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次の村は、野菜をメインに育てている村だ。ここはオリバーさんが実験農場化している場所があり、そこで胡椒、ハーブ、メインとしてサトウキビを育ててもらっているらしい。西の公爵領では一番南側にあるので、サトウキビも育つかもしれないと実験されているそうだ。
そう聞いて村に向かっていると、どこまでも続くサトウキビ畑が現れた。え?凄い。もうこんなに?
ファーマーの落ち人が肥料や作付けの工夫や品種改良の種籾が造られ、それらの情報が回ってきて、ましになったのだけど、まだまだ南の農地の収穫量には届いていなかったのだと言う。
それが最近は更にオリバーさんが真面目に指導しに来て、腐葉土も堆肥にちょっと通販サイトで日本の肥料も入れて植物魔法や成長魔法が使える人が、とにかく頑張ろうと進めた結果らしい。
サトウキビの収穫は11月から12月ということで、収穫祭が終った後になるらしい。ちょっと楽しみだね。
桜の木を広場に植えさせていただいて、お祭りの準備をする。この村の世話役は働き盛りの豪農のお1人のゴランさん、がっつりした筋肉質の日焼けをした働き者に見える、この人がサトウキビ畑をめちゃくちゃ広げた人らしい。
アーヴィンさんと一緒にいたところ、ゴランさんから、
「落ち人様、どうか、砂糖を使う美味しいお菓子を教えて下さい、村の特産物にしたいのです。かすてらというものは、サッチの町が主導で今後作っていくと聞きました。うちは同じもので勝負してはサッチに町に負けてしまいます。どうかお願いします。」
深々と頭を下げられ、アーヴィンさんはこっちを見てくる。アーヴィンさんがベビーカステラのことを伝えたんだね。ええい。わかりましたよ。この村で作ることができるスイーツですね。
ゴランさんに、村で作っている野菜を見せてもらう。
ジャガイモ、トウモロコシ、さつまいも、玉ねぎ、キャベツ、ほうれん草、カボチャに人参、大豆に枝豆に小豆。もちろん全部こっちの村の呼び方は違うし、みんな日本の野菜に似ていてそっくりだけど、ちょっと違っていたりする。梅もどきの梅干しと同じ感じだ。
似ているけどちょっと違う。こっちの世界にきてからよく感じることだ。
人が落ちてくるだけではなく、植物の種や苗や他のものも日本からこっそり落ちてきていたんじゃないだろうかと思うぐらい似ている。
この中で、サツマイモとカボチャ、小豆はいるよね。和風なスイーツにしようかと思案。レシピ本を通販サイトで探して購入してみる。あ、完成品も買えるかな。スイートポテトにカボチャ餡の和菓子、キンツバと野菜を練りこんだクッキーをとりあえず味見用に買ってみる。
「ゴランさん、これはお気に召すかわからないのですが、どうぞ味見してください。」
すると、アーヴィンさんの側近の方がすっと出てきてまずは一口、慣れた頃も流されないで毒見ができるのは素晴らしい。と思っていたら、毒見をされたはずなのに美味しい顔をして2口目を食べようとしたのを見て、ゴランさんとアーヴィンさんがお菓子に手を出した。
「お、これは。甘すぎない、いや、甘い。美味しい。ほっとするような甘さだ。これはいい。野菜の味もする。うちの村の味がする!」
「うむ、いいね、美味しい。これは良い。チョコレートとまた違った美味しさだ。公爵領で作ることができると良いな。」
ゴランさんにもアーヴィンさんにも受け入れてられて良かった。作り方の載っている本も手渡したので、後は村で頑張って作って下さい。
「砂糖も作れそうだし、美味しいお菓子のレシピもいただけた。オリバー様にも良い報告ができそうだ。ハナ様ありがとうございます。落ち人様は知恵の塊だと言い伝わってきたけど、まさしく宝玉。良い知恵を授かり感謝しています。」
そこまで褒めていただけると少しおしりがむずむずする。わたしが知恵の塊ではなく、知恵の出所はパソコンであるのだけど、そのパソコンを死守して持ってきたのはわたしだ。だから褒められてもいいのか。悩む!
「この村は小麦や米を作っていない。野菜ばかりで、2番目の村とか主流になれない村だとか言われてきたが、この春、落ち人様が来られてオリバー様がこの村で胡椒を!サトウキビを!作るんだと来られ、みんな驚いたまま収穫祭となってしまった。胡椒や砂糖が取れるようになれば、もう2番手の村と呼ばせない。公爵領の稼ぎ頭として頑張ろうと思う。」
そう力強いゴランさんは決意を語ってくれ、少しでもこの公爵領に恩返ししたいと思った気持ちが伝わっていて嬉しくなった。オリバーさんも真面目だものね。頑張られたんだ。
あと、この村は西の公爵領の一番南側で近くに森がある。森の近くは魔物が出る。公爵家に雇われた兵も定期的に森で魔物を狩っているし、冒険者も多く存在している。はちみつを取りに森に行くのは彼らだ。スライムもこの森から取ってきてくれたらしい。冒険者ギルドもあると聞いた。森の恩恵である腐葉土もどんどん取り入れているという。今後も彼らにいろいろ依頼するかもしれない。複製して増やした大量の魔法袋を冒険者ギルドに預けて、冒険者に貸し出しできるようにお願いしておいた。これで領都でも魔物の素材がどんどん入ってくるだろう。
アーヴィンさんは冒険ギルドにエールの材料のホップが森にないか依頼を出されているそうだ。見つかるといいね。
お祭りの時間がやってきた。
農業をしているマッチョと、冒険者をしているマッチョの多い村でのお祭りは少々野太い声が聴こえ続けたけど、十分に楽しんでもらえた。
エールが足りないという声も聞こえたけど、ここでさっき味見していただいたお菓子をみんなに食べて貰った。マッチョたちも酒ではなくほとんど食べたことがない甘味に不満が消えていったようだ。
野太いマッチョも歌い踊った。細身のブライトさんも小さめのわたしも混ざって踊った。音痴で運動神経もイマイチなわたしだけど、ブライトさんに誘われてから、お祭りで踊るのは楽しいとだんだん実感してきた。体力のある人々の耐久にはかなわず途中でリタイアしたけれど、始終楽しかった。
ゴランさんが、紐飴が砂糖の塊だと知り、これもうちの村で作っていきたいと言われたので、許可したところ。飴の作り方の本も渡しておくねー。
次の日ゴランさんにスマホの使い方を教え、トークルームの登録をしてもらった。「美味しいお菓子ができたら必ず連絡する。」とゴランさんから笑顔で断言され、「楽しみに待っています。」と返す。たくさんの野菜をお土産にいただいたので、時間停止の魔法袋に収納していく。この村も楽しかった。駆け足できて駆け足で帰っていくような短期間の滞在だったけど、どこまでも広がる畑があるフランスのプロヴァンス地方のような美しい村だった。
「ゴランさん、また来ます!」
手を振ると大勢の村人がお見送りに来てくれていた。野太い声で「落ち人様また来てください!」と口々に叫ばれ、心の中が温かくなりながら村を後にした。




