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血天井の下で、君を見た

作者: 雨日
掲載日:2025/10/24


その日、修学旅行の班別行動で訪れたお寺は、

観光地のはずなのに、なぜか空気が冷たかった。


天井を見上げた瞬間、

私は“誰か”と目が合った気がした。


――血で染まった板の中。

そこに、私の顔をした人がいた。


今日も爽くんはかっこいい。

ため息が出るくらい、かっこいい。


高橋爽くん。


同じクラスなのに、遠い世界の人みたい。

初めて見たとき、本気で息が止まった。

全部の「かっこいい」を詰め込んだみたいな人。


背が高くて、どんな角度から見ても絵になる。


無口で、何かを隠しているような静けさがある。


――その静けさごと、好きになってしまった。


私と同じように、爽くんに惹かれている女子は多い。


背が高くて、顔がよくて、静かで――どう考えても、モテる要素しかないのに。


それなのに、なぜか彼女はいない。


……いや、いなくてもいいのだけど。


私は森崎カンナ。高校二年生の16歳。


私の顔は平凡で、自他とも認める昭和顔。


せめて、平成顔になりたかった。


そんな私が・・・あの爽くんと話すことなんてできない。


近づくだけで心拍数と呼吸が乱れる。


爽くんの隣に立つ自分を想像することもできない。


美男子にこけし。


そんな感じだ。


だけど今日は、そんな自分でも「このままでいい」と思えた。


だって、来月の修学旅行の自由行動で――爽くんと同じグループになれたのだ!


信じられないくらい嬉しい。


行き先は京都。


半径1メートル以内に爽くんがいるのなら、どこだって楽しいに決まってる。


その日の授業は、旅行先で自由行動の計画を立てる時間だった。


班のメンバーは四人。


私とエリナ、幹太、そして、爽くん。


どうしてこの組み合わせ?と思ったけれど、

担任が「普段話さない人と班を組もう」なんてお節介をしたらしい。


おかげで、陽キャ二人と陰キャ二人の混合チームが完成した。

……なんという社会実験。


エリナは、クラスでも上位カーストの頂点にいる女子。


美人で、性格も良くて、成績までいい。


目なんて、ぼろっと溢れそうなほど大きい。まつ毛も長い。


彼女がフランス人形なら、やっぱり私はこけしだ。


完璧すぎて……少し、苦手。


「カンナちゃん、行きたい場所ある?」

とびきりの笑顔でエリナにそう聞かれて、心臓が跳ねる。


――あぁ、爽くんも、きっとエリナみたいな子が好きなんだろうな。


緊張のあまり、声が出なかった。


「……特に、ない」


ようやく絞り出した言葉は、情けないほど小さかった。


爽くんの隣にいる幹太が、退屈そうにガイドブックをめくる。


「京都ねぇ……歴史とか興味ないんだよね」


「私、駅のそばのイオンに行きたい」

エリナが明るく言う。


――イオン?


