その後彼らは
初投稿です。
誤字脱字等あればご連絡お願いします。
※構成が読みづらかったので編集しました。10/04/10
私は溜め息をついた。
もう何回ついたかなんて分からない。
「……本当に良かったんだろうか」
確かにあの時は選択肢はなかった。
私はどう考えても足手纏いだったし。
彼らの仕事は私を無事に元の居場所に帰すことだったのだから。
でも……
『……くな!』
あの後、“彼”はどうなっただろう。
『行くな…行かないでくれ!』
………駄目。
考えては駄目よ。
役目を果たした以上、私は用済みなんだから。
そう。
私はもうあんな人達に振り回されなくて良いの。
元の、ただの女子大生に戻れる。
それだけで十分。
…胸が痛いなんて、気のせいだわ。
††
「それで…其方は第一騎士の座を辞退すると言うのか」
「御意」
「して、理由は」
「…今回の功績は私自身の手柄ではありません故」
「そうか…分かった。下がれ」
「はっ」
††
妾は思わず耳を疑った。
「……何故辞退したっ!?」
世界の危機も去り、邪魔者を追い払い、父王の助けもあって、漸く彼の君を婚約者に出来ると思った矢先のことだった。
なんと彼の君自身がその褒美を辞退したと言うのだ。
褒美を辞退することは乃ち妾との婚約を拒絶することなのだ。
彼の君は庶民の出故、騎士にでもならねば妾と身分が釣り合わぬ。
「何故?…何故なのだ!?」
国一番の美姫と有名な妾の婚約を拒絶する理由なんて。
あぁ…分からぬ。
妾には到底検討もつかぬ。どうしたら彼の君は振り向いてくれるのだろうか。
††
「何故…何故なのだ!?」
あぁ、そりゃ姫さん。
あんたには分からんだろう。
あの旅の戦士が巫女様を慕っていたことに気付かなかったんだから。
彼の戦士の視線は姫さんになんか掠りもしていなかったことに。
「(戦士様もお可哀想だわ。よりによって姫様に目をつけられてしまったのですから)」
「(全くだわ。何を勘違いなされたのか…)」
「(あんまりにもしつこいから、戦士様愛想を尽かして今夜中には旅立たれるそうよ)」
そうだろうなぁ。
なんたって俺が手引きしたからな。
『さっさと引かないと逃げれなくなるぞ』って。
強行手段に出られると身寄りのないアイツなんかあっという間だろうし。
まさか姫さんも自分がお忍びに使う隠れ通路を使われるとは思わないだろう。
「……無事で、な」
今頃近くの湖だろうか。
††
八マイル先、城下町の更に向こう側、近くの森の湖の草むらに動く影がある。
僕は無事に王女の手から逃れた英雄を水晶玉から師匠と一緒に見ていた。
国を、世界を救った英雄。何処からともなくやって来た、謎の戦士。
そんな彼の希望は遥か彼方に消えてしまった。
邪な王女の策略によって。
「……寂しいな」
「師匠…」
「私は巫女をひたむきに慕う彼奴をからかうのが、ここ最近の楽しみだったのに」
見た目では分からないかもしれない。
でも、確かに師匠は哀しそうだった。
††
――――ザシュッ
「ぎゅるるるるるる…」
ザンッ――――ドスッ
これで三体目。
今日昨日と湖の周辺を散策したせいか、大分魔物の数は減ったようだ。
城を抜け出した俺は以前と同じように、冒険者として活動している。
そして、
今日で、“彼女”が帰ってから一週間経った。
俺としては、きちんと振る舞えていると思っていた。だが、
『ばーか。んなの見てりゃ一発で分かる』
『………確かに。凄く、分かりやすい』
脱出を手助けしてくれたかつての仲間達はそう言った。
あぁ、そうだ。
俺はまだ引き摺っている。“帰る”ことは彼女自身が決めたことなのに。
俺の腕を振り払って魔法陣の上に立った時。
払われた手が、想像以上に辛かった。
あぁ心が張り裂けるとは、こういうことを言うのか。目の前の現実を見たくなくて。
でも、もしかしたらまだ間に合うかもしれないと淡い期待を抱いて。
必死に手を伸ばした。
結局間に合わなかったが。期待なんて抱かなければよかったと何度思ったことか。
今でも夢に出る。
彼女の優しくて儚げな、そして何より今にも泣き出しそうな微笑みが。
「―――っ!」
――――ザシュッ
「ガルルルルルッ!」
「ヘルハウンドか!?」
すっかり油断していた。
まだ上級魔物が残っていたとは。
「ガゥッ」
「くっ」
しまった。
先程の戦闘で毒を受けていたらしい。
視界が徐々に霞んでくる。
『――もう…本当、しょうがないんだから』
いつかの彼女の声がする。そういえば何時も無理をしては苦笑しながらそう言われていた。
―――ザシュッ
腕を抉られた。
血が緑の大地を染める。
あぁ…
出来ることならもう一度、貴女に逢いたい。
††
「ん?」
誰かに呼ばれた?
耳がくすぐったくなる、低いバリトンの声。
感情の起伏があまり出ないけれど、時折凄く優しくなる声。
彼らは私が特別だからと言って笑っていた。
そうだといいな、という思いは、何時しかそうでなければ良かったという想いへ変わる。
だって、帰れなくなるから。
母と妹が待っているのに。そっちの“彼ら”と違って、私を必要としてくれる人が。
だから振り払った。
彼の手と一緒に、その想いも離れていけば良かったのに。
††
「それで。王子の容態は?」
「意識は無事取り戻したようです。しかし酷く魘されているそうで…」
七年もの間行方を眩ませていた息子が瀕死の状態で帰ってきた。
未だ目を覚まさない。
私の知らない間に何があったのか。
聞いても答えることが出来ない。
妻も娘も、夜も眠れぬ程心配しているというのに。
「う…」
どうか、早く目を覚ましておくれ。
††
俺は死ななかった。
気付かなかったが、どうやら故郷の近くだった為、巡回していた兵士が連れて帰ったようだ。
俺は死ねなかった。
彼女がいないのなら生きていても意味がないのに。
死ねば魂だけでも彼女の世界に行けるかもしれないと。
そう思って死を受け入れた。
結果はどうだ。
神はそれさえ許してくださらなかった。
俺は、俺は……
††
陛下にはお伝えしていない。
目を覚まされた王子が何とも言えない表情で遠い空の向こうを見つめていることを。
いとおしそうで、辛そうで、今にも泣き出しそうな顔。
見た瞬間、私は気付いた。
あぁ、王子は誰かに恋をしているのだ、と。
「王子」
「………」
「こんなしがない一兵士でよければ、お話を聞かせてください」
「………」
「勿論陛下にも殿下にも言いません。私達だけの秘密です」
そう言って漸く王子は此方に向き合った。
さ、王子。
男同士の秘密です。
思う存分、打ち明けてください。
††
キキ―――――――ッ
車の滑る音がする。
振り返ると同時に宙を舞う身体。
見えた空は灰色。
水面に叩きつけられて。
二人が再会するのは、そう遠くない。
どうも初めまして。
黒壷と言います。
徒然なるままに書いたので色々とおかしいかと思いますが大目に見てやってください。
これから精進していきたいと思っていますのでどうぞ宜しくお願い致しますm(__)m