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わたしが落ちてきたのは4月末だった。暑い夏の時期は王宮に行ったり桜を植え続けて過ごし、もうすぐ秋が来る。季節の廻りも日本と同じなんだよね。
秋にはアーヴィンさんが領地を回られる。収穫祭に顔を出すというのがその理由。側近も一緒で、収穫祭に顔を出し、収穫量を確認し、税収入を計算する根拠を確認しに行くっていうことらしい。わざわざ公爵家ご当主が行かなくてもいい仕事かもしれないけど、アーヴィンさんは、領地を持つ人間ならばそこは手を抜いてはいけないと思われているので、毎年10日ぐらいかけて、町2個と村4か所回っておられるらしい。今回それに連れていってもらうことにした。前から約束していたからね。
西の領地を良くしたいといいつつ、わたし自身はパソコンやスマホはどんどん複製したけど、まだ桜しか植えていないしね。あ、赤の部屋はいろいろやったかもしれない。でも、領地のためではなくあれは自分のために必要だったものを少し拡大したっていうだけだしね。
収穫祭に連れていってもらうから、何かご披露しようかと思案する。花見の時にご披露する予定の屋台を1台持っていこうか。
この世界魔法袋がある。ダンジョンもあってそこでドロップしたり、ダンジョンドロップ品から魔道具技師が学んで作り出したりしているのだ。もちろん、ものすごく高価なので、公爵家でも大きいのを1個、小さいのを1個しか持っていない。この小さい方の魔法袋がわたしの魚を届けてくれたものだ。小さいものは時間停止もできる優れものだ。
これをわたしは複製することができるので、アーヴィンさんにお願いされて増やしたところ、お礼に大きい物1個と時間停止付きの小さいのを1個貰ったのだ。大きい方は屋台ぐらいなら収納できる。小さい方でも5m四方ぐらいは収納できるようだ。
パソコンは持っていくので、材料はその場で手にはいるけど、何を作るかで屋台は事前に作っておいてもらう必要がある。お祭りだから、焼きそばかな。それとも甘味が少ないからベビーカステラがいいかな。
アーヴィンさんは、お酒を持っていって、向こうでスープを作りふるまうそうだ。
今回のお酒は日本のお酒の造り方を学んで作ったエールだそうだ。少しズルして通販サイトでホップとか購入したそうだけど、各町や村でこのエールを飲ませて、ホップを見たことがないのか聞いていくそうだ。
よし、わたしも収穫祭の準備をしよう。やっぱり焼きそばは絶対だよね。たこ焼きもやりたい。ベビーカステラやくじ引きとかもやってみたい。
アーヴィンさんに相談してみたら、料理人や侍女に手伝ってもらえばいいと許可が出た。
鉄板やたこ焼きの型、ベビーカステラの焼き型はネットで購入できたので、公爵領の大工さんに屋台に設置してもらった。火は魔道具をつけた。魔石で動かすやつだ。魔石はいくらでも複製するのでどんとこいだ。
最初は自分で作って見せて食べてもらったら、是非作り方を覚えたいと言ってもらったので、料理人に焼きそばとたこ焼きとベビーカステラを作るのを手伝ってもらおう。うむ。どのぐらい作ればいいのか悩む。領都が2万人ぐらいで、町は2個がそれぞれ3,000人ぐらい村は4か所で各400人ぐらいだと聞いた。公爵領でこの規模は小さいのではないかとアーヴィンさんに聞いてみたところ、公爵領はその配下に侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家、騎士爵があり、それらを統括するお仕事もあるので、公爵領地はそれほど大きくないそうだ。
それに、もともとのこの国自体もそんなに大きなものではないらしい。小さな国が落ち人チートで健やかにそれなりに豊かになりつつあるところらしい。
