第2話 悪評と孤立、そして計画 ――朝の挨拶は、空を切った。
◇
朝の講義室。
大扉を押し開けた瞬間、ざわついていた空気が波紋のように引いた。
開いた口を閉じる音、羽根ペンを止める気配。
全てが一瞬にして静まる。
「……おはようございます」
澄んだ声でそう告げても、返事はなかった。
机の上で本を伏せる音、椅子を引き直す音だけが返ってくる。
視線はすぐに逸らされる。
正面にいた旧友のクララは、わざと落とした消しゴムを拾うふりをして顔を背けた。
たしか昨日までは笑って手を振ってくれたはずなのに。
自分の席へ向かうと、右隣に不自然な空席がある。
いつもそこに座っていたはずの生徒の鞄は、二つ先の机に移されていた。
――一席分の距離。
それが、目に見える形で彼女と周囲を隔てていた。
だがレティシアは表情ひとつ変えずに椅子を引いた。
静かに腰を下ろすと、革表紙のノートを取り出し、ペンを走らせる。
冷たい視線を浴びながらも、新しい頁に書き込んでいく。
《計画:四本柱》
剣の基礎――一撃の質を高めるための「間合いの行」。足運びの再矯正。
魔術――詠唱省略を段階的に訓練。属性干渉の安全域を確認。
戦術――模擬戦ログを数値化し、定量分析。
証拠――妹分扱いされていた使用人の証言を確保。出納帳の写しを収集(改竄検知用の墨汁しみパターン付き)。
(噂の出所は二つ。王子派とミリア派。王子派は殿下の庇護に酔い、楽観的。ミリア派は焦りゆえに手を早める。……焦りは必ず言葉の綻びを生む)
そう書き添え、ペンを止める。
教壇の教授が入ってきたときには、彼女の心はすでに平常に戻っていた。
◇
昼休み。
食堂に足を踏み入れると、椅子が一斉に軋む音を立てた。
合図のように囁きが止む。
「……」
レティシアは無言で盆を取り、タンシチューを受け取る。
湯気が立ち上り、冷えた頬に当たった。
視線は冷たいものと恐る恐る伺うものに分かれる。
だが、どちらも彼女に近づこうとはしない。
長机の端に腰を下ろし、静かにスプーンを運ぶ。
肉と野菜の温もりが喉を通り、胸の奥に沈んでいく。
(温度を取り戻す……食べることは軽んじてはならない)
父の言葉を思い出す。
「どれほど孤立しても、飯を抜けば自滅する」――冷酷だが正しい助言だった。
タンシチューを半分ほど食べ終えたころ、背後から小さな囁きが漏れた。
「殿下に婚約破棄されたんだって」「あんな令嬢、もうおしまいよ」
「……でも、事故を止めたって話も」
「そんなの作り話でしょ」
レティシアは一口だけ水を飲み、言葉を聞き流した。
痛みは確かに胸を打つ。だが、痛みは集中の燃料にもなる。
(孤立は、燃料。……私を前に進める火種)
◇
◇
午後の講義が終わると、レティシアは自然と図書塔へ足を向けていた。
石畳を踏みしめる音だけが響く。
誰かに声をかけられることもなく、道を譲られるでもなく。
孤立はすでに日常の一部となりつつあった。
重厚な扉を押すと、冷たい空気と静寂が迎えた。
高窓から差し込む陽光が、舞い上がった埃を金色に染めている。
ここだけが、学園の中で息をつける場所だった。
「……」
書架の影に一人の青年が座っていた。
銀髪を後ろで無造作に束ね、制服の上着を椅子にかけている。
彼の目は分厚い書物の頁に落ちており、こちらに気づいた様子もない。
レティシアが机に近づくと、青年はゆるやかに視線を上げ、黙って一冊の本を差し出した。
『王家戦術史・補遺』。
王国軍学の失敗例と修正案ばかりを集めた稀少書。
通常は閲覧に特別許可が必要で、学生が手に取ることなどまずない。
「……なぜ、これを?」
思わず問いかけると、青年は短く答えた。
「独学は過酷だ。けれど、独学でしか辿り着けない場所もある」
言葉は淡々としている。だが、その瞳の奥には熱があった。
名を問うと、「いずれ」とだけ答えて再び読書に戻る。
その距離のある眼差しが、逆に鮮烈な印象を刻む。
(彼は……何者? なぜ、私がこれを必要としていると知っていたの?)
