秘話② 守護石の話
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水晶の間。ここはいつもであれば多くの忠臣たちが意見や報告を述べるための場所だ。
その名の通り床一面は磨かれた水晶で作られ、淡い光が白い壁に反射し部屋全体が明るい。
この場では嘘を付くことが出来ない。それは水晶に宿る精霊の力のおかげらしい。真偽は定かではないが嘘をつくことが出来ないのは事実。
そのため別名−真実の間とも言われ重宝されている。
部屋の中央に確かな存在感を放つ円卓のせいだろうか。それとも水晶の光が織りなす神秘さからか。厳かな空気が流れるこの空間では呼吸をするのも憚られてしまうほどの圧を感じる。
大人でもそうなのだ。自分の娘はどうであろうかとユヴェリアスは視線を娘に向けた。
自身と同じ、まるでリチウムの炎でも閉じ込めたかのような瞳は、ただひたすら一心に開かれ、周りの光景に見とれていた。
全く頼もしい子であるとユヴェリアスは小さく微笑む。そのまま一瞬で表情を切り替えると隣で同じように微笑んでいる陛下に向かって声をかけた。陽の光を浴びたような金髪の優しげな男であるが、高貴な紫色の瞳は鋭く、底知れぬ強さを感じさせる。
「…息子の瞳は琥珀色です」
「そうか…エリヴェシルの瞳だな」
「「……」」
しばしの間沈黙が流れた。陛下の表情からは何もうかがい知ることは出来ない。
ユヴェリアスは小さく息を吸い続ける。
「それと…もう一つご報告が」
「なんだ…?それに二人の時は学友時代と同じでいいと言っただろう」
「…分かってる…実は、ユースフィリアが魔法を発現した」
「やはりか…」
もちろん予測していたことではある。その片鱗は昔から垣間見えていた。
「どうするんだ…?」
口調を楽にしユヴェリアスが問う。
「…予定通りフィリアのことは隠していよう」
「そうか」
「不満か?」
「いや、私よりも、ラムヴァルス…お前のほうがキツイだろう」
「…」
陛下−ラムヴァルスは笑みに哀愁を滲ませた。
「…見えすぎるのも考えようだな」
自嘲するかのようなラムヴァルスにユヴェリアスの心臓も痛んだ。
「世界が救われるというのなら私は、どんな代償も受ける心持ちだったが…自分に出来ることがこれほどに少ないだなんて考えてもいなかった」
ユヴェリアスは友が今、娘と同い年の白髪の皇子のことを思っているのだろうと分かっていた。
「子どもたちに託すことしか出来ないのであれば、何のための親なのか…」
「……」
ユヴェリアスはただ黙って友の独白を聞いていた。自身も同じ気持ちを抱きながら。
「…子供は時として強い。だがやはり弱く脆い。そのために親である私達がいる…あの子もフィリアのように少しは甘えてくれると安心できるのだがな」
「家の子は少し自由すぎる気もしますがね」
軽く冗談を交えつつも沈んだ気持ちはなかなか上がらない。
「強くあれと願うことしか出来んな…本当にあの子達のためになるのかと不安で仕方がない」
「子どもたちの安全を考えるのなら…これが最善だ」
ユヴェリアスは友のためにもきっぱりと言う。ここで自分たちが迷っていてはそれこそ本末転倒だ。
「ありがとう…」
弱々しく笑ったラムヴァルスに喝を入れるように、その背中をかなり強めに叩く。
バシンっー
「っ〜!!痛いじゃないか!」
「そんな辛気臭い顔をしているからだ」
「…ハハッ。やっぱりお前はいいやつだな」
ラムヴァルスは切り替えたようにいつもの優しげな表情に戻った。
「おいで、フィリア」
そして部屋の隅の方で待機させられていたユースフィリアを呼ぶ。
「どうしたの?おじさま?」
可愛らしくコテンと首を傾けたユースフィリアの顔は無表情である。この頃から愛想はどこぞに放り投げていた。
「…おじさま?おにいさまじゃなくて?」
ラムヴァルスは一度自分の耳がおかしくなったのではないかと疑った。ついこの間までユースフィリアはラムヴァルスのことをおにいさまと呼んでいたはずだ。
「パパがね、おにいさまは違うよって」
思わず横で澄まし顔をしているユヴェリアスを殴りたい衝動に駆られたが子供の前であるので自重する。
「そ、そうか…えっと、今日はフィリアにプレゼントがあるんだよ」
「ほんと?うれしい」
瞳を輝かせたフィリアを微笑ましく思いながら、ラムヴァルスはポケットから一つのペンダントを取り出した。
「はい、どうぞ」
「ありがとお、ございます」
「どういたしまして」
ニコニコと二人が笑う。瑠璃色の宝石がはまったペンダントもこころなしか嬉しそうに光っている。
「おい、それ守護石じゃないか」
ユヴェリアスが小さな声で咎めるように言う。
「…必要だろ?」
「ぐっ…」
大人二人の会話はユースフィリアには聞こえていないようだった。熱心に守護石を覗いては、光に透かしている。
「フィリア、それの使い方はお父さんに教えてもらいなさい。きっとお前の力になるだろう」
「はい!」
元気のいい返事が水晶の間に響く。
ユヴェリアスとラムヴァルスは顔を見合わせて可笑しそうに笑うのであった。