以前お聞きしたところ九州ぐらいの広さに国全体で60万人規模らしい。国は楕円で南北に長い。南は深い森があって魔物も多い。北から東にかけて高い山々が連なっている。西の端が海だ。そして王都が真ん中、東西は気候が良い。それでも、国の広さに対して人が少ないのは、魔物のせいと、土地が痩せていて小麦や米の収穫も少なかったし、疫病もあったからだと聞いた。それが落ち人のお陰で少しずつ豊かになってきたのだという。実りが増え、疫病が減り、保存食が増えた。魔物の脅威は今回の勇者の少年に期待が高まっているという。スライムなら誰でも戦えるけど、ドラゴンとかなると勇者がいないとどうしようもないらしい。人が住める場所を増やしたい。そう思う人も多いらしい。だからこそ、落ち人様の恩恵を受け続けたこの国は落ち人のわたしに優しい。先代の落ち人の成果を自分のものではないのに先に受け取っているような気がして少し申し訳ないような気がする。この優しさをわたしもこの国に返したい。そんな思いを胸に抱く。
収穫祭は公爵領の直轄の2個の町と4個の村で行うそうだ。領都は春に建国祭が王都でする時に同時にお祭りをするらしい。領都は農業従事者がほとんどいないから収穫祭はないんだね。
とりあえず、練習がてらに、領主館で屋台を出してみたい。領主館ならビンゴしてもいいかな。100人ぐらい働いているそうだけど、全員一斉にお休みすることはできない。2回にわけよう。1回50人、これぐらいならば練習に丁度良いのではないか。
料理人も手伝いの侍女たちも2グループに分ける。
出し物は、悩んだ末、わたしの方は、焼きそばとベビーカステラと駄菓子の紐飴とビンゴにすることにした。たこ焼きはたこを入れたいけど、たこはこっちの世界の万人に受けるかどうかわからないので、海辺の村だけやってみようと、とりあえず今回は保留。
ビンゴの商品はアーヴィンさんたちからも出してもらうことにした。いつも働いてくれている使用人への感謝だからね。アーヴィンさんからは日本のお酒。メアリーさんからはチョコの詰め合わせ、オリバーさんからは筆記道具セット、クロエさんからはちょっと気軽につけていけるブローチ、ブライトさんはパソコンで買ったこっちにはない音楽の楽譜の本、ユリアーナさんはオルゴールだ。ゼブランさんは自分が苦労した日本語が読めるようになる知育グッズカルタとかドリルとかだね。リリスさんからは写真を撮って印刷して額にいれてあげるらしい。なかなかみんな良いものだと思う。わたしからは癒しのグッズ。アロマはラベンダー、ゼラニウムにネロリをセットに、アイマスク、マッサージローラ、アロマストーン、癒しグッズやアロマの使い方が載っている本をセットにしてみた。これでぐっすり眠れるはず。眠りは大事だからね。
アーヴィンさんからは、魔法で時間を進めてお試しで作ったエールも収穫祭へ出す前の最終チェックということで皆にふるまわれることになった。忌憚ない意見をよろしくとのことだ。
わたしが収穫祭の時にどのぐらい屋台の量が出るのか調べたかったので、カボチャとたまねぎのポタージュもふるまってくれることになった。できれば当日と同条件で確認したい。
領主館の1回目の練習日、朝から皆そわそわしていた。お祭りの練習なんてやったことないものね。領主館の前庭に、エールの樽が並べられ、焼きそばとベビーカステラの屋台が並ぶ、駄菓子の紐飴は、最初は子どもにいいかなと思ったけど、大人がどんな反応を示すのかも知りたかったので、通販サイトで検索して買って持ってきた。60個入りだからちょっと余るかもしれないけど、おかわり自由にするならと4箱ぐらい。ビンゴは食べて飲んだ後に行うことにした。
収穫祭と同じように昼過ぎから今日がお休みになった使用人が公爵家の前庭に集まってきた。
該当者が全員集まったところで、今日の趣旨がアーヴィンさんから説明される。そう落ち人のわたしが収穫祭に行く前にお試ししたいといったものだ。
「みな、落ち人様のハナ様からの依頼に協力して欲しい。また、日頃働いてくれている皆への感謝も含まれている。食べ物も飲み物も無料、好きなだけ飲み食いしても良い。おかわりも自由だ。今日と明日交代で全員楽しんでもらいたい。さぁ。乾杯!」