胸に疑問を抱えつつ、レティシアは補遺の頁を開いた。
失敗を恐れず、記録し、修正する。
まるで自分の歩む道を肯定されているようで、胸の奥が熱くなった。
◇
夜。寮の自室。
窓の外は闇に沈み、蝋燭の炎だけが部屋を照らしている。
机の上には、古い実験魔方陣の写し。過去の学術大会で失敗とされた式だ。
レティシアは羽根ペンを取り、式を分解して紙片に落としていく。
線を引き、削り、書き換え、重ねる。
失敗の痕跡を辿りながら、新しい形を組み上げる。
「……呼吸を基準にすれば、同期はもっと速くなる」
独り言のように呟き、短冊に割り付けていく。
羊皮紙、麻紙、そして布。
布の柔軟性なら、剣術との融合にも適応できるはずだ。
窓の外を夜風が吹き抜け、炎が揺れる。
孤独は冷たい。
けれど、その冷たさは集中の刃を研ぎ澄ます。
「語るより示せ」
声は小さく、しかし確かだった。
痛みを押し込み、孤立を燃料にして、紙の上に新しい式を刻み続ける。
◇
◇
夜更け。
紙片を並べ終えたレティシアは、蝋燭を指で覆うようにして火を細くした。
視界が暗く落ちると、音がよく聞こえる。
自分の呼吸。心拍。窓の向こうを渡る風。
それらを“基準”として身体に刻み直す。
(剣の基礎は朝。魔術の再構成は夜。戦術は昼のうちにログをまとめる。証拠は……明日の一限と三限の間)
予定をノートに書き込み、蝋燭を消した。
闇が一気に落ちてくる。
孤独は冷たいが、いまは怖くない。
冷たさを燃料にする方法を、もう知っている。
◇
朝。
中庭の端、まだ霜の残る石畳の上で、レティシアは歩法を反復した。
「間合いの行」――一撃の質を担保するための、最小限の歩。
前へ、斜めへ、半歩だけ引く。その場で回す。
布短冊は使わない。基礎に頼る日は、基礎だけで立つ。
一連の型を終えると、手袋の中の指が温まっていた。
胸の奥も同じ温度になっている。
温かいものは、折れにくい。
◇
一限目と二限目のあいだ。
校務局の裏手にある小さな面談室。
そこに、レティシアは一人の少女を呼んでいた。
「来てくれてありがとう、ルイーザ」
呼ばれた少女は、つい昨日までアーデル家の別邸で働いていた使用人だ。
年は十四。小柄で、手は皿洗いの痕で少し荒れている。
レティシアは、湯気の立つハーブティーをまず差し出した。
「緊張しなくて大丈夫。今日お願いするのは、あなたが日々見た“事実”をそのまま紙に書いてもらうことだけ」
「……はい」
ルイーザは小さく頷く。
レティシアは二枚の紙を並べた。
一枚は聞き取り用の罫紙。もう一枚は出納帳の写し。
「これは屋敷の“買い付け”の写し。ミリア嬢が『アーデル家の書庫から鍵を奪われた』と訴える以前の週と以後の週――墨汁の“滲み”の癖が違っているの、わかる?」
ルイーザは紙を傾け、光に透かした。
古いインクは鉄と樫の虫こぶを主とする。光の下で褐色が強く、乾くと黒く沈む。
新しい方は青が少し強い。プルシャンブルーだ。
“手”が違う。つまり、書き替えられている可能性がある。
「……私、台所で、インクの染み抜きをしたことがあって……色、違います」
「ええ。あなたのその“日常の知識”が欲しかった。『違うものは違う』と、あなたの言葉で書いて」
ルイーザは震える指でペンを握った。
「字がきれいでなくてもいい?」と問う声に、レティシアは即答した。
「事実がきれいなら、それで十分」
インクが紙の上に落ち、線になる。
内容は簡素で、しかし強かった。
