3かぼ!
多分って。大丈夫かな、この国!
「ここで何を話しても私達だけじゃわからないからコントラーバ国に問い合わせてみない?」
「そうですね」
私の提案にかぼちゃパンツ陛下もランも即頷き、霧の間から回廊へと出た。
夜空に青く大きな月が浮かび、さっきまでの霧が充満した部屋とは大違い。空気まで掃除してありそうな程澄んでいる。
「さっきの霧が充満した部屋とは大違いだね。空気が澄んでてとても綺麗」
「あれは霧じゃない。名ばかりを呼ぶ為に放出した僕の魔力だ」
四方八方霧だらけだったけど。あの大量の輝く霧が魔力って普通に考えて凄い。
そう言えばずっと魔力にこだわる発言ばかりしている。
かぼちゃパンツ陛下に目を向けると、子供らしくないやけに寂しそうな横顔を見せている。
「全魔力と引き換えって言ってたけど、もしかしてもう二度と魔法が使えないとか?」
「……そうだ」
一瞬私を見上げ、力無く答えた。
私を呼ぶ為に一生魔法が使えなくなったと言われたらさすがに複雑な気分だ。
「そんなに落ち込むならどうして自分の力を使ったの?国王なら他の人に命令出来たでしょ?」
漫画だと召喚の儀って普通何人かの魔術師が魔法陣を囲んでいる気がするし。
「……僕は王族ゆえ、普通の魔法使いより魔力が多かった。それにたとえ魔力を失っても僕は国王。だが魔法使いが魔力を失ったらどうなる?そんな事は考えなくてもわかるだろう」
ああ、そうか。見た目こんなだけど、ちゃんと民の事を考えられる立派な王様なんだ。
王家の事より国や民の事を優先していたからお祖母様と対立してしまったのかもしれない。
自分より先に息子、先王を亡くしてしまい焦ったお祖母様の気持ちも分かるけど……
尊敬の念と慰めたいような気分で心が一杯になり、屈んでかぼちゃパンツ陛下を抱き上げる。
「あっ、また!なんで抱っこするんだ!ヤメロ!」
「やめない」
「何度も言うが僕は王様なんだが!わかっているのか?」
キッと厳しい目線を向けて来るが逆にこっちは笑顔を見せた。心がすっかり優しい気持ちになって。
「分かってるよ。国の為に頑張ってるかぼちゃパンツ陛下。魔力の代わりになるか分からないけど、かぼパンの事を助けたいなと思って」
かぼちゃパンツ陛下は少しの間の後、顔を真っ赤にして大きな声を上げた。
「ちょっ…………ちょっと良い感じに言ったが僕を助けたいなら今すぐおろせ!それとかぼちゃパンツ陛下とか、かぼパンとか変な呼び方をするな!」
「嫌よ。私の事を名ばかりって呼ぶから私も好きに呼ぶの!呼びやすいからかぼパンかな」
「ぐぬぅっ、名ばかりめ、あー言えばこう言う!全く……そ•れ•な•ら•ば!まずはとりあえず下ろしてくれ」
「嫌よ。かぼパンの歩幅に合わせてたら目的の部屋まで3日くらいかかりそうだもん」
「ハッ!それが本音か……」
ショックを受けたのか抱っこされたまましょぼんと項垂れた素直なかぼパン。
可愛すぎてきゅんとしてしまう。これが母性本能か……
「ふふ、本当の理由はかぼパンが可愛いから抱っこしたいだけだよ」
「なっ……可愛いって言うなぁ!」
恥ずかしそうに両手で顔を覆い隠したので、これは好都合と抱っこしたままさっさと目的の部屋へ向かう。本当に歩幅小さいのよ。
「助かります。誰にも抱っこさせてくれなくて……」
とはランの言葉。逆らえず皆ずっと歩幅を合わせていたのね。お疲れ様。
ランに案内された先は、身長167センチの私が両手を広げても抱えられない程巨大な丸い水晶が中央に置いてある部屋だった。
その巨大水晶のすぐ横に、ランと同じ詰襟服の銀髪ロングヘアーのお兄さんが座っている。
水晶の隣に居るからか、やけに神秘的に見えるイケメン。
かぼパンを下ろすと、すぐに神秘的イケメンに向かい深く頭を下げる。
「水晶兄さん初めまして。私、斉藤奈那と言います。よろしくお願いします」
笑顔で挨拶をすると、水晶兄さんは声を掛けられると思っていなかったのか、少し驚いたように目を見開き笑った。
「水晶兄さんって僕の事?あはは!僕の名前はマシューだよ。よろしくね」
神秘的な印象だったが、口を開くと気の良いお兄さんのようだ。笑顔を返すとランが会話に入ってくる。
「水晶兄さん、僕は白百合の君と呼ばれました」
「ああ、何となくわかるぞ!ランは白百合を数本抱えていたら絵になりそうだ!」
「分かります?私達の世界ではハンサムな人の事をイケメンって言うんですけど、ランを一目見た時白百合が似合いそうなイケメンだと思って。マシューさんも神秘的なイケメンだなって思いました!」
「えっ?そう?ありがとう!神秘的イケメンか~」
ノリの良いマシューさんと意気投合し話が盛り上がる。
と、かぼパンが私のパンツスーツのズボンを握りパタパタと動かした。
話を止め見るとかぼパンは冷たい瞳で私に向かって口を開いた。
「どうして僕はかぼちゃパンツなんだ……?他にもあるだろう?ランやマシューみたいに」
「いや?」
「あるだろう!?」
やけに必死なかぼパンの表情に私はハッとした。自分もイケメンだと褒められたいのだ。なんて可愛らしい。
私はすぐにしゃがんで目線を合わせる。
「小っちゃくて可愛い」
「……」
かぼパンは口を結び無表情だ。
「かぼちゃパンツがあざと可愛い」
「……」
「よっ、マンドローレ国王!」
「もういい。マシュー、コントラーバ王に繋いでくれ」
お気に召さなかったらしい。かぼパンはマシューに向かって言った後、口を尖らせた。
この表情は確実に拗ねている。ああ、可愛い!可愛い!
私は誘惑に勝てず、拗ねているかぼパンの両頬を軽く掴みムニムニ。
「はぁ~!カワイイ!」
「おい、ラン!名ばかりをどうにかしろ!」
かぼパンは必死な瞳でランを見るが、ランは口を押さえ震えている。
「はい……聖女様……申し訳ありませんがその頬を摘むのを……ブハッ」
ランは途中で吹き出してしまったが、かぼパンの不服そうな瞳に正気に戻り、パッと手を離す。
「突然何するんだっ!軽くでも王の頬をつねるとはっ」
「拗ねてるのが可愛かったからつい。可愛いほっぺたがやけに魅力的に見えて……」
「拗ねてなんかいない。それにさっきから可愛いって言うなっ!」
大きな声で叫ぶと、眉を下げ綺麗な瞳を潤ませた。これはからかいすぎたみたい。
私は幼い子供を慰めるようにかぼパンの手を取った。
「今は可愛いけど、大人の姿だったら誰よりもイケメンになりそうだよね」
「ッ……!ほ、ほんとか?本当にそう思うか?」
「うん。今世界で一番可愛いでしょ?だから大人になったら世界で一番イケメンだと思うよ」
「そうだろう!聞いたか?ラン、マシュー、僕が1番イケメンだそうだ!」
満足気に腕を組んで頷いているけど、25歳とは思えないほど素直で可愛らしい。
ランとマシューも可愛い子供を見る優しい表情でかぼパンを見つめている。
あれ、これ……可愛いから大人に戻らなくて良くない?