75
香奈子には退院時にやりたい事があった。
-75 突然の宣言-
数日後、医者の許可が下りたので退院日が早まった香奈子が長い間過ごした病室で1人家に帰る準備を行っていると、担当の看護師だった光江が見守りに入って来た。
光江「本当に退院日が早まったんだね、今朝もそうだけど毎日の様にお櫃のご飯を食べまくっていたらそうなるわ。調理場の人達も残飯の処理に困っていたから助かるって言ってたよ。」
香奈子「お義母さんにも調理場の方々にも本当にお世話になりました、また通院した時にお会いするかもしれないのでその時はよろしくお願いします。」
2人が明るい雰囲気で会話をしていると車で迎えに来た隆彦が病室に入って来た。
隆彦「先にお母さんの所に行こうと思うんだけど、お前はどうする?」
香奈子「勿論行く、それとお父さん、後でお願いがあるんだけど。」
隆彦「俺に出来る事なら、何でも構わないよ。」
2人は佳代子が過ごしている無菌室へと向かった、受付で渡される衣服に着替えるのも慣れっこになっていた。
佳代子「いらっしゃい、今日退院するんだってね。羨ましいよ。」
香奈子「お櫃のご飯が食べれなくなるのは寂しいけど、まぁ嬉しいかな。」
佳代子「そうらしいね、あんたを担当していた光江から聞いたよ。」
佳代子と光江は高校時代の同級生で、仕事を終えた光江がよく佳代子の様子を見に無菌室を訪れていた。昨日の訪問時に光江から香奈子の食事に、いや爆発的な食欲について聞いた佳代子は大爆笑していたという。
無菌室で数分程過ごした後、自らの病室から荷物を運び出してエレベーターを降りた香奈子は隆彦に声をかけた。
香奈子「お父さん、行きたいところがあるんだけど。」
隆彦「さっきの「お願い」ってやつか、どうした?」
香奈子「松龍に行きたいんだけど、いいかな?」
隆彦「丁度ランチの時間帯だから行こうか、そろそろ昼休みだと思うから文香に連絡を入れてみるよ。それにしても病み上がりで中華なんか入るのか?」
香奈子「余裕だよ、入院中どれだけ食べたと思ってんの?」
隆彦は病室で食事中だった時の香奈子の卓上のお櫃の大きさを思い出した、入院中で酒が呑めない分ご飯を馬鹿食いしていたので十分納得した。これは先程光江に聞いた事なのだが、昨日の夕飯時に至っては茶碗を使わずお櫃から直接、しかも杓文字で食べていたらしい。
香奈子「でもさ、目的はランチだけじゃないんだ。」
隆彦「ふーん・・・。」
一先ず隆彦が文香に連絡を入れると、偶然近くにいると言っていた文香とは現地で待ち合わせる事になったそうだ。先に店で席を取っておいてくれるとも言っていた。
文香(電話)「お父さん、先輩もいるんだけど。一緒に行って良い?」
隆彦「勿論構わないよ、香奈子も良いよな?」
香奈子「うん、良いよ。」
それから暫くして、隆彦が車をニューハマタニの前に駐車すると香奈子は松龍まで走って行った。
隆彦「そんなに腹が減っているのか?思ったより並んでないから大丈夫だよ。」
香奈子「何言ってんの?さっき目的はランチだけじゃないって言ったじゃん。」
香奈子の声が聞こえたのか、店の入り口で好美が2人を出迎えた。
好美「香奈子!!退院できたんだ!!思ったより早かったじゃん!!」
香奈子「病院食を馬鹿食いしてたら退院出来ちゃった。」
好美「何それ、初めて聞いたよ。」
隆彦「えっと・・・、店員さん。連れが先に来ていると思うのですが。」
香奈子「何言ってんの、お父さん?この子、従姉の好美じゃん。」
突然の発言に驚きを隠せない好美、今までただの友人だと思っていた香奈子と自分が従姉妹同士だったとは思いもしなかった。ただ、先に到着して席を取っていた文香と美恵も好美と同様に驚いていたので香奈子はチラシの裏に簡単な家系図を書いた。
徳島にいる好美の父である操、香奈子の母で入院中の佳代子、そして刑事の美恵が実の兄妹なのだが好美と美恵は香奈子との関係以上に佳代子が入院している事に驚いていた。
改めて、世間狭すぎ。




