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夜勤族の妄想物語2 -5.あの日の僕ら-  作者: 佐行 院


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⑤~⑧

未だ面接が続く。


-⑤ 入学、そして初めてのバイト-


 龍太郎は好美を含めた上での細かなシフトの相談をし始めた、調理場では王麗が大きな寸胴でランチタイムで使うであろう鶏がらスープの仕込みをしている。


龍太郎「えっと・・・、いつから入れそう?あ、彼氏さんとのデートの予定があったらそっち優先してくれていいから。」

王麗「面接で何言ってんだい。」


 耳がすこぶる良いのか奥から王麗のツッコミが飛ぶ。


龍太郎「母ちゃん相変わらずの地獄耳だな・・・、畜生・・・。」

好美「ははは・・・、生まれてこの方彼氏は出来た事が無いので安心して下さい。」

龍太郎「そうなの?!じゃあ、俺がなろうか!!」


 すると奥から大きなお玉を持った王麗が来て、そのお玉で強めにツッコミを入れた。


王麗「何処に食らいついてんだい、あんたは。本当にうちのエロ店主がごめんね。」

好美「いえ、大丈夫ですから。えっと・・・、今週末から入れると思います。」

龍太郎「本当?助かるよ、じゃあ土曜日の夕方から早速入って貰おうかな。制服なんだけどその時に渡すからね、普段着のまま来てくれたら大丈夫だよ。」

好美「分かりました、宜しくお願いします。」


 無事にバイトを見つけた好美は翌日、桃と大学の入学式へと向かった。着慣れないパンツスーツで緊張しながら式を終え、各々の学科専用の建物で科目履修についての説明を聞く事に。教室が広すぎるのか、担当の教員がマイクで話す羽目になっていた。


教員「えー、皆さんご入学おめでとうございます。早速授業の履修登録についてですが、最初の1回を受けて取るか取らないかを決めてパソコンで登録して下さい。期限があるから早めにお願いしますね、ただ月曜日はイベントをこなして貰う日なので本格的な授業が始まるのは火曜日からになります。ただ、来週の金曜日から始まる「共通教養」は必ず2つ取って下さいね。では今日は以上です、お疲れ様でした。」


 桃は「共通教養」の科目リストをじっくりと見ていた、何が何だか分からなくて想像がつかない物ばかりが挙げられている。その様子を見た好美も科目リストを取り出して見始めた。


好美「全然分かんない・・・、一緒のにする?」

桃「そうだね、その方が安心だわ。」

好美「この授業は・・・、あの大きな建物なんだよね。」

桃「うん、じゃあそれで行きますか。」


 一先ず2人はパソコンを開き先程の大きな建物で行われる予定の授業を履修する登録を行った、今日は取り敢えずそれで帰る事に。

 一方、守も「共通教養」の授業で迷っていたのだが橘が同じ授業を同じ理由で提案したので守も一緒に受ける事にした。皆、これが運命の大きな選択肢の1つだと知らずに・・・。

 最初の登校日を終えた翌日の土曜日の夕方、好美は初めてのバイトへと向かった。


好美「店長、おはようございます。」

龍太郎「おはよう、いよいよ初出勤だね。一緒に頑張ろうね、それとこれが制服だから。サイズ合うと良いんだけど、ちょっと着てみて、後俺の事は龍さんで良いからね。」

好美「分かりました、龍さん。」


 店の奥の小さなスペースで着替える好美、どうやらサイズの方は問題ないみたいなのだが別の問題が・・・。


好美「あのこれ・・・。」

龍太郎「おっ、似合ってんじゃん。買っておいてよかった。」


挿絵(By みてみん)


 煙草を燻らせながら満足げに語る龍太郎の横で着替えを終えた好美を見た王麗が慌てて店の奥へと駆け込んだ、何処からどう見てもチャイナドレスだからだ。


王麗「こら、あんたのくだらない趣味を押し付けてんじゃないよ!!ごめんね、普段着にこのエプロンと名札してくれたら良いから。」


 そう言って「松龍」という刺繍が入ったエプロンの入ったビニール袋と新しい名札を手渡した。早速好美は着て来た普段着に着替えてエプロンと名札を身につけた。

 今回の初めてのアルバイトは一先ず土日の2連勤で、次も決まっているのは土日のみ。ただ才能があるのかセンスがあるのか、好美は仕事をそつなくこなしていた。龍太郎はランチタイムもやってみようかと提案し、一先ず履修登録を済ませる必要があると思った好美は月曜朝一番で行う事にした。


-⑥ ボールペン-


 金曜日に履修登録を全て終えた守はその日の夕方からバイトに明け暮れた、母に渡す金と自らのお小遣いを少しでも多くしたかったので必死だったのだ。今の目標はもう一度松龍で贅沢なランチを食べる事、そして頑張って欲しい物が。