それ、京都じゃなくてもあるよね……。


「イオン、いいな。ゲーセンもあるし」

幹太がすぐに乗ってくる。


「私、洋服見たいの。この辺では売ってないでしょ?」


「じゃあ、イオンにするか」


陽キャの二人で話がどんどん進んでいく。


私はただ、頷くこともできずに黙っていた。


そのとき――


「俺は、血天井が見たい」


爽くんが、ぽつりと言った。


一瞬、空気が止まった。


エリナも幹太も、きょとんとする。


血天井。


――名前だけで、ぞくっとするような場所。


爽くんの声は低くて、落ち着いていた。


「血天井?」

エリナが、大きな目をさらに見開いた。


爽くんは、黙って頷く。


「それって……ガイドブックに載ってないぞ」

幹太がパラパラとページをめくる。


「ガイドブックには載ってない。けど、ずっと行きたいと思ってた場所なんだ」

爽くんの声は静かで、少しだけ熱を帯びていた。


エリナはスマホを取り出し、寺の名前を検索する。


「……“かつて戦で亡くなった武士たちの血で染まった床板を、供養のために天井として使った”……って、これ、心霊スポットじゃない?!」


「まあ……そう捉えても、いいかもな」

爽くんは頭をぽりぽりとかいた。


その場に沈黙が落ちた。


私を含め、全員が絶句する。


けれど、その瞬間、なぜだか私は決めていた。


――爽くんの味方をしよう、と。


「あのさ……間を取って、血天井を見たあとにイオン行かない?」


「ええ……」

「まあ……」

エリナと幹太は、明らかに浮かない顔。


「じゃあ、そうしよう。血天井とイオンで!」

私は、勢いでまとめた。


計画書に「イオン」と書いたら絶対に怒られるので、

周辺の東寺と伏見稲荷大社など、それっぽくごまかして担任に提出した。


こうして、修学旅行の行き先は決まった。


自分が後押しした事とはいえ――少し、憂鬱だ。


なぜなら――廊下を歩いていたとき、ふと足が止まった。


廊下の片隅に、誰かが座り込んでいる。


息を呑んで、急ぎ足で通り過ぎる。


おそらく、女の子。


ただ、じっとこちらを見ている。


ーー気にしない。気にしない。


そう自分に言い聞かせる。


……そう、私は“幽霊”が視えるのだ。


正確に言えば「視える」というより、「感じる」に近い。


姿は視えなくても、性別や、その霊が抱えている感情がわかる。


霊たちは、そこにいるだけ。


話しかけてくることも、何かをしてくることもない。


だから、私も無視をする。


感じても、怖いから、関わらない。


――霊感なんて、いらない能力だ。


幼いころから、いろんなモノが視えてしまう自分にうんざりしていた。


こんな事、爽くんに知られたら嫌われる!


考えただけで、背筋が冷たくなる。


帰り道は、足取りが重かった。


爽くんと同じ班になれたのは嬉しい。


――けれど、心霊スポットかぁ。


小さくため息をつく。


血天井のお寺も心霊スポットらしいけど……

正直、私の家だって負けていない。


うちの自宅は、やたら気合いの入った和風建築。


表札の「森崎」という文字も、やたらと立派だ。


そして――幽霊が複数いる。


玄関にいるのは、陰気な中年の男性。


陰気な幽霊ほど、嫌なものはない。


もっとも、陽気な幽霊も嫌だけど。


彼らの気配を感じないふりをして、靴を脱ぎ、リビングに入る。


リビングにも、幽霊はいる。


テレビの隣にいる男の子。


年齢は13歳くらい?


