21 用事
招待状もあるので、見知らぬ令嬢の姿をしていても、エリアナは簡単に中に入ることができ、王城の大ホールにはたくさんの貴族たちが集まっていた。
いつもの舞踏会よりもどこか貴族たちは探り合うような警戒した雰囲気が強く、この状況で純粋にパーティーを楽しめる者は相当、鈍感な人間以外にいないだろう。
そう考えながら、オールストン公爵のそばについて自分の派閥の貴族と交流をしているアリアンナの少し後ろをディーナとともに隠れるように着いていった。
すると、ざわざわと周りが少しざわりと色めき立ちディーナが耳打ちするようにエリアナに言った。
「エリアナお嬢様、王族の方がこちらにいらしています」
……まさか、カイル?
ふとエリアナはそう思って心臓が痛いぐらい跳ねた。
周りをよく見ていた彼女の言葉に、エリアナはさらにアリアンナの陰に隠れるように少し小さくなってその陰から人々の視線の先を追った。
舞踏会の開会宣言の前に交流をしている貴族たちは、ぞろぞろと護衛を連れてやってくる王族に次々と道をあけていく。その様子はこの国での王族権力をとても強く表しているかのようだった。
「オールストン公爵、ごきげんよう」
にこやかにオールストン公爵へと声をかけたのは、この舞踏会の主催者であるデルフィーナであった。
「デルフィーナ王妃殿下、これはこれはお久しぶりでございます。開会後こちらから挨拶に伺う予定だったのですが、わたくしの元までいらしてくださるとは……光栄の至りでございます」
小さく頭を下げるオールストン公爵に倣って、アリアンナもエリアナも淑女礼をして頭を低くする。
「ええ、本来ならばそれが通例……けれど、今日は特別に、用事があるのよ」
「……といいますと、やはり」
「はい。……エリアナを連れにきましたの」
うっとりとするほどやさしい笑みを浮かべて、デルフィーナはアリアンナの陰に隠れるようにして姿を変えて頭を下げていたエリアナの方へと視線を向けた。
……私を……?
疑問に思いながらもこうして名指しされてしまえば、このまま見知らぬ令嬢の姿で欺いたままデルフィーナに対応するわけにもいかない。
彼女もエリアナが、アリアンナの魔法で変身していることに気が付いている様子で、姿が変わっていてもデルフィーナに対しては意味がなさそうだ。
アリアンナはちらりとこちらに視線を向けてきて、頷くと彼女は腰に差しているロットを手に取って軽く振った。
「おお、あれは」
「まさしく、転生者の……」
姿が変わって本来の赤い髪に、金の目という派手な姿に戻ると、アリアンナの魔法にかそれとも、最近世間を騒がせているエリアナにか、貴族たちが声をあげた。
エリアナは不安な気持ちを整理できないまま一歩進み出てデルフィーナの様子を窺った。
「デルフィーナ王妃殿下……本日はお招きありがとうございます。デルフィーナ王妃殿下のお目にかかりたく参りました。……わたくしも場違いとは存じますが、オールストン公爵閣下とともにご挨拶に参る予定でしたが、用事とはどのような事でしょうか」
「エリアナ、用件は後でわかることですわ。今はただわたくしについてきてくださいませ」
「承知いたしました。……アリアンナ、行ってきます」
そういわれてしまえば、この場から逃げ出すこともできない。縋るような思いでアリアンナに声をかけると、彼女も複雑そうな表情で、鼓舞するように一度頷いた。
デルフィーナのそばについて、主催者や王族の為に用意されている壇上に上がると貴族たちの視線が一斉にエリアナに向けられる。
多忙な国王陛下は不在だったが、代わりに国の宰相や重役が回りにおり、デルフィーナの少し下座の席には、カイルと隣り合ってベルティーナが座っている。
彼女の視線はとても鋭く、エリアナの事を敵か何かのように見つめていた。
「定刻ですわ。舞踏会の開会を宣言してくださいませ」
「はい、仰せのままにデルフィーナ王妃殿下」
代理で宰相が拡声器の魔法道具を使い、静まり返っている貴族たちに開会の言葉をつらつらと述べていく、エリアナはデルフィーナと壇上に取り残されて、とてつもない場違い感を感じながらもその言葉を聞いていた。
開会の宣言が終わるが、貴族たちは交流を始めることはない。
この普段ではありえない事態に、誰もが何が起こるのかと奇異の視線を向けていた。
「それでは、わたくしから一つ、貴族の方々に報告があります。今日の舞踏会は、このために開催したといっても過言ではありません。それはここにいるクリフォード公爵が娘、エリアナの功績についてですのよ」
拡声器の魔法道具を手に取り、デルフィーナは示すようにエリアナを指し示す。
突然のことに話が分からなかったエリアナは、出来るだけ毅然とあたり前の事のように受け入れることしかできず、思考を巡らせながらも大勢に見つめられて小さく笑みを浮かべた。
……こ、功績?
「彼女は、異国からやってきた亜人である、鍛冶師のドワーフ一族の才覚をその慧眼で見抜き、既存の価値観を壊し新たなる選択肢をわたくしたちに与えました」
デルフィーナの声は拡声器の魔法道具などなくても、どこまでも響き渡るようにはきはきとしていて、聞き取りやすい声だった。
「転生者として、その才覚をよく発揮し、先日魔法協会からも、特別な魔法技術として認定が下りたところです。これでソラリア王国はまた一歩、世界各国に対する影響力を強くしたことでしょう」
たしかに、非常に面倒くさい手続きを踏んで、一か八かで申請していたが、王太子の婚約者を下ろされた時点でご破算になった話だと思っていた。
認定が下りれば魔法協会の後ろ盾を得られて国家間で、重要な魔法道具として取引をすることができる。これは、彼らドワーフにとってとても大きな転換点になるだろう。
「彼女のソラリア王国に対する献身と努力にわたくしはここに敬意を表します。感謝いたしますわ、クリフォード公爵令嬢。これからもよく、国の為に尽くしてくださいませ」
丁寧にお礼まで言われてエリアナは目を丸くして間抜けな顔をしそうになった。しかしそんなことをしてはせっかくこうして大勢の貴族の前でエリアナの顔を立ててくれたというのに、デルフィーナにも申し訳がない。
緊張でカチコチになっている体を何とか動かして、笑みを張り付けたまま、その場で跪いてデルフィーナから差し伸べされた手を取る。
そして手の甲へと口づけるしぐさをする。
「仰せのままに、デルフィーナ王妃殿下」
彼女に聞こえればいいので丁度良い声量で返事をすると、警戒するように見つめていた貴族たちはめでたい知らせにわっと湧いて、ちらほらと拍手が聞こえると、あっという間に広がって拍手喝采となった。
「……報告は以上ですわ。本日は、皆さま無礼講、優雅なひと時を楽しんでいってくださいませ」
そんな言葉でエリアナへの用事は終わり、開会の宣言は締めくくられた。




