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7 転生した理由





 そもそも、カイルとエリアナの関係がもっと良好で、エリアナがきちんとカイルと恋人になっていたなら、こんなことにはならなかったのか、もしくはもともとこういうふうになる予定で、国王陛下も許可を出したのかそれはわからない。


 しかし、その事実があったから振られたというのは、要因ではあるだろうと思う。


 けれども、一晩考えて彼はひどい事を言ったということはわかってもエリアナはだからどうするかという点についてはあまり深く考えられていない。


「まぁ、うん……」

「はぁー、そういう人間には見えなかったし、エリアナだってカイルとは政略結婚だとしても仲良かったよな」

「うん……多分」

「多分って何だよ、多分って。そもそも王家の人間は大体、転生者の兆候が出るんだったよな? だから国の貴族に転生者が出た場合王家に連なることが通例なんだろ」


 それはもちろんその通りだ。


 教会の持つ魔法道具によって、妊娠の際にその診断をすることができる。ちなみにべルティーナはその見通す力を持っているので聖女としてアルカシーレ帝国で名をあげたのだ。


 カイルにもたしかに、転生者としての魂が宿っている……らしい。


 記憶やそのあたりについては個人的な情報なので知らないが、地理的な関係で、同郷の転生者が多く、国の中でも馴染みづらい転生者は王家の血筋に入ることになっているのだ。


 現にエリアナも生まれた時からすでにカイルの婚約者だった。


「転生者だって理由で距離を置かれないんだから、仲良くはなるだろ。俺とエリアナみたいに」

「……でも、ああ言われてしまうと、たしかに私は拒絶……とまでは言わないけど私は意図的に距離を置いていた……だから、いやだった……のかも」

「そうかぁ? そもそも結婚もしてない女の子にヤらせてくれないからなんて理由で振るのはまっとうじゃないだろ、少なくともこの世界でも、まぁ、前世の世界観でも一般的に!」


 そう言って、アリアンナはお茶菓子のクッキーを口に運んで、もぐもぐと咀嚼する。


 前世はともかく、こちらの常識では、その通りだ。


 小さく頷くと、彼女は、同意したエリアナにクッキーを飲みこんで続きを言う。


「なら、やっぱり、許されることじゃない。別にエリアナは悪くないだろ。むしろエリアナは振り回されてた。浮気相手の前でこっぴどく振っていちゃつくなんて、外道のやることだ」

「外道……」

「ああ、そんな奴さっさと忘れて見返すなり、何か復讐してやるべきだろ。思い知らせてやるのがいい。それもエリアナが受けた屈辱以上にキッツイやつをお見舞いしてやれよ」


 当たり前のようにアリアンナはそう提案してきて、笑みを浮かべる。

 

 もちろんそういう思考になるのは、当然のことだ。あれは明らかに侮辱だった。


 今まで何年も婚約者として関係を築いていたのに、あんな振り方はないだろうと思う。


「何をしてやろうか。……俺だって協力したいが、今はほらこれだし、エリアナの事は好きだけれど、そこはどうしようもないからな」

「……ありがと」

「べルティーナの弱みでも握って婚約者の地位から引きずり下ろして、見返すとか、後は何だろうな。ほかにもっといい男を見つけて幸せになってやるとか?」


 彼女はピコピコと長い耳を動かしながらいろいろと提案を重ねる。しかし、エリアナはどうしてもそういうふうに思考が回らなくて、生返事を返す。


 すると彼女はエリアナが話に乗ってこなかったことに首をかしげて、それからエリアナに探るように言った。


「おいおい、どうしたんだ? そのぐらいやってやってもいだろ、気乗りしないのはわかるが凹んでてもいいことないだろ」

「……」

「…………。……ああ、もしかして、まだ奴に気があるとか?」


 ……気がある……のか……。


 問いかけられて、エリアナはついに言葉に詰まって、アリアンナの鋭い瞳から目を逸らす。


 それから絞り出すような声で言った。


「私……私は、その、あの人の事、カイルの事、あのね、アリアンナ」

「おう」

「う、運命の人だと思ってたっていうか思いこもうとしてたっていうか、そう、だから……む、難しい!」


 ついにエリアナはめったに人にいわない言葉を口にした。


 そんな言葉は恥ずかしいし、なにより、何をもってしてかと問われると確証といえるものなどない。けれどもただ漠然と運命だとそう思いこもうとしていた。


 けれども自分の中でもそれを信じられていなかった、だから彼には指一本触れないし触れられたくなかったのだ。


 エリアナの言葉を聞いて、アリアンナは、目をまるくしてそれから「未練があるとかではなく?」と聞いてくる彼に頷く。


「……運命、運命な……え? ……なんかすごい漠然としすぎじゃね……」

「……う、うん」

「それ、で……エリアナはどうしたいんだよ」


 最終的に、どういう方向性にしたらいいのかわからなかったらしいアリアンナはエリアナに問いかけた。


 それにエリアナは情けない事に答えを持ち合わせていない。


 自分が厄介で複雑な気持ちを持っていることは承知だ。しかし、今は……。


「今……は、私……なんか悲しい、それですごく寂しい。立場も変わって、状況も変わって、カイルもべルティーナに取られて、今私、どこに立ってるんだろう」

 

 アリアンナに話をしたら、この気持ちもどうにか安定して、何かしらの答えを見つけることができると思っていた。


 しかし、話を真摯に聞いてくれる友人だからこそ、エリアナは自分の今のとてもありふれた転生者らしくもない普通の弱音が口を突いて出る。


 それに、アリアンナは一つ、二つと、瞬きをしてそれから、静かにソファを立ってエリアナの隣にやってきた。


「そうか、そりゃそうだよな」

「私は、何を目指したらいいんだろう。っ、アリアンナ、情けない所を見せてごめんなさい。あの人が来てから、たしかに色々なことが変わっていってるとは思ってた」


 心細いとわかってしまうような弱音がぽろぽろと口からこぼれ出ていく。


「対立をするようなことだってした。それまではべルティーナの事なんて怖くもなんともなかったのに、あの人を、婚約者を奪われたって思ったら、情けなくて、堪らなくて、この世界で私が何者なのかも……なにを成すのかも意味があるのかもわから、ない」

「……ふー、なるほど。……なるほどな」


 そう言って彼女は、優しい言葉をかけるでもなく、震えて小さくなるエリアナの背を摩って、その優しい手のひらが心地よく感じる。


 この人が男の人だったらエリアナは運命を感じていただろうか。


 カイルである必要はあったのか、エリアナが信じていた”転生した理由”は正しいのだろうか。


 記憶を持ち、ギフトを持ちやってきた転生者にはその理由があるという。


 エリアナはその理由を、確固たるものを見据えて、ここまでやってきた。しかし今はそれが信じられず、その理由を成すことが運命として定められているのかもわからない。




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