物心ついた時から、彼はそこにいる。


――お願いだから、別の場所にいて。


私がテレビをあまり見ない理由は、この男の子のせいだ。


ソファに寝転がる。


台所から、母の包丁の音と、煮物の匂いがしてくる。

「修学旅行の計画、決まった?」


「うん。血天井に行くことになった」

だらだらと寝転がりながら答える。


母が手を止め、お玉を持ったまま、ふとこちらを見た。


「あら。血天井なら、うちにもあるわよ」


「……えっ?」


その瞬間、私はガバッと起き上がった。


「うちに……血天井?」


母の言葉が、頭の中で何度も反響する。


――そうか。


だから、この家には幽霊がうじゃうじゃいるのか。


喉が乾いて、声が掠れた。


「どこに……血天井が……?」


ーーもう、わかっていた。


答えを聞くまでもない。


我が家でいちばん霊が集まる、あの場所に違いない。


まるで“幽霊の銀座”みたいな――あの廊下。


「廊下よ」

母は、何でもないように言った。


やっぱり。


私はゆっくりと立ち上がり、仏間へ続く廊下に足を踏み入れた。


そこには、6体の幽霊たちがいる。


音も立てず、ただ静かにたむろしている。


全身の毛が逆立つ。


慌てて、廊下に続く扉を閉めた。


――あそこだけは、入ってはいけない場所。


リビングに戻ると、母は、平然と夕食を作り続けていた。


煮物の香りが、部屋にゆっくりと広がっていく。


「お母さんは……あの廊下、怖くないの?」

思わず問いかける。


母は包丁を動かしたまま、少しだけ首をかしげた。


「まあ、あまり愉快なものではないわよね」


その声は、いつも通り。


まるで、そこに“何か”があることなど、日常の一部のように。


そのときだった。


廊下の奥から、足音がズカズカと近づいてくる。

音がやけに重い。


「カンナ! そんなことを軽々しく言うな!」

祖父の怒声が、リビングに響いた。


「あの天井はな、もとは城の床だったものだ。ご先祖様は、主のために命を賭けたお方だ。

逃げもせず、城が落ちるまで戦い抜いた」


――その話、何百回も聞いたことがある。


けれど、血天井なんて知らなかった。


あれ?


