染み込んで美味しいんだよね。それにしてもゾイドさん、よく食べる。
一口カツサンドを食べて絶句しているようだ。目が見開いている。美味しいよねー。
「ハナ様、これらのレシピをいただき、うちの町で売ってもよろしいでしょうか。」
真剣な表情のゾイドさんはイケオジの渋みがあってカッコいい。イケオジいいね。落ちてきて本当良かったなと思う瞬間だ。日本では縁がなかったからね。1mmも。
「ええ、構いませんよ。アーヴィンさんさえ良ければわたしは使ってもらっても大丈夫です。」
アーヴィンさんがカツサンドを食べながら、にこにこ頷かれる。それを横目でみてゾイドさんがガッツポーズを取る。
「ありがとうございます。うちの町は荒い者が多いが、このガツンとしたソース味の料理は受け入れられると思う。感謝する。」
業務用ソースはたくさん持ってきたので、参考に渡す。鑑定士と料理人と錬金術師まで呼んで同じ味に作り上げると言っておられる。ソースは簡単にはできないかもしれないけど頑張って下さい。
わたしたちはギルドで料理の試食会をしていたけど、祭りの準備はできたそうだ。アーヴィンさんはここを普通の町だとおっしゃっていたけど、普通の定義がわからない。職人と冒険者の町って結構個性があると思うけどな。
桜の苗をここでも植えさせていただき、アーヴィンさんが祭りの開始の宣言をされる。
武骨な職人さんやマッチョな冒険者が溢れだし、エールで乾杯をする。
後はいつもどおりだ。食べて飲んで歌って踊って。焼きそばに人が集まる。これを俺らがこれから作るんだ!と気合が入っている方々がいっぱいいる。みんな仲が良さそうで良い。
冬に向けて、こたつを作ってもらおうか。職人さんたちを紹介してもらいに行く。ブライトさんに誘われまた踊りに行く。ゾイドさんに恭しく手を取られお貴族様みたいに踊ってみたりもした。少し酔っているせいもあって、下手なのに楽しい。ブライトさんの音楽のチョイスは最高だった。
次の日アーヴィンさんからスマホの説明を受けたゾイドさんからトークルームの登録にわたしも入れてもらった。イケオジと連絡先交換だなんて以前のわたしではありえないこと。まぁ全部の町、村の世話役と交換しているっていえばしているから、イケオジだけではないんだけどね。ここの町でも大量の魔法袋を冒険者ギルドに預けて、冒険者に貸し出しできるようにお願いしておいた。ゾイドさんに大変喜んでいただけた。
「ハナ様から伝授していただいた、美味しいソースの料理は大事にこの町で発展させていきます。是非また遊びに来てください。」
「いつかダンジョンに挑戦してみたいです。その時はよろしくお願いします。」
「ええ、ハナ様ならいつでも歓迎いたします。お待ちしています。」
ここでも町の人々に惜しまれながら手を振って見送られた。優しい人々。どこへ行ってもハナ様ハナ様と笑顔で迎え入れてもらい喜んでもらえる。心通わせる楽しい時間。ほんとこの世界に落ちてきて幸せだな、わたし。




