第39章『 行くべきか、行かざるべきか 』
優一の視点
ほとんど一晩を費やし、義姉に近づくための策をあれこれと練っていた。誤解しないでほしい。やましい感情があったわけではない。……いや、まったくなかったと言えば嘘になるが。
本当の理由は、もっと単純な「必要性」だった。
麗華を監視しなくてはならなかった。真実を知られては困る。用意しておいた嘘を信じてもらわなければならない。はあ……海斗のことなど、早く頭から追い出してほしかった。
昔から言うだろう。「敵は身近に置け」と。
その目的のためなら、どれだけ冷たくあしらわれようが、今日も彼女を見張るつもりでいた。だが、どうすればいい? 彼女が自分に向ける憎悪は、嫌というほど思い知らされている。
それを踏まえれば、選択肢は二つしかない。行くか、行かないか。
行かなければ、数日ほど距離を置くことで、多少は険悪な空気を和らげられるかもしれない。しかし、その間に真相へ辿り着く危険があった。一方で、行けば行ったで、昨日のように第二の衝突を招く可能性がある。
いわゆる「詰み」というやつだ。だが、昔から何事も、危険を恐れてばかりでは得られるものも得られないと信じている。
だから、行くことに決めた。兄の件が露見するくらいなら、揉め事のひとつふたつの方がまだましだ。
麗華のそばに居座るつもりなら、場所とタイミングを選ばなければならない。人目のあるところなら、彼女も多少は抑制してくれるだろう。たとえそれが表向きだけでも。
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そして今、こうして彼女の勤め先の建物の前に車を停めている。そう、仕事帰りを迎えに来たのだ。時刻は夕方、もうすぐ六時。十分もすると、社員たちが次々とオフィスを出て通りへ溢れ出してきた。だが、麗華だけが現れない。逃げられないよう手は尽くしたつもりだったが、それでも彼女も車も駐車場から出てこない。
結局、一時間近く待たされた。だが、諦めかけたその時だった。ようやく姿を見せたのだ。彼女は自分の車には向かわず、真っ直ぐこちらへ歩いてくる。ひとりで。歩き方を見ただけで、怒っているのがはっきりわかった。
窓を少し下げ、軽く微笑んで声をかけた。
「今日は長かった?」
麗華は一メートルほど離れた場所で立ち止まり、腕を組んだ。そして、どんな男の心でも凍りつかせるような声音で言った。
「ここで何をしているの?」
明らかに、僕の顔など見たくもないといった様子だった。黒い瞳は底が見えないほど冷え切っていて、距離があっても、額に青筋が浮かんでいるのが見えたような気がした。