よく聞いてなかったのかな。


ご先祖様の最期は切腹。


四百年前の、森崎家のご先祖様、気合い半端ない。


そして、その血は……たぶん、私には一滴も残ってない。


祖父の手がわずかに震えていた。


「その血が、この家の天井にも流れてるんだ。何があっても――この天井は守り抜け!」


ーーええ、いやですとも。


私は一人っ子。


小さい頃から「森崎家を守れ」と散々言われてきた。


正直、この幽霊屋敷から抜け出して、

幽霊の過疎地――マンションで暮らしたい。


私は――祖父には絶対に、修学旅行の行き先を話さないと決めた。


血天井のあるお寺。


詳しく調べてはいない。


けれど、わかる。


あの寺には、きっと私の祖先が関わっている。


知られたら、もう後戻りできない気がした。




そんな不安を抱えたまま、修学旅行の日を迎えた。


電車と新幹線を二回乗り継ぎ、ようやく辿り着いた京都は、どこを見ても人、人、人。


耳に飛び込むのは、外国の言葉ばかりだった。


――まるで、日本じゃないみたい。


古都というより、観光地そのもの。


自由行動の日、爽くんは、完全にはしゃいでいた。


特に血天井のお寺では、彼のテンションは上がる一方。


「相当、行きたかったんだな」

隣にいた幹太がつぶやいた。


「爽くんって、こんなに明るかったけ?」

エリナは怪訝な顔をして、周囲を見渡す。


「・・・はしゃぐような雰囲気ではないけれど」


私は「血天井」と野太い筆で書かれた看板を見つめた。


いつもは無口で、何を考えているのか分からない彼が、

笑って、喋って、写真まで撮っている。


――こんなに笑う人だったんだ。


心霊スポットだと思っていたそのお寺は、意外なほど明るい空気に包まれていた。


境内には光が差し、風鈴の音が涼しく響く。


けれど――血天井の間に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。


ひんやりと、肌の上を何かが撫でていく。


息をするたびに、胸の奥がざらついた。


案内の僧侶が、長い竹の棒を手に説明を始める。


「ここが、四百名の兵が自ら命を絶った場所です」


棒の先が、天井をゆっくりと指し示す。


「こちらが大将の森崎の遺体跡です。

ほら、片方の足を組んだまま、息絶えたのがわかりますか?」


「これが顎。これが鼻……」


天井を、首が痛くなるほど見上げる。


あぁ、見える。


赤茶けた木目の中に、確かに“人の形”があった。


大将――森崎。


私のご先祖様。


見れば見るほど、形が浮かび上がってくる。


……いや、違う。


血の跡じゃない。


それは、誰かの顔が、こちらを見ている。


その瞬間、空気がぐにゃりと歪んだ。


視界の奥、天井の血の跡が――動いた気がした。


次の瞬間、鎧姿の男が、私の目の前に立っていた。


黒ずんだ甲冑。


肩のあたりは焼け焦げ、胸には刀傷が走っている。


けれど、顔ははっきりと見えた。


目、鼻、口。

どこかで見た顔だ。


……いや、鏡の中で毎日見ている自分の顔だった。


「うそ……」


笑えるほど似ていた。


平たい顔。


どんな時代でもモテなさそうな、

その地味な輪郭まで、そっくりだった。


四百年以上前から、同じ顔。


そう思うと、怖くて、笑えて、どうしていいか分からなかった。


鎧の中のご先祖様は、

無言のまま、じっと私を見つめていた。


「お前が……わしの子孫か」


鎧の中のご先祖様が、低い声で言った。


びっくりした。


私は霊感があるほうだ。


けれど、幽霊が“話しかけてくる”なんてこと、今まで一度もなかった。


なのに今、目の前のご先祖様は、普通に会話している。


「ひっ……」

思わず声が漏れる。


怪訝そうな顔で、幹太とエリナがこちらを振り返った。


爽くんも――。


けれど、三人にはこの“鎧の武士”も、その声も見えていないらしい。


あまりにも存在感がありすぎるのに。


私はそっと顔を背け、廊下の端へ逃げた。


「逃げるな、小娘」


「小娘ではありません! カンナです!」

思わず返事をしてしまう。


「カンナ? 奇怪な名だな」


――うわっ、しゃべってるよ。


「お前の家にいる我らの家臣は、達者か」

ご先祖様は真顔で聞いてくる。


無視すると、ずっと話しかけてくる。


しつこい。


仕方なく、私は小声で答えた。


「……はぁ。元気にしてると思います」


挙動不審な私の様子を、爽くんがじっと見ていた。


――やだ、絶対変な人だと思われてる。


「視える」なんて知られたくない!


皆が別の壁絵を見ている隙に、私はほとんど唇を動かさずに言った。


「話しかけないでください」


「なんでだ。お前のご先祖様だぞ」


「はぁ……」

思わず視線が爽くんのほうへ向く。


「カンナ。お前はいくつになる」


「16歳」

私の視線は、露骨にわかりやすかったらしい。


「なんだ。あの男が好きなのか」


「なっ!」


思わず声を上げてしまい、三人が再び一斉に振り返る。


冷や汗がつっと背中に流れた。


「む、虫がいて……」

必死に笑ってごまかす。


動揺している私に、ご先祖様はさらに踏み込んできた。


「接吻はしたのか?」


「はぁっ!?」


「では、交合は?」


「う、うるさい!」

思わず声を張り上げる。


ご先祖様は鎧の中で、呆れたようにため息をついた。


「わしの子孫なのに、腰抜けだな。好いた男と子も作れないとは、情けない」


「良いの!爽くんと話すだけで私は十分なの」


「その話すも上手く言ってないだろう」

ご先祖様は、あくびをしながら決めつける。



「……もっと、自分に自信がついてから、話しかけるのよ」


「自信?」

「そう。美人になったら」


ーーエリナみたいな顔だったら、自信が持てるのに。


私がむきになって言い返すと、ご先祖様は一瞬きょとんとして、

次の瞬間――腹を抱えて笑い出した。


「無理だ! 美人は無理だ!」


「な、なんでよ!」

私の声が裏返る。


ご先祖様は、笑いすぎて兜を傾けながら言った。


「わしにそっくりだからだ!」


400年前から、この顔だ。


……うわ。


確かに、それは否定できない。


その時、爽くんが近づいてきた。


「今、笑ってたよね?」


「え……ええ。ほら、このお寺って、見どころ満載で」


必死に取り繕うと、幹太とエリナが引き攣った笑顔を見せた。


「もういいでしょ。イオン行こう」

エリナが声をかける。


寺の門を出ると、ご先祖様が手を振っていた。


――どうやら、ここに住み着いているらしい。


イオンに着くと、エリナが嬉しそうに私に話しかけた。


「洋服見たいから、カンナちゃん、付き合って」


「う、うん……」

と言いかけたその時。


爽くんがすっと間に入った。


「オレ、森崎さんと話したいんだ」


――ええ!? なにそれ!? 


