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親友の再開


「優莉!」


 名前を呼ばれて振り向くと、息をあげて走ってくる玲央がいた。顔が……なんだか怒っているように見えるのは気のせいだろうか……。


「玲央?」

「何してんのこんな時間に」

「田中くんと飲んでた」

「田中くん?」


 玲央は本当に私しか見えていなかったようで、後ろにいる田中くんに気づくと表情がパッと明るくなった。


「隼人!久しぶり!」

「玲央!?まじか!久しぶり!」

「え、2人繋がりあった?」

「昼間たまたま会ってさ!今新橋で飲んでたんだよ」

「こいつなんでこんな酔っ払ってんの?」

「俺一緒に飲むの初めてだから、お酒弱いのかと思ったんだけど」

「あー、ワイン飲んだ?」

「一本開けたかな」

「こいつなぜかワインだけマジでダメらしい。でも騙されんな。日本酒は一升飲み干すぞ」

「すげー……」


 久々に見る二人の顔にほっとするような、でもどこか違和感もある…。時間が経ったからこそ、変わった部分と変わらない部分があって……酔ってるせいか、頭の中がぼんやりしていてうまく整理できない。


 玲央を見ていると、なんだか自分だけ取り残されているような気がして少し胸が苦しくなる。一方で、田中くんは、昔よりも大人っぽくなっていて、どこかちょっと親しみやすくなった感じ。


「おーい、酔っ払ったふりしてないで帰るぞ」

「何してんの玲央?」

「さっきスタジオ収録終わって帰ってたら夜の公園で変なダンスしてるやついるから見に来たらお前だよ」

「ダンスしてないよ!」

「遠目で見ても怖かったよ」

「じゃあ何で見にくるの?大スターが厄介毎の野次馬なんてめんどくさいことになるよ」

「女が夜の公園で変なダンスしてるんだぞ。怖いもの見たさで見に来るだろう」

「っていうか今お前って呼んだ?やめてよ!」

「今?!いいだろ別に。明日になったら覚えてないんだし」


 やいやいと言い合って、田中くんの存在をお座なりにしてしまった。玲央と同じタイミングでハッと気づきお互いに黙り込む。田中くんもそんな空気を察したのか近づいて咳払いをしていた。懐かしい、中学のときもこんな感じだったな。


「久々に会ってこんな話もあれだけど、玲央はまだ高崎が好き?」

「なに急に。俺優莉が好きって言ったことある?」

「見てればわかるよ。どれだけ一緒にいたと思ってんだよ」

「……別に」

「なら先に伝えとく、俺は高崎が好きだから。昔は玲央に遠慮してたけど、もういらないよな?」

「田中くん、酔っ払ってるの?」

「酒の勢いではあるけど、嘘は一つもないよ。芸能界にいるレオと、同じ一般企業の俺、どっちが荒波立たないかなんて酒入っててもわかるでしょ?」


 優しい表情で私を見る田中くんからはその表情とは裏腹に言葉の鋭さが見える。大きな公園の一部だけが凍てつくような空気が流れ、玲央は田中くんをただ無表情で見つめていた。


「帰るぞ優莉」

「えー、田中くん置いて行けないよ」

「タクシー呼んだから。これで帰って」

「お金はいらない。高崎、家着いたら連絡して」

「はーい」


 変な空気のまま、田中くんはタクシーで、私は玲央の送迎車で帰路に着く。


「ねえ、玲央なんか怒ってるの?」

「別に」

「怒ってない人は”別に”とか言わないよ」

「何でワイン飲んだの?久々に会った男の前でそんな無防備でいたら無事じゃ済まないよ?」

「無事だったよ?っていうか何でワインだめって知ってるの?」

「美波ちゃんから聞いた。…はぁ、隼人に感謝しな本当に。そんでもう二度と辞めて、俺がいないところで酔っ払うの」

「なんで?」

「はぁ……。黙って、目瞑って寝て。家着いたら起こす……って、もう寝てるし」

「スー……」

「ほんとムカつく。ばか」



 翌朝目が覚めるとしっかりと自宅のベッドで寝ていて、昨晩の記憶を呼び起こす。公園でひと悶着あった記憶がうっすら蘇るけど、一旦忘れたことにして田中くんにメールを送ろう。


「昨日は遅い時間までありがとう。酔っ払ってごめんなさい。そして無事家について寝落ちしてました」

「こちらこそありがとう。連絡なくて心配してたけど、無事に送ってもらえて良かった。また会おう」


 次は玲央にもメールを入れておく。


「昨日の記憶が朧げなんですが……家まで送ってくれたよね?ありがとう」


 忙しいからきっと返信はないだろう、と思ったけど速攻で返信がきた。


「夜電話する」


 珍しく返信が早く、珍しく短略だ。昨日の断片的な記憶から推理するに、なんだか怒っている。怒っている人と電話するのは楽しいのだろうか……、嫌だなー。でもここでバックれてまた家に来られてもめんどくさいし。


 この日は一日家の掃除をしたり、SNSを見たりして過ごした。いつもなら美波と待ち合わせしてどこかに出かけているところだけど、昨夜のお酒が残っているのと、連日の仕事の疲れでどうにもだるくて動けない。気がつくと夕方になっていて、何もしていないようで意外と疲れている。


