6 厄介な隣国
すべてを話し終わると、アリアンナは仏頂面でしばらく考え込んだ。
それから、そのなんとも言えない表情のまま、おもむろに手をピースの形にしてエリアナに言った。
「俺が指摘したいことは二つある、いや、ほかにもいろいろ言いたいが、とにかく言及したいことは二つ、いいか?」
「うん」
「まず、一つ目。やっぱりそうなると、べルティーナの考えに賛同する派閥が盛り上がってんのは、あながち間違いじゃないって事か?」
指を一本折って一つと示す彼女の指はすらりと細くて長い。
言われた指摘に、それも重大な懸念事項だと思う。
特に、王家に嫁ぐ身としては思う所があるのだろう。アリアンナは第二王子のフィルと婚姻関係を結ぶことになっている。
「……それは、多分間違ってないかも。もともと教会からの圧力と帝国の後ろ盾もあって、亜人を排除しようとする動きが強かったから、さらにべルティーナが実質的にこの国の地位を確保した状態になったら確実に体制が変わると思う」
「だよな。はぁ、イマドキ差別なんて流行らないだろ」
「ね、イマドキ流行らない」
転生者同士しか通じない言葉でも、二人の間では当たり前のことだ。
エリアナは普段からそういう、人間が至上だと考えて他人を貶める人間にはうんざりしている。
ここぞとばかりに、同意した。
「ただ、そうやって権利を認めずに使役するだけの奴隷にしてしまえば、儲かるってのも事実だろうしな。ただ、俺はこっちに来てから初めて知ったぞ、そんなこと」
「私もだよ。この王国はそういう事だけはしないから、安心してたのに。べルティーナが王妃になったらそれもどうなるか……」
「そういえば国王陛下や、クリフォード公爵のお考えは聞けてないのか? あの人らだってそんなことを許容するような人種じゃないだろ?」
「……それが忙しいみたいで……」
「まぁ、そら、アルカシーレ帝国と地続きの隣国なんだ、忙しくないわけがないし、べルティーナの関係もあるだろうから仕方ないんだろうが……なんだかな」
そうなのだ隣にある大国は、帝国というだけあって、血気盛んというか、勇猛果敢というかとにかく、気を抜くとすぐに国を攻め落としにかかってくる厄介な国だ。
そんな場所の出身のべルティーナを推している勢力はソラリア王国にもいる。
彼らは総じて何らかの事件が起こって自分たちが帝国に媚びを売って甘い蜜を啜るタイミングをずっと狙っているのだ。
「俺らの親世代には、しっかりしてほしいぜ。ただしっかりしろとは、王太子殿にも、俺は存分に言いたいが」
そう言って、アリアンネはさらりとした金髪を揺らして首をかしげてエリアナに視線を向けた。
切れ長の綺麗な目に射抜かれて、やっぱり少しドキドキする。エルフの血が混ざっている人間はどこか神秘的で心臓に悪いのだ。
「おっと、これは二つ目に指摘したいことだな。差別問題はいざとなるまで置いておくとして、二つ目。これは友人としての話だが、ヤらせてくれないからなんて理由で振られたんだって? エリアナ」
話は切り替わって、カイルがエリアナを振った話題になり、エリアナは表情を硬くした。