38 無邪気な護衛
彼らが野営していた道沿いに戻ると、すでに父や村長、それから獣人の兵士たちも到着している様子だった。
しかしそのほとんどが、なんだか少し緊張している様子で、そばに行ってみるとたくさんの人が倒れている中でアルフだけが、ゴキゲンにルンルンと歩き回っている。
彼は耳と尻尾を楽し気に揺らしながら食いちぎった襲撃者の首を咥えていてとても楽しそうだ。
「あ、エリアナさま!」
アルフがエリアナに気が付くととても嬉しそうにこちらに駆けてくる。
その様子はとてもモザイクなしで見るのは普段なら不可能なのだが、何より戦え、殺していいとはいっても、あまりにもアルフが血まみれだったので、エリアナの方からも駆け寄った。
「アルフ! 怪我はしてない? あなたのおかげで助かったよ」
「してない、してない! 見て見てこれ、首、噛み応えがあってよさそうなんだ! エリアナさま」
とても楽しそうな彼は、襲撃者の生首をブルンブルンと振って大喜びだ。
噛みつかれたのか目玉がつぶれていて、舌がだらんと口から出ている。
……ああでも、ここまでくると作り物みたい……かも……いや、嘘、グロいや……。
よくよく見れば怖くないと思おうとしたのだが、よくよく見れば見るほど恐ろしい。
しかし、それよりもエリアナは彼の言葉の方が気になって、アルフのハーネスにリードをくっつけながら、彼に聞いた。
「まさか食べるつもりなの?」
「うんっ、骨がおいしいかも」
「……」
無言でエリアナたちのやり取りを見ていた周りの人間は、なんだかざわざわついている。
エリアナはその言葉を聞いて、今まではすぐに死体から離していたから、こういう事にならなかっただけで、彼は別に人間だから友好的に接しているわけではないのだなと漠然と思う。
人間でもおやつの骨と同じものが中に、あったらゴリゴリと肉をこそいで食べるだけなのだろう。
しかし、それを人間は食べてはいけないと頭ごなしに言うのもよくないだろう。
エリアナは少し考えてから、人差し指をたてて彼に言い聞かせるように言った。
「アルフ、たしかに頭蓋骨が丈夫でおいしいかもしれないけど、あなたは人の姿にもなる獣人でしょ?」
「ワンッ」
「だから、形が近いものを食べると、その人の中に住んでる病気とか汚い寄生虫が移ることがあるんだよ」
「ワフ?」
「だから人間を食べるのはやめておいて、そっちにいる馬、後で解体してもらうから馬の頭蓋骨を食べたらいいよ。多分美味しいよ」
「馬! 俺、鹿と、牛と豚と鳥しか食べたことない! 馬はおおきいなエリアナさま」
「うん、たくさん食べられるよ」
彼が殺した中には、もちろん襲撃者たちの乗っていた馬もあり、そちらの方が食べるのに適しているだろう。
別に人間を食肉としてみるなとは言わない、しかし優先して食べるべきものではないと覚えてくれていればそれでいいのだ。
「……よし、お待たせしました。お父さま、村長、アルフの為に死んだ馬を一頭、クリフォード公爵家が買い取ってください」
「もちろんだ、アルフ、やはりお前を護衛に任命しておいてよかったな」
「俺強い? 褒めてくれる?」
「ああ、お前は強いぞ」
父はそれほど気にしていないらしく、アルフの血濡れの頭を撫でてくれるが村長やその他の獣人たちは引き攣った表情を浮かべていて、誰を見ても視線が合わない。
……彼らから見るとアルフがすごく常識外れで、化け物みたいに見えるんだろうけど……。
正直私からすると、耳と尻尾が生えていてたまに獣の姿になったりするのも、魔法なんてものを使えるのも、その時点で化け物みたいなものだからアルフが特段変だとはまったく思わないんだよね……。
なんだか価値観の違いを感じるなぁと思いつつも、背後にいる騎士たちの方を振り返った。
「リオ王子殿下も無事に見つかりましたし、これで一安心という事でコベット村に向かいましょう。馬車が横転してしまっているので荷物を運んだりと少し滞在することになるかもしれません。構いませんか?」
「はい……私はそれで問題ないです」
「よかったです。それから騎士の皆様も後から来た援軍の方々も両方にお聞きしますが、襲撃者を捕らえられた人はいますか? アルフは見ての通り、戦況の回復を目標にしていたので、捕らえることまでは出来ませんでした」
あえて、アルフが常に人を殺すことしかできない事は言わずに、戦況が苦しかったので死力を尽くして戦った体にして彼らに聞いた。
すると一人の騎士が声をあげて、捕虜の確保も確認できた。
さすがは本職の戦闘員だ。エリアナとは違って、アルフに隠れてこっそりとらえることができたのだろう。
その捕虜を連れて、一度エリアナたちはまとめて村へと戻ったのだった。