アーヴィンさんの挨拶で歓声の声があがる。何がどれぐらい減るのか、町や村に行く前にある程度準備しときたい。
がやがやしていた集まった使用人たち、最初はおなじみの慣れたところ、領主のエールに並ぶ人が多かった。その後スープ。焼きそばはやはりとっつきにくいのか謎食べ物みたいに少し敬遠されている。美味しいのに。お肉とキャベツはこっちの物にした。全部違うとさすがに食べてもらえないような気がしたけど、麺とソースは日本のものだ。焼きそばに使っているソースはこっちの世界にはない。でもソースの焼ける匂いにつられて、何人か食べに行ってくれている。お箸は難しいかとフォークにしたけど、少し食べづらいかな慣れないお箸よりはましだと思ったんだけど。
「あ。うまい!長いのは何かわからないけど、味は濃くて甘くて辛くてなんだかわからないけど、うまい!」
「これは焼きそばです。この長いものはそばと呼びます、それを野菜と肉と一緒にソースで炒めたものです。日本の郷土料理です。わたしが大好きな料理です。」
その声を聞いて、焼きそばにも人が並びだした。その隣のベビーカステラはこれまた得体のしれないものだと思われている。だけど、こっちも甘くて良い匂いなのだ。あ、こっちはリリスさんが忍び寄っている。領主の子なのに、紛れ込んでいる。まぁいいのか。お祭りだし。
「ハナ様!これ。甘いです。ふわふわです。美味しいです!」
「いいでしょ。焼きそばとベビーカステラは、どちらも日本のお祭りの定番なのです。」
わたしとリリスさんの会話を聞いた人たちがベビーカステラにもどっと人が行く。女性が多いみたいだ。
ベビーカステラの袋を抱えたリリスさんが、紐飴の前に止まる。見た目は非常に地味だ。いちごやオレンジの飴は可愛いが、紐がついているのでなんだかよくわからないものだと思われているようだ。
「ハナ様、これは一体なんでしょうか?」
「紐飴といって、ここにある紐をひっぱるのです。外れはなしで、当たりは少し大きな飴が当たるのです。甘いお菓子ですね。」
「甘いお菓子なんですね。わたし試してみます!」
ベビーカステラの袋を抱えたまま、リリスさんがチャレンジする。この飴も今日の当番の侍女さんが手伝ってくれている。
少し悩みながらも、決めたひもを引っ張ると少し大きなオレンジの飴が当たったようだ。さすが恵まれた引きの良いお嬢様だ。
カステラ食べていたのに、飴を口にほおりこむ。淑女らしくはないけど、今日はお祭りだ。許されるのだろう。
「あ、甘ーい・・・。びっくりです、甘くておいしいです。」
「そうなんです。紐飴も可愛くて美味しいのです。りんご飴も狙ったのですが、今回はそこまで無理だったので、また花見の時に考えています。」
こうしてリリスさんが本人の意図しないところでさくらとなったので、その後はスムーズにみんな食べてくれるようになった。
男性はエールに焼きそばのパターンが多い。女性はベビーカステラ何度も食べている人がいる。飴も甘味が少ないこの国ではやはり好評だ。
エールやスープが無くなったところで、食べ物は終了とした。後で何食出たのか確認してみよう。多めに在庫を渡していたから、最後まで提供できたようだ。
「皆さん!お待ちかねのビンゴです。さぁお手伝いの方からビンゴの紙を受け取って下さい。今からビンゴマシーンを動かしてボールを順番に出していきます。ボールには番号が入っているので、ビンゴカードに同じ番号があったら、紙を折って下さい。たてよこななめ、どこでもいいので、一列並んだらビンゴです。ビンゴに当たった人は前の台に賞品がありますので、当たった人から好きなものをお取り下さい。
