34 納得
部屋へと戻って、アルフはふと人の姿になった。
彼は、しばらく突っ立った後「う」っと声をあげて、子供みたいに顔をしかめて泣き出した。
「……う、ううっ、なんか俺、ひどいこと言われた。ただちょっとじゃれたかっただけなのに」
「そうだね、おいで、そうだよね」
エリアナは目を細めて、適当にソファーに座る。すると彼はそのままカーペットにどすりと座り込んで、エリアナの膝に突っ伏した。
「エリアナさま、運命って何? 死んだ方がいい理由ってそれなの?」
フワフワの耳をなでつけて、問われた質問に、エリアナは先ほど見つけた答えを返した。
「運命は……結局、人がそうなったらいいなとか、こうなるべきとか思う、願いみたいなものだよ。アルフ、理由とはちょっと違って、彼女がアルフを見て嫌な顔をしたのは、アルフが少し……子供っぽかったからかな」
「俺、立派な大人なのに?」
「そう、自分より年上の人が、そういう行動をするのは嫌な人もいるんだよ」
「わっかんない、俺、元気なだけだ」
「大丈夫、私から見てもそうだよ。ちょっと人と違うだけ、それでいいじゃない。誰も悪くない」
アルフも、きっと彼女だって悪くはない、悪かったのはそれをよしとできない環境だろうか。
けれども環境というのは変えるのがとても難しい、エリアナにだって無理である。
だからこそ、自分が許される場所に向かう事、それがきっと一番の解決の近道かもしれない。
……そうだとしたら、きっと”彼”もそのために前世から今世にやってきたのかな。
「悪くないのに、怒られたっ! ひどいよ、エリアナさま、エリアナさま……」
きゃん、きゃんと子犬のように泣く彼に、これは相当傷ついているのだなと悲しくなってしまう。
けれどもエリアナは慰めることしかできないし、アルフはいい子だ。それは変わらない。
わしゃわしゃと撫でつつ、早くここを去ろうと思う。この場所はアルフがいて幸せになれる場所じゃない。
エリアナにとっても何も解決しない。
王都に戻ったら、何から始めよう。
……よくよく考えてみると、カイルに対する運命の話と、ベルティーナが国に介入している話が混ざり合ってこんがらがってたんだよね。
でも、カイルに対する運命の話は、もう決着がついた。あまりに唐突で、不意の出来事だったが、思いついてしまえばその通りで、こんなに簡単にふと腹に落ちることがあるのだなと少し不思議な気持ちすらある。
長年、ずっと腑に落ちなくて信じることが出来なくて、迷っていて彼に指一本だって触れることができなかったけれど、今はきっとそうではない。
運命だと思っていると素直に言おう。運命は私の原動力だ。望みだ。
もしかなわなかったとしても、エリアナには沢山の縁や原動力がある。
それは亜人たちの事だったり、アルフやディーナの事だったり、アリアンナの事だったり、国の事だったりするけれど、転生して、生きてきて”彼”だけがすべてではなくなった。
……そうしたら、私の婚約者は奪われた、そういう運命だったという事を認めよう。かなわない事が運命で、その代わりに追いかけたことで手に入れたものたちで私は手を打てる……かもしれない。
そこを断言することは難しかった、けれども信じたいと思うからこそあまり深くは考えなかった。
あとはベルティーナの事だけど、リオ王子がやってきて何か、状況が変わるだろうとは思う。しかし実際どういうふうになるんだろう。
それもそれで、エリアナは自分のそばにいる人たちを守るために、行動を起こすほかないだろう。彼の事も彼女の事も別々に考えれば案外あっさりした内容だ。
考え事をしていたらアルフはもうすっかり眠ってしまっていて、きっと明日の朝にはケロッとしていると思うし、そういう子だ。
そしたら少し、獣人の歴史を教えてご飯をたっぷりとあげようと思い、もう少しだけ頭を撫でてやったのだった。




