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同級生との再会


 在宅で仕事することもできるけど、気持ちの切り替えのため会社が借りているシェアオフィスに良く来ている。仕事がひと段落して休憩がてら会社の近くにあるカフェにコーヒーを買いに行った。金曜日は5日間頑張った疲れと終われば休みという高揚感が好きだ。いつものカフェラテを注文しレジ横で出来上がるのを待っているとき、背の高い男性に声をかけられた。


「高崎……?」

「えっと、田中くん?」


 田中くんは中学の時の同級生で、玲央と同じサッカー部で仲が良く、騒いでいたずらしてはよく先生に怒られていた。ただ、スクールカースト一軍の澤田さんが田中くんのことが好きで二人に絡むと一軍総出でいじめに合うという噂があり、あまり話した記憶はない。


「久しぶり!元気してた?」

「元気だよー!田中くん職場この辺なの?」

「いや、今営業やってて、これからAタワー行くところ」

「Aタワー?うちのシェアオフィスが入ってるビルだ」

「まじ?高崎今なんの仕事してるの?」

「外資コンサルやってるよ」

「へー!英語得意だったもんな」

 

 コンビニを出てオフィスまで話しながら歩く。


「懐かしいな中学時代。玲央と会ってる?」

「ちょっと前に一瞬だけ会ったけど……。田中くんは?連絡とってる?」

「中学卒業してからは全く。こんな人気出ちゃうとこっちが萎縮するよ」

「うん、わかる気がする」

「ってか今日夜ひま?久々に飯行こうよ」

「今日?明日休みだし、多分残業もないしいいよ」

「お!そしたら20時に新橋どう?」

「大丈夫!」

「連絡先教えてよ」


 田中くんと連絡先を交換して、ビルまで一緒に来たところで解散。残りの業務をタスク毎にこなしていき残業のないように進める。


 16時頃に「20時に新橋の居酒屋予約したから、先着いたら入ってて」とURLがきていた。こういうメールの返信は何を送るのが正解なのかわからない。「わかった」だとそっけないし、「はい」もなんか違うし、いつも悩みながら「了解です」と送っている。

 

 仕事終わりに新橋へ向かい、新橋駅の東口を出て路地裏を5分ほど歩くと"アンシャンテ"というお店にたどり着いた。黒で統一されたとてもシンプルな内装でプライベート空間が保たれる半個室の居酒屋。角の予約席に通されSNSを見ながら少し時間をつぶす。


「ごめん、遅れた!お待たせ!」

「全然。お疲れ様」


 ビールやカクテルを飲みながら地産地消の食材を使った新鮮なお肴や揚げ物料理をいただく。


「これ、トウモロコシの天ぷらすっごい美味しいね!」

「うん!美味しい!出張が多くてさ、実は北海道行ったときにここの本店行ったんだよ。そしたらめちゃくちゃ美味くて、新橋に店舗あるの知ってから来てみたかったんだ」

「出張かー、いいな。私もたまには旅先で仕事しようかな」

「今度一緒に行く?」

「えー?考えとく」


 ある程度お腹も満たされて「ワイン飲める?」と聞かれ、あまり得意ではないがこのお店の料理がとても美味しかったから「赤は苦手」とだけ伝え、ソムリエにチョイスしてもらったものを2人で飲んだ。


「田中くんもてっきり玲央と一緒の高校行くと思ってたからびっくりだったな」

「俺も行きたかったけどさ、サッカー推薦で隣町の高校合格してたから選択肢がなかったんだよな」

「サッカー上手だったもんね。懐かしいな、夏の大会」

「高崎がみんなにお守りくれたやつな。俺まだ持ってるよ」

「えー!捨てなよ」

「捨てられないよ。落ち込んだ時とかあのお守り握ると元気出るんだ。って、なんか女々しいな」

「嬉しいけどね。頑張って人数分作ったから」


 やはりワインが効いているのか、目の前がぽわぽわとして視界が少し揺らぐ。脳みそを頑張って働かせているけど、どんどん呂律がまわらなくなってる気もする。田中くんはお酒が強いのかへっちゃらそうだ。それでも食事は楽しくて、いつの間にかお腹も満たされていた。そうして穏やかな時間が過ぎていく。ふと会話が止んだ瞬間、田中くんが静かに口を開いた。