――『わたしは、レティシア様が書庫の鍵を取り上げるのを見たことがありません。鍵はいつも管理台帳のところにあります。
出納帳のインクは、先週と今週で色がちがいます』
書き終えた紙を、レティシアは封筒に入れ、封蝋した。
蝋が固まるまでの短い沈黙の間、ルイーザが小さく呟いた。
「……私、レティシア様が怖かった。でも、きのう、事故のとき、助けてくれたから」
レティシアは首を振った。
「助かったのはみんなのおかげ。私一人では何もできない」
「それでも……ありがとうございます」
礼は、短くとも重かった。
扉が閉まると、面談室には再び静寂が戻った。
レティシアは封蝋が冷えたことを確かめ、書類をカバンに入れた。
(証拠、ひとつ。次は――出納の原本照合)
◇
三限後、校務局。
帳簿を守る年配の書記官は、レティシアの顔を見ると眉を上げた。
「また君か。先日の事故報告は見事だったが……今度は何を?」
「記録の照合をお願いします。噂のほとんどは“言葉”ですが、記録は言葉を越えます」
「もっともだ。だが、原本は簡単には見せられん」
「閲覧の代わりに、これを提出します」
レティシアは、王宮で受け取った“個人への盾”――研究騎士団の古い印章が刻まれた金属板を見せた。
書記官の表情が変わる。
「……君に、これが?」
「ええ。今日の用件は学術の範囲に留めます。政治は要りません」
書記官は数呼吸ののち、鍵束を取り出した。
「閲覧ではなく、照合ならばよい。私の手元でめくる。君は見るだけだ」
机の上に原本が置かれる。
ページをめくるたび、紙が低い音で鳴く。
レティシアは、出納の欄外に薄く残る“押し跡”に目をやった。
前週の筆圧と、今週の筆圧が違う。
インクの色だけでなく、手の重さが異なる。
「この週から、記帳の手が変わっています。理由は記されていますか」
書記官は鼻を鳴らした。
「……代理記帳、派遣の書生。理由は“忙殺”。――忙しい時ほど帳簿は乱れる」
「乱れるときほど、乱れ方に癖が出ます」
書記官がわずかに口元を緩めた。
「君は冷たい。だが、帳簿が好きだ」
「数字は嘘をつきませんから」
照合を終え、書類に“照合済”の印が押される。
狭い部屋に、刻印の乾いた音が響いた。
彼女は紙をまとめ、深く礼をして部屋を出た。
(証拠、二つ。――次は戦術ログの整理)
◇
夕方。
武道場の隅で、レティシアは模擬戦の記録球を再生した。
透明な球体の内側に、さきの初戦の映像が浮かぶ。
自分の歩幅。相手の踏み込み角度。木剣の接触点。
それらを数値に落としていく。
「――君、また一人でやってるのか」
声の主は、監察官の青年だった。
昼間、公式記録の管理に動いてくれた男だ。
彼は武器庫の鍵束を肩で鳴らしながら、半ば呆れた顔で近づいてくる。
「記録球の貸出は二時間までだぞ。あと十分で交代が来る」
「承知しています。――見ておきたい箇所は二つだけ」
「どれだ」
レティシアは映像の一点を指差す。
自分が“受け”に入った瞬間、呼気の底に布短冊を合わせて、剣筋を滑らせた場面。
青年は唸った。
「……音がない。術の音がしないから、誰も“術だ”と気づけない」
「術ではなく剣です。術が剣に馴染むだけ」
「言い張るな。俺の目には術だ」
「審判の目に術と映るなら、術でしょう」
レティシアは肩を竦めた。
「だから、公開実証を用意します。呼吸同期の“補助具”としての布短冊。審判規定の範囲内であることを、数字で示す」
青年は目を細めた。
「……本当に“数字”で殴る女だな、君は」
