64
好美は1人で何もかも抱え込もうとっする所があった。
-64 大好物の力-
好美は2人の為に何をすべきか分からなかった、ただ自分がとった行動により2人に迷惑を掛けてしまうのではないかという考えがあったからだ。
守(電話)「そっとしておくのが一番じゃないかな。」
電話の向こうで守は冷静だった、しかし好美は決して放ってはおけなかった。それもそうだ、2人を襲った出来事があまりにも残酷過ぎたのだ。
守(電話)「今は様子を見よう、勿論事件を思い出させない様に気を遣いながらね。」
同刻、美麗は秀斗が死んだ事を後悔する位に綺麗になってやろうとジム通いを始めた、と言うより事件の事を忘れていたいという気持ちが強く、体を動かしていると無心でいることが出来た。
一方、香奈子は快方に向かっており、週末には退院出来るだろうと医者に告げられていた。
看護師「良かったわね、ここのご飯くそ不味いから嫌だったでしょ。」
香奈子「そんな事は無いですよ、意外と私好みで良かったです。」
看護師「あら、珍しい事を言う人もいるのね。では、もう少しの間だけゆっくりして行ってね。」
香奈子は窓を開けて風で揺れる木の葉や樹木をじっと見つめていた、太く大きく育った大木に生命力を感じていた。
香奈子「私も強くなれるかな。」
香奈子が黄昏ていると裕孝が病室に入って来た。
裕孝「おはよう、調子はどう?」
香奈子「大分マシかな、先生も週末には退院出来るだろうって言ってた。ねぇ、それってもしかして・・・。」
香奈子は裕孝が持っていた紙袋を指差した、大好物の入った袋に興奮する様子の恋人を見て裕孝は安心していた。
裕孝「ああ、香奈子が好きだって言ってたから買って来た。案外するのな。」
裕孝は頭を掻きながら笑っていた、きっと照れくさかったのだろう。
香奈子「ねぇ、食べて良い?」
裕孝「勿論。」
香奈子は紙袋の中身を取り出して笑みをこぼした、カラフルな砂糖やクリームで彩られたドーナツが2人を迎えていた。
裕孝「人気の店なんだな、周りは女の人ばっかりで戸惑っちゃったよ。」
しかし香奈子の為ならと思うとすぐにどうでも良くなってしまったそうだ、彼氏が買って来た大好物に早速舌鼓を打った。
香奈子「ふーん、ふはーい(うーん、美味ーい)、ひひへへほはっはー(生きてて良かったー)。」
裕孝「いくら何でも大袈裟過ぎないか?」
ドーナツの美味さもそうなのだが、自分の為に裕孝が買って来てくれたことが何よりも嬉しかった。
裕孝が一旦トイレで離れると、検温等で看護師が病室へと入って来た。
看護師「何かなちゃん、良い物食べているじゃない。もしかして彼氏?」
香奈子「はい、大好物を持って来てくれたんです。」
看護師「やっぱり病院食なんかより良い物食べたいものね。」
2人が世間話をしているとトイレから裕孝が戻って来た。
香奈子「あ、彼氏戻って来たみたいです。」
看護師「へぇ、どんな子かし・・・、裕孝じゃないの!!」
裕孝「か・・・、母ちゃん?!ここにいたのか?!」
そう、香奈子の担当看護師は裕孝の母の小比類巻光江だった。
世間、狭すぎ。