夢が叶ったというやつ? 神展開!!


「え……爽、お前……森崎のことが?」

幹太が目を丸くする。


爽くんは、目尻をくしゃっと下げて笑った。


「森崎さん、いい?」


その顔に、逆らえるはずもない。


呆然としたまま頷く。


「じゃ、あとでね」

エリナが気を利かせたようで、幹太のシャツを引っ張って、洋服売り場へ行ってしまった。


信じられない気持ちで、

私は先を歩く爽くんの背中を見つめた。


胸の鼓動は、ご先祖様と話している時より騒がしい。


爽くんと私は、館内にあるカフェで話をすることにした。


注文したフラペチーノを一口飲んだけれど、味なんてまったく分からない。


――だって、爽くんとカフェデート。夢みたい。


しばらく、血天井の話をした後に、爽くんが急に真面目な顔をした。


「森崎さんだから話すけど」

爽くんが、カップの縁を指でなぞりながら言った。


――なに? まさか、愛の告白?


「オレ……」


少し躊躇う、その表情。


やだ、かっこいい。

もう、聞く前から“イエス”しかない。


「幽霊に、興味があるんだ」


……は?


頭の中で、何かが音を立てて崩れた。


「ほら、今日の寺とかさ。ああいう場所、好きなんだよね」


爽くんはリュックの中から、一冊の古びた本を取り出した。


タイトルは――『私は見た!亡霊の影!ー全国・心霊百絶景ー』


……まったく、触手が湧かない。


「これ、愛読書なんだ」


恍惚とした顔でページをめくる爽くん。


その横顔を見つめながら、

私は心の中でゆっくりと頭を抱えた。


――推しが、想像以上に“ガチ勢”だった。


「そ……爽くんは、幽霊とか見えるの?」

勇気を出して聞いてみた。


こういう話は、普段は絶対にしない。


霊感なんて言葉を口にした瞬間、“変な人”だと思われるのがオチだ。


それは、十六年間生きてきて身に沁みたこと。


「それがね……」

爽くんは小さくため息をついた。


長いまつ毛が、カップの湯気の向こうで揺れる。


「全く見れないんだ。でも、見れたらいいのにって思う。毎晩、暗闇を見つめてるんだ」


「そ、そう……」

思わず声が上ずる。


「でもさ、森崎さんは見えるでしょ?」


「えっ」


爽くんの目が、まっすぐ私を捉えた。


その瞳に、冗談の色はない。


「さっきも……あのお寺で、幽霊と話してたでしょ?」


心臓が止まりそうになった。


ーーなんで、わかるの?


