作戦決行
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「では二手に分かれましょう」
私の言葉に殿下、ローレン、ミシャーナが頷く。2月初めの寒空の下私達はあらかじめ決めていた作戦を実行する。
殿下と私、ローレンとミシャーナで別れる。少し雪がちらつく中森に身を潜めた。
(ここまでは順調だな…)
私は頭の中で作戦の内容を反芻する。
この作戦の肝は殿下だ。
両軍とも決定打に欠け頓着状態に陥っているが、これ以上長引かせても意味がないためこちらから仕掛ける。今は冬の時期。簡単に援軍も来れなければ、物資もできるだけ節約したいはず。それに戦場はあちらの国との国境から離れている。
そこで私達は兵糧攻めをすることにした。少数精鋭の方が効率が良いため殿下自ら提案していた。
作戦の概要はまずローレンたちが敵を陽動し注意を引き付ける。その間に私と殿下で敵の兵糧を燃やす。その後殿下の転移魔法で逃げる。殿下の転移魔法は行ったことのある場所や、見える範囲なら転移できるらしい。
敵に打撃を与えることができるが、殿下に害が及ぶ可能性がグッと上がる。陣の後方で大人しくしていればいいものを自ら敵地の中に飛び込むというのだから。
(自分が傷つくことを厭わない…いや、構わないのか?)
私は集中するために深呼吸をする。
森の中から敵陣を伺う。相手方も警戒をしているのか兵糧の周りには十数人の見張りがいる。
ただ息を詰めて合図を待つ。
兵糧の一つに矢が刺さり火がついた。それと同時にミシャーナが投げ込んだのであろう催涙剤入の煙玉が投げ入れられる。すぐに煙は晴れたが数人以外催涙剤にやられている。動ける数人も矢が来たであろうところに走っていった。もうローレンたちは逃げたあとだろう。
私と殿下は同時に飛び出す。私は周りを警戒しつつ動けない兵士たちを気絶させていく。
殿下が燃えている兵糧にさらに火をつけた。あっという間に燃え盛り灰となったのを見届ける。
「手を…!」
殿下の声に頷き手を伸ばす。視界が一瞬で変化した。
少しばかりの浮遊感を感じた後に軽く地面に着地する。
「ミシャーナ、ローレン」
小さく呼びかける。
「「………」」
反応がない。殿下と2人で顔を見合わせる。ここは敵陣と自陣のちょうど間ほどの森。ここを合流地にしていたはずなのに。
あまり長居するのはよろしくない。かといって動くわけにもいかないし…。
「何かあったのか…?」
殿下の呟きに答えず私は耳を澄ませる。先ほどから風に交じって誰かの足音が聞こえる。殿下をさり気なく後ろに庇い前を見据えた。
「………」
ガサッ―
「助けて!ローレンが!!」
木々の間を駆け抜け出てきたのはミシャーナだった。息を切らし目に涙を湛えている。
「何があった?」
ミシャーナを落ち着かせるように背を撫でながら訊く。
「わ、私がっ…転んじゃって…それでローレンが、かばって…」
見たところミシャーナに外傷は無い。だが確かにタイツの右膝の所が破けてる。
(一体どうするべきか…)
「敵がみんなローレンの方に…」
どれだけの規模か分からないが無事である可能性の方が少ないだろう。
「…助けて…!ユウエスさん…!」
「…っ!」
私は唇を噛む。最優先すべきは殿下だ。
「…私は殿下の護衛です…」
ミシャーナの方を見ずに言う。ふと視線に入った殿下も唇を噛んでいた。殿下は自身の立場をよく理解している。けれど殿下は…
「………!」
視線がぶつかる。揺れて揺れて何かを必死に耐えるかのような瞳。でもその瞳は強く語っている。
きっと私も同じ瞳をしているのだろう。
「…っ殿下は先に転移で帰ってください…」
「…!!」
「私は…ローレンを助けに行きます」
私は小さくつぶやくように言った。