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「アーヴィンさん、領都を歩いてみたいです。」
とても爽やかな朝だったので、外に出てみたいと思ったのでお願いしてみた。アーヴィンさんは少し悩まれたけど、
「ハナ様、領都は人が多いので、護衛とジョアンナは連れて行ってください。あと、ゼブランを付けます。黒目黒髪は落ち人様だと誰が見てもわかるのでゼブランがいると人が寄ってくる抑制力になるかと思います。領主の関係者に無礼なことはしないと思いますが、くれぐれも無茶はしないでくださいね。」
イケオジから、つぶらな瞳でお願いされたので、力強く頷いておく。
とりあえず今日は領都に行ける。領地は広いから見て回ると泊まりになるらしいので、アーヴィンさんが1年に1回領地を見回る時に一緒について行くことにしたので、とりあえず足元の領都を見てみたい。
まだ17歳のゼブランさんは日本でいえば高校生ぐらいだ。今は学校を落ち人様制度で公爵領に落ち人を保護した時は休学して様子を見ることが可能だそうでわたしが落ち着いたら王都の学校の寮に戻ると聞いた。え、わたしのために休学!?と思ったけど、落ち人様に家族で挨拶して仲良くなることってこの国では重要視されているのでいいのだそうだ。
学校卒業後は最終的に公爵家の騎士団長になるらしい。大変だね。それも。でも、本人は体動かす方が好きだから、兄上たちと一緒に執務をしなくて済むのでラッキーみたいな感じだった。
適材適所だろうか。アーヴィンさんご家族は皆同じ色合いだけど、ゼブランさんだけ体も大きく髪も短くつんつんしていて爽やかーファイト一発!っていうイメージだ。
落ちてきてから、馬車での移動ばかりで街にはぜんぜん行かなかったので、わくわくしている。日本でいえば5月初旬ぐらいの気候で気持ちが良い。
領主館は領都の真ん中の少し小高い丘に建っている。小高い丘があるのを見つけてそこに領主館を建てて街が広がっていったような感じかもしれない。馬車で丘から下りて領都に辿り着く。
最初は馬車から下りずに見て回りますかと聞かれたけど、どうしようかなと思っていたら、ゼブランさんが「よしっ!」と何か決められたのか、馬車を止めて服屋さん?防具屋さん?みたいな所へ1人で入っていくと、フード付きのマントを手に戻って来られた。
「ハナ様、黒目黒髪は目立って、周りの人から歓迎されて歩けなくなるので、このフードを被って歩きましょう。わたしの隠れた恋人だと思われるかもしれませんが、その方が距離をとってくれるだろうから安心です。さぁ行きましょう。」
わたしたちが降りたら馬車を移動させるみたいで、ゼブランさん、護衛とジョアンナさんと歩いて移動する。街中の下水道は完備しているので、そっち系の匂いはないけど、お肉の焼ける匂い、アルコールの匂い、雑多な埃と人の匂いがむわっとしてくる。人が生活している匂いだ。石畳だけど、少し埃っぽい。人が多くいろんな声が聞こえる。ちゃんとした生活の場だと肌で感じる。
ゼブランさんに手を引かれて、出店や屋台をひやかしていく。
可もなく不可もなくとアーヴィンさんは言っていたけど、謙遜だったのかな。結構賑わっている。異国の空気がしているのに、梅干屋さんや漬け物屋さんがあったりして、落ち人の影響力を感じる。わたしも60年後、こうして庶民の生活に馴染んだものを提供できるのだろうか。日本では地味で存在感すら無かったのに、何かしたいと思うのはここを自分が生きていく地だと自覚したからだろうか。
「ハナ様、あっちの串焼き美味しいんですよ。」
少し感傷的なっていたら、ゼブランさんが全開の笑顔で手を引いてくれる。そうだよね。まずは楽しもう。ここがわたしの生きる場所だったとしても、初めて訪れた場所だもの、しっかり楽しもう。
ゼブランさんのお勧めの串焼きは美味しかった。
