王立魔術学園バルコニーでの主張
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王立魔術学園バルコニーでの主張
とある王立魔術学園の中庭。そこでは新入生のために、歓迎会が催されていた。
始めは緊張していた新入生だったが、上級生と交流していく内に徐々に打ち解け、今では和気あいあいとした雰囲気に。
その中で、生徒会役員は軽食の補充を指示したり、小競り合いを始めた生徒を仲裁したりと奔走していた。
侯爵家の令嬢で、生徒会役員でもあるミラもその一人だ。
三年生で最終学年ということもあり、生徒会役員の中で誰よりも奔走していた。生徒たちに少しでも楽しい時間を過ごして欲しいからだ。
給仕と共に飲み物をグラスに注いでいた時、バルコニーに生徒が立つ。それに気づいた中庭の生徒達は盛り上がる。
歓迎会には、ちょっとした伝統がある。
それは、校舎の中庭に面しているバルコニーから、生徒や教師が日頃の様々な想いを主張。自分宛だと思った者が返答するといったもの。基本的に無礼講となっており、身分や年齢の垣根を越えて相手へ気軽に伝えることができるのだ。
誰が始めたのか分からないが、面白いと思った下級生が真似をし、今では新入生と上級生を繋ぐ潤滑油となっている。
女子生徒の主張。
「薬学の授業が楽しいです! ずっと、この学園にいて良いですかーー!?」
薬学担当の女性教諭の返答。
「ちゃんと卒業して下さーーい!!」
男子生徒の主張。
「先生、いつもカツラがズレています! 皆、気を遣うので何とかして下さーーい!!」
慌てて頭を押さえた男性教諭の返答。
「そういうことは、こっそり言うもんだ!!」
新入部員の勧誘に来た女子生徒の主張。
「白魔術限定の家庭科部で部長をしています! 新入生の皆さん、よろしくお願いしまーーす!!」
四、五人で固まっていた新入生が一斉に返答。
「男でも入部できますかーー!?」
その後も生徒、時には教師の主張は続き、賑やかな雰囲気に。
しかし、ある生徒がバルコニーに立ったことで一変する。
この国の第一王子、ニコラスだ。
中庭にいた生徒達から、何か不満があるのだろうかと、どよめきが起きる。
「私には好きな人がいます!」
第一王子ニコラスの主張は、まさかの愛の告白だった。
中庭にいた生徒達が、相手は誰だろうと、再び、どよめく。
「生徒会役員のミラ嬢!」
生徒たちが一斉にミラを見る。
「八歳のころから好きでした! 私と付き合って下さい!!」
ニコラスからの愛の告白を予見できなかったミラは、頭の中が真っ白になり、震えだす。
「え……あの……」
断りたいが、今はそういう雰囲気ではない。注目する生徒たちの目が、期待で満ちていたからだ。
「よ、よろしくお願い致します!!」
断って雰囲気が悪くなることを恐れたミラは、ニコラスの想いを受け止める。
新たに誕生したカップルに、生徒や教師たちが盛大な拍手を送る。
その後、折を見て交際を断ろうと思ったミラだったが、意外にもニコラスと過ごす時間は楽しく、いつしか心から慕うように。
そのまま魔術学園を卒業後、両家の了承を得て婚約。妃としての教養を身に付け、しばらくして結婚。
晴れてニコラスの妃となった。
王城にある庭園。ミラは王妃からお茶会に招待されていた。
そのお茶会で、魔術学園の歓迎会で行われている伝統は、現国王と王妃が始まりだったことを聞かされる。
最初は愛の告白だったらしい。
「ニコラスに話したことはないのに、親子ねえ」
「ふふ、そうですね!」
この時、ニコラスとの間に生まれた子が魔術学園の歓迎会で同じことをするとは、ミラは思いもしなかった。