小高い丘で
誤字報告ありがとう御座います。(≧▽≦)
「お前は戦場には出ないのか?」
第三皇子‐殿下の唐突な問いに望遠鏡を覗くのをやめる。眼下を一瞥してから答える。
「そのつもりでしたけどね」
「なら行けばいい」
「そうはいけません」
淡々とした会話ではあるが私は未だに笑顔をキープしている。へんに気を使うよりニコニコしている方が楽なことに気付いたし、できるだけ弟のマネをしておかなければ。
殿下は面白くなさそうに視線をそらした。美しい顔を横に向けたことで鼻筋とまつ毛の長さが際立ち、彫刻のように整った顔を陽が照す。つまりどの方面から見ても美形だということだ。
「俺のお守りならしなくていい」
でもやはり愛想が無い。ここ1週間で少しは話すようになったがいつも眉根を寄せた表情しか見せない。眉間にシワでも刻まれたら相当な損失な気がする。
私はより一層笑みを深くした。
「御身を自ら守れると?」
少し挑発的に訊いてみる。
確かに殿下の魔法の才能はすごい。2つ持っているだけでも稀なはずなのに、属性を5つも持っている。
火、水、土、風、闇の5つで攻撃力もかなり高い。
こんな見晴らしのいい小高い丘に殿下がいるのもきちんと理由がある。
忌避される白髪の持ち主ではあるが、強力な味方がいることでこちら側の士気は上がるし、敵方の牽制にもなる。何より見晴らしがいいので指示も飛ばしやすいし、魔法も飛ばしやすい。ちなみに指示は小型の通信装置(ペンダント型の枠に小型水晶がついたもの)を使い出している。
見晴らしがいい≒的になりやすいということで私は殿下の護衛だ。
殿下は結界や治癒などの防御に特化した光や聖属性の魔法はからきしらしい。それに殿下の反応速度は途轍もなく遅いことに気づいている。私に比べたらという話ではあるが、それにしても遅い。無駄に気を張りすぎなのだ。
先程から敵側の魔法を相殺してはいるが、それは見下ろせるので放たれるタイミングも掴みやすいし、自分が狙われているわけでは無いからであって、そうでなければかなり危険だ。ましてやここは戦場。妥協なんて許されないし、想定外なんて常だ。
いざとなれば魔力を直接ぶつけて相殺するという手もあるが…殿下が膨大な魔力を持っていたとしても、かなり燃費が悪い。
つまり私はここを離れることが出来ないわけだ。
殿下もそれは分かっているはずで、そうであるからはっきりとした答えを返さないのだろう。
また黙ってしまった。
(仕方がないか…)
私はまだ信用に値しないということだろう。
それに戦場に出たとして後方で待機だろうし…。
(パパは私を出さないつもりだろうから)
なら、ここでの方が役に立つだろう。
「あ…」
「?…」
私の呟きに怪訝な顔をした殿下を横目で捉えつつ、剣を一閃する。
と同時に光線が私の剣に跳ね返された。
「光魔法ですかね」
「……」
防御特化の光魔法ではあるが、上級ともなると攻撃魔法も存在する。
(かなり高位の魔法使いがいるな…)
「…見えてたのか?」
「?…はい、直前なら」
「……」
なおも催促するような殿下の視線に私は説明を加える。
「私の家系は昔から魔力を感知できる人が多いので…訓練されていますからね」
「…なるほど」
何かを考え込むかのように殿下がまた黙ったので、貼り付けた笑顔のまま眼下の戦いに視線を向ける。
「…!!」
足元に魔法の気配を感じ飛び退いた。
そして殿下の方を見る。もしかしなくても殿下の仕業だ。
「確かに訓練されてるな」
一人満足したかのように言う殿下に思わず笑顔も引きつってしまう。私が居た場所をみれば直下2メートルほどの穴が空いている。
(私が避けれなかったらどうしたんだ、この皇子は…)
極端なくらいに人と関わらないくせしてどういうことだ。感覚がズレている気がする。
ワザとじゃなさそうなため文句を言うのもやめ、ため息を飲み込み殿下の護衛を続けた。