「俺、好きだったんだよ高崎のこと」

「え?」

「何回も匂わせてたのに、気づかなかっただろ?」

「全然知らない!田中くん澤田さんと付き合ってなかった?」

「付き合ってないよ!なんか付きまとわれてたけど……」

「学校中の人気者だったし、私あまり会話した記憶がないけど。澤田さん怖かったし……」

「みんな俺なんか最初から相手にしてないんだよ。話を聞けば玲央のことが好きで諦めた子がほとんどだったし」

「あー、玲央も非常にモテてたもんね……」


 玲央の人気は学校だけにとどまらず、放課後は校門に他校生が溢れかえるほどのモテ男だった。文化祭で軽音部のステージは体育館がごった返し、高校3年の時はラストステージということもあり異例の校庭フェスが開かれた。


「高崎、大丈夫?飲み過ぎてない?」

「んー、だいじょーぶ」

「ダメだろ……。水のみな?」

「ありがと」


 世界がぐるぐるまわる。かろうじて目を開けていられるが、真っ直ぐ歩くことはまず無理だろう。


「高崎んちどこ?タクシーで帰れるの?」

「タクシーなんて無理無理!遠いから!終電でかえるよ」

「乗れないだろ、電車。タクシー代渡すから呼びなよ」

「だーいじょーぶ!置いて帰っていいよー」

「そんなわけにいかないだろ」

「へーきへーき!」

「……連れて帰っていい?」

「どこに?」

「俺ん家」

「ん?」


 虚ろした目で田中くんを見ると真剣な眼差しでこちらを見てる……。そんな目で見られるとなんだか照れてしまう。


「いやいや、お家なんか行けないよ……」

「何期待してんのか知らないけど、俺そう簡単に手出さないよ。大切にしたい人は特に」

「んー!田中くんタクシーで帰っていいよ。私は適当にカラオケかネカフェいくからっ」


 席が3時間制で、気がつくともうその時間を過ぎていた。店員さんから「そろそろご退席をお願いします」と声をかけられ、仕方なくお店を後にする。夜も更けた街に出ると、意外と人通りがまだある。コンビニで水を買い、酔いを覚ますためにも座れる場所を探してゆっくりと歩いた。


「こっちこっち!」


 気づけば芝公園まで来ていて、電灯があるベンチを探してふらふらとしてる私の手を握る田中くんの手は男らしくゴツゴツとしていた。


「もしかして酒弱かった?無理して飲まなくてもよかったのに」

「いつもはもっと飲めるんだよ?今日はワイン飲んだから楽しくなっちゃってんのかなー」


 田中くんはベンチに座って気づけばお店からずっとカバンも持ってくれていて、私を隣に座るように促す。私は千鳥足でベンチに座ってる田中くんの前で話し続けるという謎の奇行を続けた。公園のベンチでアラサーの同級生が酔っ払ってフラフラしているのを笑って見守ってくれるなんて、田中くんは相変わらず女の子憧れの王子様だな。


「田中くん昔から背が高くて勉強ができてサッカーもできて、女子はみんな玲央派か田中くん派かで分かれてたよ!」

「高崎は?どっち派?」

「私?うーん……どっち派か……いてっ」


 ふらふらしながら喋っていたら見事につまづき、膝を擦りむいた。「大丈夫?!」とすぐ駆けつけて手を差し出してくれる。

 

「へーきへーき!へへっ、転んじゃった。わ、田中くんの手、大きくてあったかいね」


 差し出された手につかまって座ったままヘラヘラしていると、薄暗い中でもわかるほど田中くんの顔は真っ赤になっていた。ぼやけた視界では表情までわからず、顔を近づけて確認する。


「いやまじでもうホント可愛い」

「へ?」

「ずるいわ高崎。中学んときも今もずっと可愛い。その笑顔が好きなんだけど、酔った所もマジで好き」

「なにいってんの田中くん」


 何かのスイッチが入った田中くんは、しゃがんで私の目線に合わせ、片手は繋いだまま、もう片方の手で私のほっぺをむにゅっと掴み顔を近づける。

 

「隼人」

「……?」

「田中くんじゃない、隼人。言ってみ」

「……/// やめて」

「呼ばないとキスするよ?」

「はなしてよ」

「無理」

「スーツ汚れるよ?」

「いいよ」


 少しだけ、無言の時間が流れる。田中くんの鼓動がすぐそこに聞こえるほど近い。私の鼓動もきっと同じくらいうるさい。瞳と瞳が絡み合い、顔は火照りどうにかなってしまいそう。


「ごめん、いじわるした」


 顔から手を離し、私を立ち上げると優しくベンチに座らせて、水道でハンカチを濡らし、擦りむいた膝を綺麗にしてくれる。


「俺の理性に感謝してほしい。高崎ずるいわまじで」

「うーん、ありがとう?」

「今日は久々に会えたことと、綺麗な東京タワー見れただけでよしとしよう」


 夜空に輝く星と、深くオレンジに光る東京タワー。まるで世界に2人しかいないような錯覚に陥る時間。



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