肉屋さん、野菜や果物を売るお店、香辛料や調味料のお店、卵屋さん、アクセサリー売り、鍋やフライパンなどの金具屋さん、布がたくさん置いてある店の隣が古着屋さんで囲碁将棋のお店もある、ごちゃごちゃでバザールみたいだ。物価はまだよくわからないけど、領都は活気があるのがいいね。
「ハナ様、何か買われますか?」
「ゼブランさん、わたしこっちのお金持っていないんですよ。」
「ああ、大丈夫です。父上からある程度は持たせてもらっていますから。」
「え、いや、でも、申し訳ないし。」
「ははは。ハナ様って控えめなんですね。これは勉強代だと思えばいいんですよ。この領地をハナ様が一緒に盛り立ててくれるって言って下さったのは嬉しかったです。だから、盛り立てるための、勉強のためのものを買うのは、父上の方がいいじゃないですか。」
「そ、そうですよね、勉強のためなら、買ってもらおうかな。干し肉、小さなアクセサリーと古着と布と果物が気になります。」
「ははは。いいですよ。買いに行きましょう。」
欲しいものも、お土産も買えた。やはり甘味は少ないようだ。砂糖まだお高いって聞いたものね。落ち人の影響か、米と味噌と醤油が売っていた。これらは領主館にも既にあるということなので、今回は買わなかった。ゼブランさんに頼んで購入したものの値段を控えてもらった。何がいくらぐらいなのか、相場を知りたい。ざくっと教えてもらったところ、パンや果物、干し肉など食料品は割と安い。日本相場に換算してみると半額か3分の1ぐらい。でも、古着や布やアクセサリーは逆に倍以上はする。普通に生活していけるけど、贅沢は敵だっていう感じなんだろうか。
だからなのか街の人たちは地味な服を着ている人が多かった。ドレスや色の綺麗な服はお貴族様だけなのかもしれない。靴は簡易な皮のもの。皆が持っているカバンも革製の物が多かった。ゼブランさんに聞くと魔物の革が多いらしい。いろいろ欲しいものが買えた後、最後に教会と孤児院にも寄ってもらった。
「ハナ様、ここが教会で、孤児院が併設されています。領都には孤児院は2軒あります。落ち人様の恩恵もあって、スラムは無いはずです。この辺は、保存食の製造の仕事に就くものも多く、梅干しや漬け物、切り干し大根や干し柿等季節のそれぞれで従事する仕事が発生するのでぎりぎり大丈夫なはずです。
この孤児院は冒険者夫婦が案件に失敗した後孤児になったり、流行病で親が亡くなったりする子が多いです。流行病も医師で錬金術だった落ち人様のお陰で病気に効く初級ポーションが出回ったおかげで以前に比べると随分ましになりました。
また、農業関係で、肥料作りの仕事も南の公爵領から知識が出回っていますので、領都の近くでも、それらを仕事とする者もいます。東の公爵領からの囲碁と将棋の駒造りも細工師のスキル持ちがリバーシと一緒に作りだしており、そちらも庶民に順次浸透してきています。孤児院でも、子どもたちの興味のあるもの、得意なものを仕事にできるようにといろいろ取り入れていると聞きます。孤児院の中に畑もありますよ。」
「ゼブランさん、ご説明ありがとうございます。この領都に活気があるのがわかってきました。落ち人効果ってあるんですね。わたしも頑張りたいです。」
ゼブランさんに案内してもらった教会と併設された孤児院には子どもは10人ぐらいかな。畑仕事をしている子や、鶏の世話をしている子がいる。生成りのワンピースやズボンだけど、つぎはぎはありそうだけど、見た目は小綺麗だ。洗濯をして丁寧に着ていますという感じはする。生活魔法は庶民にも使えるというから浄化を使っているのかも。あれは便利だものね。
みんな小さな子なのに、仕事をしている。勉強や遊びを教えてあげたいな。でも、働かないと生活できないのかもしれない。その辺、もっとわたしが勉強しないと。
ゼブランさんが教会の司教さんに会い、寄付金を渡していた、領主一家が顔を出した時にはそうしているのだそうだ。もちろん、月々も定期的に補助金を渡していると聞いた。
ほんと、自分に何ができるのか今はわからないけどおいおいだね。