 土曜日、ランチタイムを終えて一旦閉めた喫茶店で店主の我原がはら さとしは守に声をかけた。


我原「そんなに必死になってどうした?」

守「免許を取ったら自分の車が欲しくなると思ったので、せめて中古の軽を買える程のお金を稼ぎたいと思いまして。」


 ひたむきな守の姿に涙する我原、今度の給料は少しだけだが色を付けてやろうと誓った。

 月曜のイベントと木曜日までの授業とバイトをこなした翌日、そう例の「共通教養」のある金曜日。守と橘は大学で出逢った友人数人と共に学内で一番面積の広い大ホールへとやって来た、ここが授業の教室である。階段状になっていた通路の先にとても大きな黒板とスクリーンが設置されていて、アーチ状に設置された席には学部学科関係なく多くの学生が座っていた。


橘「端の方でいいよな、上の方が見やすいと思うのは俺だけか?」

守「いや、俺も思ってた。」


 通路の階段を数段降りた所に丁度人数分の空席らしき椅子を見つけたのでそこに座ろうとしたがもう既に取られていたので仕方なく前の席に、少し時間があるので木曜の授業から出ていた宿題を行う事にした。正直今しておかないと忙しくて他にタイミングが無い。


橘「お前、真面目だよな。感服するわ。」

守「今日はバイト休みだけどレポート書かなきゃだから。」

橘「俺も一緒にレポートしに行っていいか?おばちゃんに久々に会いたいし。」

守「お袋に聞いてみるわ。(メッセージ)今日橘がレポートしに家に行くかもだけど良い?」


 丁度その頃、真希子はいつもより多めにカレーを作っていた。


真希子メッセージ「勿論構わないよ、夕飯一緒に食べようと伝えておいておくれ。今日はカレーだよ。」

メッセージ「分かった、サンキュー。」


 守が橘にOKサインを出すと橘は物凄く嬉しそうにしていた。


守「お袋が今夜のカレー一緒に食ってけって。」

橘「あん時のカレーか?!最高じゃねぇか!!」


挿絵(By みてみん)


守「おい、レポートするっていう今夜の目的を忘れんなよ。」

橘「分かってるよ。」


 守は気を取り直して宿題に取り掛かろうとした、ボールペンに手を延ばすと濡れていた為か手を滑らせ大きな音を立て真横に落ちて行った。


守「あ、ヤバい。ちょっと取るわ。」

橘「おう、それにしても守がドジするなんて珍しいな。」


 十数分前、履修登録を終えた好美は約束通り龍太郎に連絡した。現地点でだが水曜日だけは何一つ授業が無く、ランチタイムから入れると伝えた。


龍太郎(電話)「本当?助かるよ、もし今日入れるならシフトを詳しく決めようね。」

王麗(電話)「父ちゃん、まだ餃子足らないんだから早く包んで!!」


 また龍太郎が王麗に怒られている様なので好美はさり気なく電話を切って桃と大ホールへと向かった、教室内にはまだちらほらとしか学生はいなかった。


桃「前の方で良い?あたし目があれだから。」

好美「あれ?そう言えば眼鏡は?」

桃「イメチェン、カラコンにしてみたの。似合う?」

好美「似合ってるけどもう1回度数を合わせて貰った方が良かったんじゃない?いつも私が利用してるお店教えるわ。席は私も前で助かるから良いよ、でもこの教室だと何となく上の方が良いんじゃないかな。」


 好美達は上の方の端の2席に座り、時間を潰す事にした。好美はいつも使っているコンタクトレンズの店をメモして教える為にボールペンを取り出したのだがつるんと滑らせて数段下に落としてしまった。好美のボールペンもまた7、大きな音を立てた。


好美「ちょっと取って来る。」


-⑦ 奇跡の再会-


数段下の席の真横に落ちたボールペンを好美が取りに行くと、その席に座っていた守が同じタイミングでボールペンを取ろうとしていた。しかし、緊急事態が発生する。

2人が落としてしまったボールペンは偶然同じ種類だったが、好美のペンは買ったばかりで守の物はインクが切れかけていた。

 好美は慌てて1本取って上にある自分の席まで駆けあがった、ただその時に互いのペンが入れ替わっていた。


好美「すみません。」

守「こちらこそ。」


ペンが入れ替わってしまった事に最初に気付いたのは守だった、「共通教養」の授業を終えた後に橘と家に帰ってレポートを書こうとしていた時の事。


守「このボールペン、新しく買った覚え無いんだけどスラスラ書けるな。」


 ラッキーと思った守は効率よくレポートを書き上げた。

 ほぼ同刻、松龍でバイト中だった好美は注文を取ろうとしたのだが・・・。


好美「あれ?壊れちゃったかな・・・。」


 偶然好美の様子を見た龍太郎が声をかけた。


龍太郎「どうした?」

好美「ボールペン壊れちゃって、インクが出ないんです。龍さん、1本借りていいですか?」

龍太郎「うん、勿論良いよ。」


 今日は龍太郎に借りたボールペンで何とかやり過ごしたが、2人は同時に今日の出来事を思い出した。面識が全くない位に1度会った記憶すら消えてしまっているので、互いの連絡先なんて勿論知らなかった。