「それが一番、後腐れがありませんから」
青年は笑い、鍵束を鳴らした。
「二回戦の組み合わせ、見たか?」
「いいえ」
「相手は、魔術科の首席だ。アーサー・ヘイル。――王子派に近いが、腕は本物だ」
胸の奥で、何かが静かに熱を帯びた。
恐れではない。
未知の難度を見たときにだけ生まれる、集中の予感。
「……ありがとうございます。準備します」
「それともう一つ」
青年は声を落とした。
「殿下の取り巻きが、“不正の疑い”を仕掛けてくる。公開の場で“判定そのもの”を揺さぶるつもりだ。審判席に口を出させない準備をしておけ」
「審判規定の“補助具条項”の解釈ですね。――既に草案を作っています。審判長に事前相談に行きます」
「先回り……ほんと、容赦ないな」
容赦は、もうとっくに置いてきた。
奪われた評判を、言葉で取り返す気はない。
数字と手順で取り返すだけだ。
◇
夜。
図書塔の階段を上がる足音が、一段ごとに石に吸い込まれていく。
最上階の読書室に入ると、銀髪の青年が窓辺で本を閉じた。
今日も名乗らない。
だが、机の上には彼の手になる簡潔なメモが置かれていた。
《王家戦術史・補遺 注:複数同期の破綻は“合図の乱れ”から始まる。
人は視線と呼吸に嘘をつけない。足音は練習で変えられる。
――“嘘をつけない部分”に基準を置け》
レティシアは、その一文を指でなぞった。
(視線、呼吸。――剣に合わせるのは呼吸。戦術の合図に使うのは視線)
「助言、感謝します」
青年は窓外へ視線を流したまま、僅かに頷いた。
「君の“敵”は、君の外にいるようで、たぶん半分は内側にいる。
焦りも、怒りも、寂しさも、合図を乱す。
――それを“基準”の外に置けるなら、君は負けない」
レティシアは息を吸い、ゆっくり吐いた。
「置きます。――外に」
青年は微笑を残し、灯りを一本、彼女の机へと寄せた。
それ以上は何も言わず、影の中に姿を溶かした。
(名乗らないのは、理由があるのでしょう。正体は――いずれ)
◇
寮に戻ると、机の上に一通の通達が置かれていた。
封蝋は学園紋。差出は「記録・倫理委員会」。
《明日、三の鐘。
“不正疑義に関する予備審問”をおこなう。
対象:布短冊を用いた補助技術の適法性。
出席者:審判長、監督官、外部監察官。》
(来た)
レティシアは紙を丁寧に折り畳み、既に用意していた資料束を鞄に入れた。
布短冊の物理的特性、術式依存度の低さ、呼吸同期による“意思決定の反射”の無介入性――。
すべて“補助具”の範囲内であることを、実測値と映像で示す。
言葉ではなく、数字で。
机の端に置いた別の封筒に指が触れる。
午前に作成した、ルイーザの陳述書。
そして校務局で照合を終えた出納帳の写し。
これも、委員会に提出する。
彼女が“断罪劇の道具”ではなく、“学術の場の一受験者”であることの最低限の盾として。
(――守るべきものがふえた。なら、やることは、減る)
優先度の低いものから切り捨てる。
私的な反論、噂の相手への直接の抗議、感情の吐露。
どれも効果が薄い。
一方で、実技の準備、公開実証の資料、証拠の提出――これらは、必ず場の空気を変える。
(“語るより示せ”。――明日、示す)
◇
翌日。
記録・倫理委員会の室は、いつもより来客が多かった。
審判長、監督官、外部監察官。
その後方には、王子派の生徒が数名。
ミリアの姿も、扉の隙間に見え隠れする。
審判長が短く口火を切った。
