32 家族ってやつ
エリアナがブラッシングを続けていると、ふとアルフは起き上がってひくひくと鼻を動かした。
「……どうかした?」
問いかけると彼は首をかしげて、耳も動かしてそれから「へんなにおい」とぽつりと言った。
その様子にまさかリオ王子を狙った襲撃者かとエリアナはすぐに想像した。毒矢や、攻撃用の火薬を持っていたりしたら変なにおいだとアルフが反応するのもおかしくない。
「それは……どんな匂い? ことと次第に寄ってはお父さまに報告しないと……」
控えていたディーナも、エリアナの緊張した声を聞いてすぐにそばにやってきた。
「ん、ん-とこれは……」
「これは?」
「なんか変な……」
「……」
「そうだ、俺に近い血の匂い!」
彼は、思いついたようにぱっと表情を明るくしてそう言い、エリアナの上から移動して背後にある窓に手をついた。
その視線の先にいるのは、夜のうちに明日の朝の食料を運んでいる、亜人の女の子たちの集団だった。
「……」
……近い血というとアルフの家族? たしかに似たような耳をしている子がいるみたいだけど、私、アルフの家族にはいい思い出がないんだよね……。
クリフォード公爵家にアルフが引き取られてから何度か、この村に訪れたことがあるが、彼の家族は一度だけしかエリアナとアルフの元には顔を出したことがない。
それも顔を出したといっても偶然村の中でかち合っただけだ。
だから実質、一度だって正式な挨拶を交わしたことがないのだ。それに前回に会った時だって、ご両親に嬉しくない事を言われたような……。
「会いに行ってみよ! ね! エリアナさま、お願い!」
「そうはいってももう日もくれたし、外に出て何かあったら危険だし……」
「じゃあ俺、会いに行ってくる! 家族ってみんなにもいるし俺にもいるんじゃないかなって思ってたんだ」
……いるんじゃないかなっていうか、物心ついて問題が起きるまでは一緒に過ごしていたし、前回も会ったよ。アルフ。
心の中ではそう思うが口には出さない。そんな昔のことなど忘れているのだろう。おやつの骨もしゃぶりつくしてしまった様子だし、ほかに気を引けるものもない。
「エリアナお嬢様、どうされますか? 私はあまりお勧めできません。エリアナお嬢様も覚えていらっしゃると思いますが、アルフに対して獣人の方は……」
「うん……うん、そうなんだけど」
「開けて、開けてっ~、家族が逃げちゃう」
アルフが前足でひっかくがクリフォード公爵家のドアとは違ってアルフが開けられるタイプではないドアだ。なのでアルフはチャカチャカと前足でひっかいている。
彼がこんなに嬉しそうで、この状況で会うなという方が酷だろう。
「私がついていきます、ディーナは明日に備えて眠っていてください。アルフがいれば危険はないから」
「……わかりました。ハーネスの準備だけはしますね」
「うん、お願いします」
「アルフ、外に出るなら準備があるでしょう、ほらこちらに」
ディーナが声を掛けると彼は大喜びでディーナの元に飛んできて「ワンッ」と犬らしく吠えた。




