17 いっそのこと
受け取ってオールストン公爵家に戻るとすでに日が落ちていてフィルは王城に戻った後らしかった。
どうだったかと聞いてくるアリアンナにあったことや聞いたことを話して、対策を立てるのはまた後日にしようと取り決めた。
その時に、手に入れてきたドワーフ製の剣をフィルに渡したいという旨を伝えると彼女はキョトンとしていたが、エリアナは多少の説明を付け加えた。
ドワーフ製の武器は、魔力によって形を変えることができる。この技術のおかげで、アルフは、人の姿になった時にも帯剣している状態で変身できる。
洋服などは人の姿から変身するとどこかへと消え去って、獣になった時には前回にその状態だった時と同様の姿かたちになるが、剣だけは消えることなく形が変わり犬の姿のハーネスにくっついた状態になる。
邪魔にならないような短剣に形が変わってくれるのでアルフも気に入っているのだ。
それを利用して、アリアンナに魔法をかけてもらうことが多いフィルにも同じように、どんな体になっても常に武器を装備していられるように、とエリアナが他の貴族へのプロモーションもかねて作ってもらっていたものが今回の剣だった。
相手が王族なのでオーエンも魔力が合うか心配だと言っていたというわけだ。
タイミングをみてその調節を行うためにまたフィルにはこの屋敷に来てもらった時にでも時間を取ってほしいと伝えて、エリアナは自身の部屋へと戻った。
今日一日、なんだかとても疲れた気がしてその日はすぐに眠りに落ちたのだった。
翌日以降、エリアナと、アリアンナは、ベルティーナとカイルの約束についてああでもないこうでもないと意見を交わしていた。
彼らの間に何かしらの事情があることは察せられたが、実際にそれが何なのかということはわからない。
それを暴いてあわよくば、ベルティーナを脅して静かにしていてもらうことが出来れば万々歳だ。
だからこそ、心当たりを必死に思い出してみる。
カイルの話を聞いて、どうやらカイルはエリアナに負い目を感じている様子だった。
自分なんかなんていっていて、エリアナにあんなふうにヤらせてくれないから別れたいと言った事を後悔している様子だった。
つまり思ってはいても、言うつもりだったわけではなく別れの理由はもっと別のところにあって、エリアナを振って傷つけることよりももっと看過できない事実だったという事だろうか。
それとも負い目もあったし、ヤらせてくれないから、エリアナにあまり関係ないけれどベルティーナとの関係を結ぶために振っただけなのだろうか、エリアナにはどの程度関係があることなのだろうか。
考えてもわからない事ばかりで、結局、二人して頭を抱えただけになったがそこでアリアンナが言った。
「ところで、エリアナ」
「ん?」
「ならいっそ、別にお互い嫌いあってるってわけじゃないんだったら、関係ぐらい結んじゃえばいいんじゃないか? こっそり忍び込んで、既成事実でも作ってやればベルティーナだって対抗できないだろ」
「……」
「それならヤれないなんて言い訳も潰せるわけ……だし。駄目なのか? まさかエリアナだってカイル王太子殿下の言葉通りに一ミリだって触れ合ったことがないし、やりたくないなんて言わないだろ?」
アリアンナはそう名案だとばかりに口にして、それからエリアナの顔を見た。
もちろん彼女からすれば、こっぴどく振られても嫌いだともいわないし、事情があるならあるで知りたいというエリアナにもういっそと、こういう提案をするのは必然だろう。
普通の令嬢ならいざ知らず、エリアナたちは転生者だ。
多少なりとも精神年齢は高い方だ、今更、純潔の男を知らない乙女というわけでもない。
指先一つだって触れ合ったことがないというカイルの言葉は、アリアンナの中で、理由付けの為に過大に言われた言葉であると思っていたらしい。
しかし、エリアナはその言葉にうんとは言えないのだ。
「…………実は、カイルにちゃんと触った事……一度もないのは、ほ、本当」
「は? もう十五年も婚約者やってるんだろ。手を触れたり、ぐらいは」
驚くアリアンナにエリアナは頭を振った。
「じゃ、じゃあ、親愛のハグぐらい」
さらに首を振る。
するとアリアンナは絞り出すように言った。
「舞踏会のエスコートはどうしてたんだ……?」
「一度も、踊ってないよ……そばに立ってただけ」
「……お、おう……」
「でも、触れないのは……どうしても納得できてないからで、結婚するまではって思ってた」
「でも、嫌いじゃないんだろ。じゃあ、なんでそんなに頑なになるんだ?」
「……それは……ケリがつかないから」
「なんの?」
「……前世」
エリアナがそう口にするとアリアンナは、とてもあっさりと納得した。
「そりゃ、どうしようもないか……」
つぶやくようにそういう彼女の言葉には諦めが含まれている。転生者に大往生の完璧な人生だった人間なんていない。
アリアンナだって思う所の一つや二つ、三つや四つそれ以上あるだろう。エリアナもそうなのだ。だから触れることができなかった。
カイルの言っていた通り、線引きをして彼にも自分にも真摯でありたかった。
そしていつか覚悟を決めようとそう思っていたのだ。