賞品は、アーヴィンさんからは日本のお酒。メアリーさんからはチョコの詰め合わせ、オリバーさんからは筆記道具セット、クロエさんからはちょっと気軽につけていけるブローチ、ブライトさんは楽譜の本、ユリアーナさんはオルゴールだ。ゼブランさんは自分が苦労した日本語が読めるようになるカルタとかドリルとか一式。リリスさんからは写真を撮って印刷して額にいれてあげます。わたしからは癒しのグッズ。アロマはラベンダー、ゼラニウムにネロリをセットに、アイマスク、マッサージローラ、アロマストーン、癒しグッズやアロマの使い方が載っている本をセットにしました。さぁみんなでビンゴしましょう!」
賞品を聞いてやる気が出た人がたくさん。歓声があがる。ビンゴマシーンはアーヴィンさんに回してもらっている。番号が呼ばれるたびに、歓声と悲鳴があがる。
最初にビンゴしたのは、騎士団の人だった。迷わずお酒をゲットした。残った人からブーイングの声がした。
その後も悲喜こもごもビンゴが決まって賞品が選ばれていく。侍女さんやメイドさんは女性陣が選んだものをやはり選択していく。あれ?わたしの癒しのグッズは人気ない?効果がわからないからだろうか。同じくリリスさんの写真の権利も残っている。写真も何かわからないからだろうか。
ビンゴに当たった侍女長のマーサさんがわたしの癒しグッズを手に取って下さった。癒し方法を教えますよ!リリスさんの写真は若いメイドさんが恥ずかしそうに選んだ。写真の権執行は後日になる。
漫画を読みたいメイドさんがゼブランさんの文字が読み書きできるセットを手に入れて喜んでいる。日本語話せても読めるにはまた違った苦労がいるもんね。頑張れ!
こうして楽しい夜は終わった。明日も同じことをする。参加する使用人さんは今日と交代だ。屋台で焼きそばやベビーカステラを作ってくれたり、袋に入れて手渡してくれたり、紐飴やビンゴの手伝いをしてくれた人も明日はお客さんだ。今日お客さんしてくれた人が明日はお店屋さんになる。
次の日も同じように賑わった。次いでいえば、領主家の皆さんも食べに回っていたし、新しく開発されたエール飲んで思っていたより美味しいと喜んでいた。飴を頬張り、カステラを食べて、焼きそばも2日目に馴染んだ。ビンゴはまた歓声と悲鳴が繰り返されたけど、欲しい人の手におさまっていった。
あと、ブライトさんとユリアーナさんからのご提案で、スピーカーがセットされてBGMがずっと流されていた。お祭りにあった、おもわず踊りたくなる音楽で、ブライトさんとユリアーナさんは端っこの方で2人で仲良く踊っていた。それを見た参加者の一部が楽しそうに踊っていたので、始終なんかお祭りらしかった!良かった!
こうして領主館でのお祭りの練習は終わった。なんだか最後まで好評だったので、来年
も収穫祭に行く前に実行しようかと、今から話にあがっている。
アーヴィンさんとメアリーさんも踊ったそうだ。
集計をしたところ、50人参加の2回分の平均で焼きそばは63食、ベビーカステラは85袋、紐飴は77個出た。参加人数の1.5倍ぐらいあれば足りそうかな。やはり甘いお菓子のベビーカステラは強かったね、1人平均1回は食べて好きな人がおかわりしにいった感じかな。男性はエールもがっつりいっていたしね。それにしてもビンゴかなり盛り上がった。ビンゴは領主館のみで考えていたけど、収穫祭でもやった方がいいかな。修羅場になるかな。アーヴィンさんに相談しよう。
ちなみにビンゴの景品の写真贈呈の2回分のうち最初に選んだ人の若いメイドさんが、見習い騎士さんの写真が欲しいということで、見習い騎士さんにお越しいただきメイドさんの希望のポーズをとってもらい、無事に印刷して額に入れて2人に贈呈したところ、メイドさんを意識した騎士さんと淡い恋が発展しそうだったとか、また発展したら教えてね。
2人目の写真を当てた人はこれまた若いメイドさんで、家族の写真を撮って持っておきたいということで、城下に住んでいるご家族をご招待して、緊張されている家族全員で写真を撮って印刷してメイドさんとご家族さんにそれぞれ写真を額に入れて贈呈したら、感動された。物凄く嬉しいですと写真を胸に帰られ、いいことしたなってちょっと思った。




