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あの甘い日から数日経った。
-⑩ ある土曜日の昼過ぎ-
興奮しながらキスをし続けた数日後、好美は朝から松龍でのアルバイトに明け暮れていた。表情が何処か生き生きとしている、王麗に教えてもらいながらランチタイム用の餃子を1つひとつ丁寧に包んでいた。
王麗「あら、上手いじゃないか。好美ちゃん、あんたセンスあるよ。」
好美「本当ですか?私、褒められて伸びるタイプなんです。」
中国出身の王麗から本格的な餃子の作り方を手ほどきを受けながらニコニコして作っていた。
朝11時、開店の時間だ。好美が店先に暖簾を掛けると、並んでいた客たちが一気に入っていた。学生たちに人気の「特別メニュー」は平日限定なので、土日は別の年齢層の客たちで賑わっている。
土曜日、この時間のランチを好んで食べるのは40代と50代の男性が多いので餃子がどんどんと飛ぶように売れていた。
料理を運ぶ好美の表情は相も変わらず生き生きとしている。
好美「いらっしゃいませ、A定食2つですね。龍さん、Aを2つお願いしまーす。」
龍太郎「あいよ。」
ランチタイムにおけるこの店のA定食とB定食は日替わりで、両方共醤油味の鶏ガラスープと白飯を基本としていてメインのおかずが違っている。因みに今日はAが餃子でBがチキン南蛮、両方共この店の人気メニューだ。
メインのおかずは当日決まるのでお客は店に来るまでワクワクしながらいつも店に来る、店先の立て看板を見て食べて行くかいつも考えていた。
午後2時、激動のランチタイムを終えた好美達は息切れしながら水を飲んだ。
好美「ランチタイムってこんなに疲れるものでしたっけ?」
王麗「おかずを両方人気メニューにしたからこうなったんだよ、父ちゃんやらかしたね。」
龍太郎「好美ちゃんが人気者になったからじゃないか、雇ってある意味正解だよ。今日はありがとうね、上がって良いよ。」
好美「龍さん、あれ忘れてません?」
中華鍋を丁寧に洗いながら会話に参加する龍太郎、好美の事を本当の娘の様に可愛がっていた。
龍太郎「悪い、忘れてたよ。」
客足が落ち着いたので、龍太郎は好美と約束していたので炒飯を作り始めた。バイト終わりのこの昼食が何とも言えない位の美味さだった。
そんな中、守と橘、そして桃が松龍の前にやって来た。
桃「そろそろ好美のバイトが終わる頃だと思うんだけど・・・、いた。ちょっと、1人炒飯食べてるじゃん・・・。」
守「え、あいつ1人で飯食ってんの?」
3人は好美を待って皆で昼食を摂る予定だったので、空腹でいたのだ。その後4人でショッピングへと向かう予定だった。
橘「俺達も食うか?」
桃「良いと思うよ、店入ろう。」
3人は松龍に入った、好美が未だに1人炒飯を楽しんでいる。
龍太郎「いらっしゃい、守達じゃねぇか。」
好美「あ・・・。」
桃「「あ・・・。」じゃないの、彼氏待たせて何1人食べてんのよ。」
龍太郎「何?俺の娘に彼氏だと?」
王麗「いつあんたの娘になったんだい!!あんたには美麗がいるだろ!!」
いつも通り王麗によるきつめのツッコミが入った所で、守達は3人共炒飯を注文した。龍太郎はほぼやけくそ気味に鍋を振った、好美に彼氏が出来た事が本当の父親の様によっぽど悔しかったのだろう。
龍太郎「畜生・・・、誰だ・・・。」
守「親父さん・・・、俺。」
龍太郎「守、手出すなって言っただろうが!!」
好美「龍さん、私も一緒に告白したんです!!」
好美の言葉に龍太郎はポカンとしていた、2人が両想いだったとは思わなかったのだ。
龍太郎は好美には本当に好きな男と付き合って欲しかったのだ。




