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1かぼ!

「全魔力と引き換えに召喚したのに力が使えないなんて詐欺だっ、僕の魔力を返せ!」


 25歳の私に向かい、わーわーと声を張り上げ必死な形相で怒鳴ってくるのは見た目2~3歳のお子様である。


「断りもなく人を呼び出しておいて、その言い草はないと思うんですけど」


 嫌味っぽい笑顔で返すと、お子様は苦虫を噛み潰したような顔をした。


「最後の望みだったのに……まさか肩書きだけの名ばかり聖女が来るなんて……」


「名ばかり聖女とか、わけもわからず呼ばれた私に対して失礼すぎない?この、かぼちゃパンツ陛下っ!」


 悔しそうな表情のお子様にわたくし斉藤奈那サイトウナナはしっかりと言い返す。


 本当のお子様なら優しく接するけど、目の前にいるホワイトブロンドヘアに碧眼、赤い立派なかぼちゃパンツを履いたお子ちゃまは外見こそ2~3歳だが、中身は私と同じ25歳。しかも国王陛下だ。


「かっ、かぼちゃパンツ?王に向かって何を言う!」


「だって……王って言われてもねぇ」


 憐れみを含んだ瞳で見つめると、ミニ陛下の宝石のような青い瞳が大きく広がった。


「な、なんだその顔は!小さいから王に見えないとでも言うつもりか?」


「その通り」


「やっぱりそうなのか……」


 自分で聞いてきたくせに、ミニ陛下は口を思い切りへの字にして、青い瞳を潤ませた。


 この表情に私の内心はきゅんとなる。


 はあっ、中身25歳なのになんて子供らしい表情をするの?この泣きそうな表情、たまらなく可愛い。ツンと突き出したへの字口がヤバすぎる。


 あまりの可愛さにホクホクしていると、ガックリと項垂れたミニ陛下。泣きそうな表情は可愛いけど、本当に泣かせたい訳ではない。


 目線を合わせるように屈んでいた私は急いで手を伸ばし、拗ねた子供をあやすようにミニ陛下を抱き上げる。


「冗談だよ、泣かないで」


「なっ、なっ、なっ……抱っこするなぁああ!下せ!おーろーせー!ラン、僕を助けろ!」


 ミニ陛下は瞬時に頬を真っ赤に染め、慌てて従者に助けを求めた。

 しかし私達のやりとりを見守っていた従者であるランは、堪えきれず大爆笑している。


 従者としてそれで良いのかとツッコミたくなるがこの世界では許されているのかもしれない。


「ランは笑うのに忙しくて助けてくれそうにないね。ふふ、真っ赤になってトマトみたい」


 人差し指でツンツンと頬を突っつくと、ミニ陛下は紅葉もみじのようなちいさな手で頬を押さえ耳まで赤くした。


「も、もう嫌だっ!なんで僕はこんな名ばかり聖女を召喚してしまったんだぁ!」


 光り輝く不思議な濃霧に包まれた部屋にミニ陛下の声が響き渡る——




 そうなのだ。私はつい1時間ほど前にこの世界に召喚されたばかり。


 仕事帰りに歩いていたら突如地面に穴が空き落下。心臓に毛が生えていると評判だった私が死を覚悟して神に祈ってしまう程のスリルを味わい、気付いたらここだった。いや、ほんと召喚の仕方から有り得ない。


 わけが分からずキョロキョロしていたら、赤いかぼちゃパンツ、赤ジャケット姿に金色の王冠を被ったやたらと可愛い幼児が現れたのだ。


 こんな場所にコスプレした幼子が1人でいるのはおかしいと思った私はしゃがんで優しく声を掛けた。 


「こっちにおいで。僕も穴に落ちちゃったの?お父さんかお母さんは一緒にいる?」


「穴?言いたい事は分かるが僕は子供じゃないから心配ない」


「えーと、君は子供だよ?」


「本当に子供じゃないんだ!その事でお願いがある。聖女よ、聖なる力で僕に掛かっている魔法——呪いを解いてくれないか」


 聖女と呪い。この2つのパワーワードでピンときた。


「あれだ、ラノベ!」


「ラノべ?よく分からないがお願いする!聖女よ、僕を大人の姿に戻してほしい!」


 なるほど、胸に手を当て必死な面持ちで懇願してくるところを見るに、どうやら私は聖女でこの子供の本来の姿は大人。

 この子の呪いを解く為にここに召喚されてしまったらしい。


 ここまで必死なのだから役目は果たさなければいけないとは思う。

 でもどうやって大人に戻せばいいのか見当もつかない。


 考えていると霧の中から銀髪おかっぱ頭の、私と同じ歳くらいの美青年が現れた。   何やらアニメに出て来そうな見た目だ。


 スラっとした体型で紺地に金の刺繍が入った詰襟服がよく似合っている。

 切れ長一重でクールな感じのイケメン。白百合を持たせたら凄く似合いそう。


 そんな彼は私に小さく一礼すると、子供に向き直り口を開いた。


「陛下、聖女様とお呼びしないと失礼ですよ」


「いやしかし我がマンドローレ国の聖女じゃないからな」


 子供が生意気そうな顔でおかっぱ頭に向かって言った。


 はい、ちょっと待った。私は聖女らしいと言う事は理解。でも陛下とか我がマンドローレ国?の聖女じゃないってどうゆう事?!なんだか普通の聖女と違うような……


「そこのおかっぱ頭の……白百合の君、私に分かりやすく説明して頂けると嬉しいのですが」


 右手を上げて問いかけると、白百合の君は無表情で目を細めた。


「もしかして、おかっぱ頭の白百合の君とは私の事ですか?」


「あ、そうです」


 頷くと白百合の君は乾いた笑いを漏らし、自己紹介してくれた。


「斉藤奈那様、突然お呼び出しして申し訳ありません。私の名前はラン・アルバニールと申します。お気軽にランとお呼び下さい。そして、こちらにいらっしゃるのは我がマンドローレ国の気高き王、アダム・スチュワート・マンドローレ国王陛下にございます。今はこうやって子供の姿になっておりますが本当のお姿は——」


 そう言って私の名前を知っていたランは、ミニ陛下に起こった出来事を淡々と話し始めたのだった。




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