第19章 『奨学生』
午前九時を少し過ぎたころ、ようやく式典が始まった。出席は義務だったので、仕方なく会場の体育館へと足を運んだ。できるだけ目立たぬよう、いちばん後ろの席を選ぶ。
式典そのものは、どこにでもあるありふれたものだった。まずは校長の挨拶。白髪まじりの年配の男で、低く厳しい声には妙な迫力があり、聞いているだけで背筋が伸びた。
生徒たちは形ばかりの拍手を送ったが、その音には心がこもっていなかった。そしてようやく、今日の主役たち——新入生たちが列を成して入場してきた。
どうして奨学生だけで、こんな大げさな式を開く必要があるのか。そう疑問に思う者がいたとしても無理はない。実際、無意味といえば無意味だ。だが、うちの校長はそういう人間だった。この企画を考え、保護者代表に提案したのも彼自身だという。
ご存じのとおり、私立鳳誠学園では、名目上の権限こそ校長にあるものの、実際に学校を動かしているのは保護者たちだ。つまり、多額の学費を支払う彼らこそが、この学園の「顧客」であり、学園とは名ばかりの、一種の企業だった。
奨学生は全部で四人。数日前、高村が言っていたとおり、男子一名に女子三名。
一見したところ、特に目立った特徴はなかった。鳳誠学園の制服を着ており、腕が三本あるわけでも足が四本あるわけでもない。それなのに、体育館中がざわめきに包まれた。まるで珍しい生き物でも見るかのように。
ひとりは赤い髪の少女、もうひとりは青く短い髪の少女、最後のひとりは黒髪を高い位置で束ねていた。外見はどこにでもいそうな生徒たちだが、なぜか彼女たちにはほのかな光のような、不可思議な気配があった。暗闇の中でひときわ輝く灯のように。
男子のほうは、逆にどこまでも平凡に見えた。……いや、よく見ると、少し自分に似ている気もした。
人見知りの、どこか控えめな空気。人気者には決してなれないタイプ。長めの前髪が顔の半分を隠していた。式典の中で印象に残ったのは、そのことくらいだった。
あとは校長の最後の一言だけ。
「——諸君。これは鳳誠学園にとって、大きな好機である。我々が“優秀さの象徴”として認められるためのな。」
低く響く声が体育館いっぱいに広がった。おそらくマイクがなくても、十分に聞こえるだろう。
「そのために、より多くの優秀な学生が我々に憧れるよう、明日から三日間、本校の施設と授業を見学してもらうことにした。他校から数名の生徒が来る予定だ。」
場内が一気にざわつく。だが校長が片手を上げると、すぐに静まり返った。
「心配はいらない。授業は通常どおり行う。」
すると今度は、どっと落胆のため息が広がった。私も同じ気持ちだった。たまには授業が休みでもよかったのに。
「それでは諸君、来客に対して礼を失せぬよう心がけてほしい。以上だ。解散。」
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いつものように帰宅し、途中で何か簡単なものを買って帰った。
一人で静かに食事をとり、食器を洗い、他の部屋には寄らずに自室へ籠もる。
午後五時までは、適当に映画を見たり、ライトノベルをめくったりして時間を潰す。七時になると宿題を始め、そのあとで出前を注文するのが常だった。もちろん、麗華の分も。昨夜の彼女はひどく疲れていたようで、今朝は夕食の希望を聞けなかった。
メッセージを送ろうかとも思ったが、いざ文章を考えるとどれも気恥ずかしくて、結局やめた。今日は直接聞こう——そう決めて、注文の品を待つためにリビングへ降りた。
それが、いつの間にか私の日課になっていた。