 たまにはこういう何でもない休日も悪くないのかもしれない。


 今日はとことん手を抜こうと夕飯もデリバリーに頼り、到着したころに玲央から着信が入った。


「もしもしー?どうしたの?電話なんて珍しいね。あ、昨日ありがとうね」

「優莉さ、引っ越ししない?」

「引っ越し?どうしたの急に」

「昨日思ったんだよ。優莉に何かあっても、何か伝えたくても俺は一歩引いてなきゃいけない。車で寝てる優莉を家まで運ぶこともできない」

「んー?」

「俺が何かして迷惑になるのは優莉なんだよな……。だから、俺と同じマンションにしなよ」

「無理だよ!私の給料で住めるわけないじゃん」

「家賃なら俺出すよ」

「いやいや……」

「隼人のこともあるし。心配なんだけど」

「田中くん?なんかあった?」

「は?……いや、なんでもない。考えといて」


 電話を切って昨日の夜のことを思い出すと、確かに田中くんと玲央が睨みあっているような……なんだか少し田中くんにときめいたような、朧気な記憶が蘇り恥ずかしい気持ちになった。これは私から「昨日さー」なんて言葉を出した日には全ての関係が変わってしまう気がして心の奥底にしまったのだ。

 

 そんな思いを抱えつつ、ある週末、美波と日比谷にあるおしゃれなカフェにやってきた。


「美波何にする?私パンケーキ食べようかな」

「じゃあ、それとハンバーガー頼んで半分こしようよ」

「いいねいいね」

「あったかくなってきたからテラスが最高。無風なの最高。あとは海があればもっと最高。ハワイ行きたい」

「うわー、行きたい」


  賑やかなおしゃべりに花を咲かせているうちに、料理がテーブルに運ばれてきた。しっかりめの生地にふわふわの食感が絶妙なパンケーキ。そして、噛んだ瞬間に肉汁がじゅわっと広がるジューシーなハンバーガー。どちらも、このカフェでしか味わえない特別な味。


「これこれ!このパンケーキだよねー!」

「うん、美味しそう!あ、ハンバーガーも来たね!」

「ハワイの前夜祭って感じ?」

「まだチケット取ってないけどね」


 ランチをしながら先日玲央に言われたことを相談しようとしたとき。


「お姉さん美味しそうにパンケーキ食べますね。ご一緒していいですか?」

「え?!ゴホゴホッ……田中くん?!」

「この間ぶり」


 私服姿の田中くんとその友人が数名後ろに立っていた。しれっと横の席に座り話を続ける。


「こんなところで何してるの?」

「高校の同級生と久々に飲み行く予定で、昼間暇なメンツ集めてランチでもしようかなと思って」

「そうなんだ!あ、友達の美波。同じ大学だったの」

「こんにちは、小林美波です」

「こんにちは。中学の同級生の田中隼人です」

「え、優莉の中学顔面偏差値やばくない?レオくんといい、田中くんといい」

「そんなことないでしょ」

「優莉が面食いになるの納得だわ」

「全部聞こえてるよ?」


 なぜか隣のテーブルに田中くん御一行が座り、プチ合コンのようになっている。けど圧倒的に女子が少なすぎて、私と美波と田中くん3人で会話が始まってしまった。


「小林さんは高崎とよく会ってるの?」

「そうですね、休みの日予定なければずっと一緒にいるかもです」

「めっちゃ仲いいね。俺も高崎に会いたいのに全然連絡くれないよ」

「え、それは、私のせい……?」

「田中くんこの前久々に会ったばかりじゃん」

「そう、15年ぶりくらいに会って嬉しかったのに玲央に邪魔されて強制解散だった」

「え、レオくんに会ったんですか?」

「うん、あ、名前出して大丈夫?」

「大丈夫。前一瞬会ったて言ったじゃん?美波と遊んでる時だったの」

「そっか。まぁ、あっち車だったし高崎のこと送ってくれるならいいかなと思って」

「あー……」


 美波は頭の中で必死に点と点を繋ぎ合わせようとしている。


「ってかさ、玲央は今の高崎の家知ってるの?」

「うん、お母さん同士昔から仲良くて勝手にバラされたって感じ」

「ふーん」

「あのさ、一緒に来てる人たち放置で大丈夫?」

「全然大丈夫。多分俺の存在忘れてるから」


 その後、軽く会話が弾んで、みんなで笑ったり、時折田中くんの友達も話に入ったりして和やかな空気が広がった。田中くんは腕時計をチラっと見ると「やべ、こんな時間」と言って席を立つ。


「そろそろ俺ら行くわ。また連絡するよ」

「うん、またね」

「楽しかったから、今日俺の奢りで。小林さんもありがとう」


 そう言って、私たち席の伝票も持ってお友達と一緒に帰って行った。あまりのスマートさに私も驚いているが、美波が口をあけたまま固まっている。


「美波?おーい」


 美波はしばらくそのまま固まっていたが、やっと我に返ったように目を瞬きながら言った。


「小林さんって会社の人以外で久々に呼ばれたな」

「名前は大切だから、特別な人の名前しか呼ばないんだって昔言ってたよ。だから私もずっと高崎って呼ばれてる」

「それで、優莉はどっちが好きなの?レオくん?田中くん?」

「え、なんでその2択なの」

「そんなん2択でしょう!どっちも優莉のこと好きそうじゃん」

「やめてよ。私は美波と遊んでる方が楽しいよ」

「え……、私は彼氏作るからね……」

「なんでよ、一緒にいようよ」


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