⑬~⑭
古着屋で考え込む守。
-⑬ 買い物途中で見たあいつ-
古着屋の一角にあるアクセサリーのコーナーで、守は赤青両方のリンゴを模したイヤリングをずっと見つめていた。
※この話から紛らわしくなってきたので「橘」の事は「正」と表記します。
正「お前、さっきも好美ちゃんにプレゼント買ったのにまた買うのか?」
守「いや、やめておくよ。さっき、かなりの高額を買っちゃったから財布と相談しながら買い物しなくちゃ。」
桃「あの時の守君、格好良かったじゃん。ちょっと惚れちゃったかも。」
正「え、嘘だろ。」
桃は冗談だと言うように正に微笑みかけながら踵を返した、少し離れた高級ジュエリーショップで好美が何かのショーケースを見ていた。
好美の意図を察し、与した桃が好美の元へと向かって行った。
その途中、テレビで見覚えのあるどこかの社長らしきスーツ姿の女性が親戚と思われるもう1人の女性とカフェで紅茶を飲んでいるのを見かけた。
女性①「ねぇ、ここの紅茶には何が合うか知っているかしら?」
女性②「確か・・・、チョコデニッシュが人気の組み合わせだと聞いていますが。」
桃「ふーん・・・、ああいう人でもこういう庶民的なお店でお茶するんだ、もっと高級な喫茶店のイメージしてたけど。」
そこから数歩歩いた店舗に好美がいた、3人程の店員達が皆他の客の相手をしていた事からも桃は高校からの同級生の心情をわずかながらに汲み取っていた。
桃「好美、守君にかまってほしかったのよね。素直じゃないんだから。」
好美「だって・・・、さっきからずっと1人でいるか正君と買い物しているんだよ。寂しくもなるよ。誰と買い物に来ているか分かってんのかな・・・。」
先程から恋人がいない事に気付いた正が辺りを見廻すと、2人が少し離れた高そうな店にいる事に気が付いた。
正「おい守、あそこはちょっとまずいかも知れんぞ。」
守「えっ・・・、いや待てって・・・。」
眺めていたイヤリングを戻して店へと向かった守と正は途中のカフェで結愛らしきスーツの女性が親戚らしきもう1人の女性とカフェで温かな珈琲を飲んでいたのを見た。
女性②「こちらの珈琲はお口に合いますか?」
女性①「うん・・・、悪くないわね。」
守「あれ・・・、多分結愛だよな。大人になってしっかりビジネスしてるっぽいな。」
正「何か、違和感が無い様な。ある様な。」
そこから数歩歩いて店に到着し、好美の見ていた商品の値段を見た。128900円だ。
守「高っ・・・!!」
給料日前な上に、貯めていた金を使って好美に贈り物をしたばかりなので今は財布と相談しながら買い物しなければならない状態の守にとってとても手が出ない金額だった。
ただ大学生が持つには少し見た目があれな気がしたが。
守「えっと・・・、欲しいの?」
好美「見てただけ、でもこういうの死ぬまでに1度は付けてみたいなって思ったの。それよりね、今日守とやりたい事があるんだけど。」
守「俺と?」
好美「うん・・・、こっち来て。」
守がやっと来たので嬉しくなった好美は彼氏の腕を強めにぐいっと引っ張った、そして再び先程のカフェの前を通ると親戚の女性がお手洗いに向かったらしく、相も変わらず足を大きく広げて「いつもの」結愛に戻っていた。周りの客がドン引きしている。
結愛「あー、あのババァ・・・。何杯付き合わせるつもりだよ。ここコーラあったかなぁ・・・。」
桃「あの人ってあんな感じだったっけ?」
勿論この結愛の事を知らなかったが故の反応だ、正は好美に未だ腕を引かれる守に近付き小声で話しかけた。
正「あれ、やっぱり結愛だよな。」
守「うん、俺らの知ってる結愛だったわ。」
-⑭ ランチをきっかけに-
カフェを通り過ぎてから数歩の所にあるパワーストーンの専門店に着いた4人、その時守と正の携帯が同時に鳴った。2人は嫌な予感がした。
守・正「ま、まさかな・・・。」
今は出来たばかりの彼女とのデート中な上に、カフェの周りの客がそうしていた様に自分達も赤の他人のフリを決め込んでいたのだ。
2人が携帯を確認すると同時に送信してきたらしき1通のメッセージが、送り主はやはりあの結愛だった。
結愛「おいお前ら、堂々とWデートとは良い御身分じゃねぇか。この俺を無視するとはいい度胸だな。」
守と正は苦し紛れの返信を行った。
守「お前仕事中だろ?流石に悪いと思ってさ。」
正「そうそう・・・、お前社長だから邪魔する訳に行かんだろ。」
結愛「何処が仕事だよ、迷惑なクソババァと無理矢理お茶させられてんの!!正直助けてくれよ、コーラ持って来てくれ。」
2人は何となくだがとにかく逃げたかったのでそそくさに退出する事にした。
守「あ、彼女呼んでるから行くわ。じゃあな。」
正「俺も俺も、じゃあ。」
好美に腕を引かれるがままに店に入った守は、過去の自分とは無縁の空間に違和感しか感じなかった。
守「おいおい、ここで何すんだよ。」
好美「ピアス、開ける。」
恋人からのまさかの一言に驚きを隠せない守、正直自分は巻き込まれたくないなとその場を離れようとした正を桃が捕獲したので正も覚悟を決めた。正直、この場から逃げると今度はイライラしている結愛に付き合わされる事になる、それだけは絶対避けたい。
桃「あたしらも開けよ。」
正「はい・・・、分かりました。」
4人は各々違う色の石が付いたピアスを選ぶと料金を払って順番に店員にピアッサーで穴を開けて貰う事にした。
4人「いっ・・・!!」
声にならない声をあげた4人はそれぞれの色のピアスを装着した、ただ「恋人の証」と言うより「仲良しグループの証」みたいになっているが誰も気にしていなかった。
少し小腹が空いたので4人はフードコートへと向かった、好美が宣言通り守の金でアイスを2個とホットドッグを4個平らげてしまった。ただ新しい服は綺麗なままだった、
守「うそ・・・。」
桃「あ、言ってなかったっけ。この子もたまにとんでもなく馬鹿食いする時有るから。」
正「「も」ってどういう事だよ。」
桃「いひひひ・・・、分かっているでしょ。」
さり気なくバイトを増やそうか考え始めた彼氏たち。
波乱のショッピングから数日後の昼休み、あれから結愛からの音沙汰が何1つ無かったので安心していた守と正。
そんな中、教員免許取得を目指しているので多くの単位を取ろうと日々勉強とバイトに明け暮れる守は何とか時間をやりくりしながら学部の違う恋人と週3回は昼食を共にしていた。
いつもは食べる事がとにかく好きな好美の為に学内の食堂や近くの飲食店を巡っていたのだが、ある提案がなされた。
好美「たまには適当に何か買ったり作ったりして家で食べない?」
守「いいけど、俺は実家暮らしだぞ。昼間は母ちゃんがいるかも知れないし。」
それが狙いだった、実はそろそろ守の親と会わせてもらっても良い頃かなと思っていたのだ。
投資家である守の母・真希子は普段、目立たない様にする為に午前中の空き時間を利用して近所のスーパーでパートに出て他の主婦に紛れていた。
真希子、意外と普通。