「オレ、わかるんだ。幽霊と話せる人に憧れていたから」


普通なら、そんなこと言えない。


でも、爽くんは違う。


その瞳は、まるで宝物を見つけた子どものように輝いていた。


勇気を出して、私は小さく頷いた。


「……やっぱり!!」

爽くんが身を乗り出す。


そこからだった。 


彼は、オタク特有の熱のこもった早口で話し始めた。


「森崎さんって、血天井の家系でしょ?俺、知ってるんだ」


「ええーー。まぁ」


言葉を濁していると、爽くんが熱く切り込んできた。


「あの寺と同じ天井が、オレらの地元にもあるって知ってる?」


――うわっ。


それ、うちのことだ。


「……知ってる。うちにある」


ボソボソと答えた瞬間、爽くんの瞳がぱっと光った。


「本当に!?」


次の瞬間、彼は私の手をぐっと握りしめる。


指先から熱が一気に駆け上がる。


血が、沸騰するみたいだった。


「見たい! 地元に帰ったら、見せてもらってもいい?」


目の前に、爽くんがいる。


刺激が強い。


「……ええ」

あまりの強刺激に、ただ頷くしかなかった。


「やった!!」


喫茶店の中で、小さくガッツポーズをする爽くん。

周りの視線なんて気にしていない。


遠目から見たら、完全に告白が成功した図。

でも、現実はちょっと違う。


私はただ、呆然とした。


――爽くん。


名前も、笑顔も、声も爽やかなのに。


……中身、けっこう変だよ。



◇ ◇


「すごい!ほら!見て!このシミ、血に塗れた手だよね!」


旅行から帰るなり、爽くんはそのまま我が家にやってきた。


大きな荷物を抱えたまま、血天井を見て、興奮した面持ちではしゃいでいる。


そんな爽くんを尻目に、私は静かに天井にいる幽霊たちを見つめる。


彼らも異変に気づいているらしい。


落ち着かず、空中をふらふらと彷徨っている。


爽くんの興奮ぶりに、祖父が嬉々として説明を始めた。


「今度、雨の日に来るがよい。より一層、血のシミが濃くなるんだ」


「うわ!それ、良いですね!必ずお邪魔します!」


……やめてほしい。


そのあと、隣の仏間でお茶を飲む。


私の家に爽くんがいるなんて――夢のよう。


部屋の隅の幽霊たちでさえ、興味津々に爽くんを見つめている。


ーーあぁ、二人きりになりたい。


「森崎さん。あのさ」

爽くんは、少しだけ恥ずかしそうに私の名前を呼ぶ。


ーーなんだろう。


顔を上げる私に、爽くんはゆっくりと口を開いた。


「今度、一緒に出かけない?」


ーーえっ。これってデートのお誘い?


私の口は開く。


隅にいた霊たちが驚いたように、他の霊とざわめいている。


ーーお前たちは大人しくしろ。


チラッと幽霊達に牽制をかけた。


「オレ、行きたい場所があって」

爽くんはリュックの中にある例の本を取り出す。


ーー嫌な予感がする。


「この啜り泣きが聞こえる井戸に行ってみたいんだ。森崎さんの見解を聞かせてほしい」


ーーえっ。いや。


普通にイオンに行ってカフェに行きたい。


「ダメ?」

爽くんが刹那げに眉を寄せる。


反射的に「ダメじゃないけれど」と言ってしまった。


彼は満開の笑顔を見せた。


「嬉しい」


そう言って、私の手をぎゅっと握った。


!!!


興奮のあまり、鼻血が出そうになり上を向いた。


その瞬間、廊下の天井の血の跡が、かすかに脈打った気がした。


幽霊たちが、ゆっくりとこちらを向く。


ーーご先祖様。


爽くんと話す夢は叶いました。


けれど、思っていた展開とは違うようです。



お読みいただき、ありがとうございました。


幽霊が見える女子と、オカルト大好き男子。

恋とホラーの境界をふらふらしてみた短編でした。


カンナと爽くんのその後は、想像にお任せします。

(たぶん、次のデート先も心霊スポットです)


この作品は、現在連載中の

『秘密を抱えた政略結婚』とはまったく違う世界ですが、

どちらも「秘密を抱えた少女」というテーマで繋がっています。


歴史恋愛と、ゆるい霊感ラブコメ。

両方の世界を楽しんでいただけたら嬉しいです。


**『秘密を抱えた政略結婚 〜兄に逆らえず嫁いだ私と、無愛想な夫の城で始まる物語〜』**

https://ncode.syosetu.com/n2799jo/

<完結済>


時代も人も違うけれど、

そこでも「愛」と「秘密」を抱えた人たちが、静かに生きています。

恋愛の温度は、こちらの方が少し熱め。

まもなく15万PVを越えの作品です。


気になったら、のぞいてみてくださいね。


いいねやブクマをしても、幽霊はついてきません。

代わりに作者がすごく喜びます!

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