「本件、“布短冊を用いた補助技術”が、武道大会の規定に抵触するとの疑義が出ている。――主張を述べよ、アーデル嬢」
レティシアは一歩前へ。
「規定第九条“補助具の使用”は、『使用者の身体機能を直接拡張する装置』を禁止しています。
私の用いた布短冊は、術式ではなく“呼吸の合図の揃え”に用いる小道具であり、筋力・反射を拡張しません」
資料束を開く。
「こちらが、布短冊と紙短冊、未使用時の反応値の比較です。
平均接触時間、応力吸収率、呼吸同期時のラグ。
数値はすべて“術式なし”の範囲に留まっています」
監督官が身を乗り出す。
「映像はあるか?」
「あります。――こちらを」
記録球が投影する。
呼吸の底で短冊が“吸う”ように腕の動きを受け、衝撃の尖りが丸くなる。
剣の速度は変わらない。
変わっているのは“揺れの伝わり方”。
審判長が腕を組む。
「……術というより、工夫だな」
「ええ。――工夫です」
王子派の一人が声を張った。
「しかし、“術の音”がしないだけで、術である可能性は否定できない!」
外部監察官が淡々と返した。
「音がしないなら、なおさら判定は“補助具”。術の立証は“仕掛けた側”の責務だ」
審判長が判じた。
「異議は後日、追加の証拠とともに受け付ける。――現時点、本件、補助具として“許可”。
ただし“剣に術を溶かす”との言い回しは誤解を招く。以後、公的には“呼吸同期の布補助”と記すこと」
「拝命します」
息がそっと抜けた。
小さな勝利。
だが、確かな勝利。
会議散会の合図とともに、人の流れが廊下へ溢れる。
扉の外に、ミリアが立っていた。
顔色は青く、指先は強く握られ、爪が白い。
「……あなた、どうして……」
「どうして、何?」
「どうして、そんなに平然としていられるの」
レティシアは、返事を選ばなかった。
問いは、答えを必要としていない。
彼女はただ、頭を下げた。
「講義に遅れますので、失礼します」
ミリアの胸元で、何かが小さく軋んだ。
それが嫉妬か、恐怖か、罪悪感か――いま確かめる必要はない。
数字が進めば、答えは自ずと浮かぶ。
◇
夕刻、掲示板。
二回戦の組み合わせが貼り出され、人だかりができていた。
《第二回戦 アーデル嬢 vs アーサー・ヘイル(魔術科首席)》
ざわめきが広がる。
「首席と当たるのか」「終わったな」「いや、昨日の委員会、通したらしいぞ」
評価の揺れは、風向きのように変わる。
だが“風”に煽られる必要はない。
歩く速度は、いつも通りでいい。
視界の端で、銀髪の青年がひとり立っていた。
相変わらず名乗らない。
彼はほんの少しだけ顎を上げ、ひとつの仕草で“準備を怠るな”と告げた。
レティシアはわずかに頷き、図書塔へ向けて歩き出す。
(剣――朝の歩法をもう一段。
魔術――布短冊の材質を薄く、呼吸同期の誤差を削る。
戦術――アーサーの過去映像から“詠唱捨ての癖”を抽出。
証拠――追加で、王宮の記録室に照会……)
計画は、もはや彼女の歩幅そのものだった。
歩くたび、細かな項目が足裏で確認される。
迷いは、呼吸の外に置く。
焦りは、合図の外に置く。
学園の尖塔の影が長く地面に伸び、夕鐘が鳴る。
レティシアは、塔の扉に手をかけ、静かに押し開けた。
頁の匂いが満ちる。
ここが、彼女の“戦場”だ。
――語るより、示す。
――嘲笑より、数字。
――断罪より、勝利。
夜は深くなる。
けれど、灯りは足りている。
第2話は、ここで終わる。
次に続くのは、より大きな舞台――“首席”との正面衝突だ。
ありがとうございます。