43 特別な
到着するとすぐにエリアナはアリアンナにお願いがあるのだと話した。すぐにでも会いに行きたいと思っているけれど、アルカシーレ帝国からリオ王子も来ている以上、カイルだって暇ではない。
それにベルティーナと婚約している以上は何よりも優先してアリアナに会ってもらうことなど不可能だ。
けれど体面上はそうしてベルティーナと婚約関係を結んでいるのにも何やら事情があるからといった様子だった。
であればエリアナが会いたいと言えば彼だって、心の底からエリアナの事を拒絶しているわけじゃないのだから会ってくれるだろう。
ならばごり押しで彼の元へと向かって、正式な手続きを踏まずに突入したって良いのではないか。事情があったとはいえカイルにはあんなふうに言われて傷つきもした。
多少の強引さぐらいは許してほしいものだ。
「というわけで、アリアンナ。私、あの人と結婚したいしやっぱり運命だと思う。だからお願い、協力してほしいの」
エリアナは今世の人々には通じないが、相手がアリアンナという事で手と手をぺちんと合わせて、頼み込むようなポーズをした。
すると彼女は、片方の眉だけ上げて外人さんみたいにおやっという反応をしてから、暇つぶしに読んでいた本をパタンと閉じて、エリアナに目線を向けた。
「おいおい、急に戻ってきたと思ったら、妙にやる気だな。何かあったのか? お前、運命かどうかわからないとか、婚約破棄されたからにはっていろいろ思い悩んでたろ」
「……それは、まぁ、結局運命なんて、自分がそうだったらいいなっていう願望みたいなもので、人それぞれ山ほどあるんだなとか」
「おう」
「そうなら自分が感じた運命なら自分で信じるしかないんだって、やっと思ったから、カイルにそのまま伝えたくて」
「なるほどな。結局……お前がちゃんと納得したみたいで何よりだが、腑に落ちねぇな。俺はあんなに協力してやったのに」
彼女は頬杖をついて少し不貞腐れたように言う。
家から飛び出してきたエリアナに親切にしてくれて、さらにはいろいろな話を聞いてかばってくれた。しかしエリアナはそんな彼女とはまったく関係のない所で勝手に納得して、勝手に切り替えてしまった。
「……ごめん」
それはたしかに面白くない事だろう。
勢いに任せてやってきたエリアナだったが、立ち戻って考えてみてそれから少ししょんぼりとして謝った。
「あ、いや、そんなに間に受けて悲しそうな顔されても……なんつうか……そりゃもちろん協力するが、なぁ、ほらエリアナ」
素直に謝るとアリアンナは嫋やかな金髪をさらりと揺らして立ち上がり、手を広げてエリアナの方へとやってきた。
「!」
「俺もエリアナの事、大切に思ってるんだ。困ってるなら何か助けになってやりたいと思うし、何より俺らは、転生者で同年代。特別だろ?」
「うん」
「エリアナに俺が何か答えを指示してやりたかったし、あんな女さっさと追い出す力が俺にあったらよかったんだがそうもいかない。俺はエリアナの役にやってるか?」
柔らかく女性らしい彼女の体と触れ合って優しく抱きしめられる。
なんだかほっとするような香りがしてエリアナももちろんだとばかりに笑みを浮かべて返した。
「もちろん、アリアンナがいてくれたなったら私、きっともっとぶっ飛んだことしてたと思う」
「……なんだ? ぶっ飛んだことって」
「えー、と実家を捨てて旅に出るとか?」
「そりゃたしかに突飛だな」
「でしょ? 今世だと旅なんて割と危険と隣り合わせだし何があっても文句言えないからね……」
「盗賊団があるってのもアウトローだよな」
「ね、ファンタジー世界みたい」
「何言ってんだ、俺らはファンタジー世界の住人だろ。まぁ、そうはいっても、男がヤれないからって理由で女を振ったり、亜人差別があったりする現実世界寄りファンタジーだがな」
アリアンナは、愚痴を言うようにこの世界の事を表現してエリアナもたしかにそうだと思う。
転生した当初はもっとお姫さまが魔法にかけられて馬車に乗ったり、小人と歌って暮らしたりするのだと思っていた。
しかし、前世で自殺したことを人殺しの罪だと言われたり、そう簡単には”彼”が見つからない事も含めて現実相応にうまくいかなくてままならない。
そしてこれはエリアナたちに取ってまごうことなく現実で、変えようのない今の世界だ。
「それで? 頼み事ってのは何なんだ? 俺を頼ってきたってことはやっぱ魔法か」
そう予想してくるアリアンナにエリアナは深く頷いて、少し緊張して聞いた。
「うん……あのね、正式にじゃなく、直接カイルに会いたいの。魔法をかけて欲しいんだけどそれだけじゃなくて自分で解けるようにもすることって出来る?」
「……なるほどな。ただ前みたいには行かないかもしれないぞ、他国の王子の来客もあることだし、襲撃もあった。王城自体相当警戒モードだろ」
「うん。でも今、会いに行きたいんだ。お願いアリアンナ」
「……はぁ、まったく、エリアナはホントにかわいいなぁ」
エリアナはいたって真剣にアリアンナに頼み込んでいたのだが、彼女は、何故だかそんなことを言って再度、ぎゅっと抱きしめた。
それから探し物を始めて何のかんのと面倒な手順を踏んでいつもとは違う方法でエリアナに魔法をかけた。
それは、アリアンナの魔法を魔法道具に移して、そこからエリアナの魔力を使うという特殊な方法でいつもの鳥の姿に変身する。
首から魔法道具の指輪をぶら下げてエリアナは王城へと向かった。
彼女は少し寂しそうに窓を開けてくれて、エリアナを見送った。
特別な共通点と縁で仲良くしてくれる彼女は、とても頼りがいがあってよい人だ。親友といってもいい。
だからこそ、カイルとの関係性や、ベルティーナの思惑などいろいろなものが絡み合う王太子の婚約者の席だがエリアナには特別な意味を持つ。
それは、なんのつながりもないエリアナとアリアンナが義理でも姉妹になれるという事で、実はとてもうれしかったりする。
その席をベルティーナに取られて姉妹面されたらエリアナはとても、腹が立つと思う。
だから早くその席を取り戻すためにも、エリアナはアルフの頭にのって、この出来事の一番の中心地である王城へと急いだのだった。




