出発の日
月日が流れるのは早いもので、晩餐の日から一ヶ月が経った。やるべき準備は終わらした。後は出発するだけ。
「お父さんの言うことを聞くのよ」
「わかってます」
「健康には気をつけて…ケガは…出来るだけしないで頂戴」
「はい…」
戦場で健康など気を遣っていられるか分からないし、ケガだってするものだろう。母だってそれは分かっている。けれど心配するのが親心というものか。
そんな心配そうな顔をされると上手く目を合わせられない。
「「お姉ちゃん」」
双子が差し出したのは刺繍入りのハンカチだ。シルビアはミモザの刺繍、シルエルはカエルの刺繍だ。どちらも二人らしい。
「ありがとう」
双子は泣きそうな顔でにこりと微笑んだ。
「お、姉ちゃん」
ユウエスもおずおずと何かを差し出した。
赤いリボンに銀糸の刺繍がしてあるキレイなリボンだ。弟にしてはセンスの良い贈り物に思わずびっくりする。
「かわいいじゃない」
「ルビー姉ちゃんが選ぶの手伝ってくれて…」
「ありがとね」
なおも後ろめたそうな弟の頭をなでる。
「行ってくる」
「うん…」
泣き出してしまった。仕方のないやつだ。
「気をつけてね」
「はい、ママ。帰ったらオムライス作ってください」
母も泣きそうに顔を歪めた。
やはり申し訳なさが勝ってしまう。ぎゅっと母に抱きつく。
私は小柄でまだ母より小さい。
双子も弟も抱きついてきた。そのままみんなでハグをする。
「フィリア」
父がやって来た。どうやら本当のお別れの時間らしい。
「大丈夫。私がいるのだから」
父が母に声を掛ける。母はコクリと頷くと私から離れた。
「…行ってきます」
馬車から屋敷が見える間中ずっと母たちは手を降ってくれていた。
(いよいよか…)
私は一つゆっくりと深呼吸をした。