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誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

わたしは少し変わった子どもだった。

ここではないどこかへいつか飛ばされるのだと信じていた。

わたしが子どもの頃は異世界転移も転生の話もほとんどなかった。似たものとしてタイムトラベルもの、パラレルワールド系が主流だったので、飛ばされる先は過去の世界か、こことは違う似た別の世界だと思っていた。


いつ、飛ばされてもいいように、サバイバルの本を読み、植物図鑑で食べられる植物を勉強し(きのこは多すぎるのとヤバすぎるので途中で学ぶことを諦めた)、水の浄化装置を夏休みの自由研究に選び、地学部に入り、星の見方、天気の読み方、地質について学んだ。

小学生の頃は外出には必ずポシェットを持ち、ポシェットの中に、ソーイングセットや救急セットをいれて、いつでも何かあっても良いように、またこことは違う世界でも生きていけるようにと準備していた。


大学生になって実家から独立して一人暮らしになってからは、大き目のショルダーバックに貯めていたお年玉で買ったノートパソコンを持ち運んだ。もちろんソーラーの充電器、バッテリーを必ず持ち運び、就職してからは、奨学金を返しながら、余ったお小遣いで、パソコンの中には百科事典や雑学系、家庭の医学、料理のレシピやクラッシックなどの音楽も課金ダウンロードして充実させた。好きな音楽以外にも好きな物語も電子書籍を貯めこんでいった。

常備薬に何かあった時に売りさばけるようにパワーストーンや過去に行っても困らないように、年号が古い小銭や古銭や金貨を予備の財布に入れて持ち歩いた。


そう、少し変な子どもは少し変な大人のまま成長してしまった。

何かあった時にために、体も鍛えた。少し重いショルダーバックには非常食も入れていたし、毎朝、必ず新しい水のペットボトルも入れて、いつでもお泊りできるだけの準備を持ち運んでいた。


何かあってからでは遅いのだ。そんな気持ちが常にあった。

いつどこかに飛ばされても生き残れるようにという気持ちを持つなんて中2病みたいだなと自分に対して苦笑するけど、どこかへ飛ばされた時の準備をすると気持ちが落ち着くからある意味これも趣味だと開き直っていた。


そんな変わり者の日々を過ごしていたら、仕事が激務のせい体が怠い日が多くなってきた。少し疲れがたまってきているのかもしれない。両親とはちょっと疎遠で、彼氏も夫もいない。変な大人なんで、友達もいない。あ、地学部の友達は友達かもしれないけど、最近会えていない。近しい人がいない今、体調不良時に連絡する人も相談する人もいない。不安や不調を抱きかかえ、仕事に行くだけの毎日。ストレス発散にキャンプ用品のサイトを覗きにいき、いつかどこかに飛んだ時に必要なものを想像しては癒されていた。

20代も後半、疲れが取れないのは仕方がないのかな。

そういえば、男性は童貞のまま30歳になったら魔法が使えるよういなると聞いているけど、女性はどうなんだろう。30歳まで処女なら魔法は使えるようになるんだろうか。

明日はその30歳の誕生日だ。魔法使えるようになっていればいいな。そんなバカみたいなことを考えながら30歳になるということ、若さが失われていく漠然な不安を感じていた。


次の日、仕事中に眩暈がして、立っていられなくなった。これはちょっと無理だ。目があけていられないので仕事も出来ない。隣の同僚が心配してくれて、早退の手続きを取ってくれた。よほど酷い顔をしていたのだろう。

これは普通ではないと自覚したから辛くても病院に足を運んだ。平日だというのに、病院は人で溢れていたが、自分のことで精一杯で外のことを気にすることもできない状態だ。どのぐらい経ったのかわからないが、診察室に呼ばれ、あれよあれよという間に検査を受け、家族の有無を聞かれ、遠方に住んでいるうえ疎遠になっているなどと答え、どこか自分ごとではないように会話が進み、自分がステージⅣの末期癌だと宣言された。


ふらつく足で人込みから抜け出し、家の近所の堤防で佇んでいた。

いったいどうなっているんだ。さっぱり理解できない。


頭が動かない。立っているのは辛くて今は座り込んでいる。土手の土と草の匂いも病院の話のせいで遠くに感じる。抗がん剤治療は検査してみないとわからないけど、体質に合わないと使えないと言われた。緩和ケアの説明までされた、頭の中で情報が繋がらない。今日は誕生日だというのに。

なんで、わたし何も悪いことしていないのに!ああ、癌になっている人が悪いことをしたわけじゃないっていうのはわかっているんだけど、どこにどう当たっていいのかわからない。なんで、どうして、と言葉にならない言葉で頭がぐるぐるする。何時間座っていたんだろう。

回りを見ると薄暗くなってきている。少し日が落ちてきて、空に満月が顔を出したその時だ。

体がぐらりと揺れる。お、落ちる!どこに?目の前が真っ暗になる。やばい。と思った時には意識が飛んでいた。


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