2人(同時)「来週の金曜日に返すか・・・。」


 翌週の金曜日、互いに先週と同じ格好で教室に入った2人はすぐにボールペンを返却する事にした。

 数段上の席に好美の姿を捉えた守が近づき声を掛けた、守は可愛い子でラッキーと思っていた。


守「すみません、これやっぱり貴女のボールペンでしたか。」

好美「やっぱりですか、私もごめんなさい。」


 ボールペンを返却し合った2人はそれから火曜日まで互いを意識し合いながら日常を過ごした。


守「あの子、何処かで・・・。ただ学部学科違うよな、誰だったんだろう・・・。」

好美「また金曜日会えるかな、今度は私から声かけてみよう。」


 そう思いながら迎えた水曜日、いつもは学内の食堂で昼食を食べていた守と橘はたまには違う物をと学生証を片手に松龍に来ていた。

 正直、食堂のランチは学生の味覚に合わせた料理なのは分かるが全体的にマヨネーズの味ばかりが目立っていたので飽きが来ていたのだ。


橘「お前、まさかまたダブルカツとか言うなよ。」

守「それ、まさかフリか?」


 2人は学生たちの行列に並び、順番が来るのを待った。15分後、やっと2人の番に。王麗が店から出て来て席に案内した。


王麗「守君、いらっしゃい。こっちこっち。お2人様です。」


 いつもの座敷に案内された守達はランチメニューの組み合わせを考えていた、そこに今週から水曜日はランチタイムでの勤務になった好美がお冷を持って来た。


好美「いらっしゃいま・・・、あ。」


 守は胸元の名札を即座に見た。


守「あ・・・、この前はどうも。倉下さんですか、ここでバイトしているんですね。」


 守に声を掛けられた好美は顔を赤らめていた。


-⑧ まさかの2人-


 座敷に座る守の前で顔を赤らめる好美の後ろから龍太郎が声をかけた。


龍太郎「俺の娘だ、手出すんじゃねえぞ守。」

王麗「いつからあんたのになったんだい!!」


 お盆で強めのツッコミをする王麗。龍太郎は頭をさすっていた。


龍太郎「痛ぇな・・・、この頃母ちゃん強いぞ。ツッコミというより暴力だよ、DVだよ。」

王麗「馬鹿な事言ってる亭主への愛情表現って事にしておきな。」


 2人の様子を見てクスクスと笑う好美。


好美「守さん・・・、ですか?今度の金曜日の授業来ますか?」

守「勿論、行く予定です。」

好美「それと、今日のランチはどうします?」


 少しの間、何故かその場が静寂に包まれた。きっと選択を誤るとまずい事になると守は察した。


守「ロースカツとメンチカツで・・・。」


 笑顔になった好美は楽し気に注文を通した、因みに橘はロースカツとポテトサラダ。


橘「お前、よく食うな・・・。というかもしかして今の子って・・・?」

守「ああ、思い出した。この前の人だ、また会えた。」


 店の奥に走った好美はまだ顔が赤かった、守にまた会えて嬉しかった様だ。


好美「今日、バイト代無しでも良い位嬉しい。」


 好美は笑顔で守の注文したランチを持って来た、意識してでの事か、気持ち白飯が大盛りになっていた。


挿絵(By みてみん)


 2日後の金曜日、好美と守は再会するとすぐに連絡先を交換した。その様子を桃と橘が傍らで見ながら話していた。


桃「あの2人、最近良い感じみたいですね。」

橘「そうですね、いっその事くっついちゃえば良いのに。」

桃「何か・・・、羨ましいですね。」

橘「あれが恋ってやつなんですかね。」


 何となくの流れで2人は互いの自己紹介をした。


桃「私桃です、鹿野瀬 桃。」

橘「橘です、橘 ただしです。」

桃「あの、あたし達で2人をくっつけちゃいましょうか。」

橘「いいですね、やってみますか。」


 流れで連絡先を交換した2人は共謀して好美と守をくっつける事にした、ただ2人が何もしなくても良い様な流れになっているのだが。

 それから好美達は2人で食事をする様になった、桃は心配せずともくっつくと思ったので橘に連絡を入れた。


挿絵(By みてみん)


桃「余計な事はしなくても良いみたいです。」

橘「そうですね、ほっときますか。」

桃「あの・・・、あたし達何か気が合うと思いません?」


 桃の質問を聞いた橘は暫くの間黙り込んだ、どうやら同じ事を考えていたらしい。


2人(同時)「付き合っちゃいます?」


 2人は爆笑した、まさか同じ台詞が出るとは思いもしなかったからだ。そのまま2人はくっついた、そして2人で食事にも出かける様になった。

 一方、好美と守はまだだった。しかし常に互いの事を考えている。


2人(同時)「何しているんだろ、連絡して良いのかな。すぐにでも会いたい・・・。」


 その日の昼休み、いつもの様に遊びに向かった2人は咄嗟に切り出した。


2人(同時)「あなたが大好きです、僕(私)と付き合って下さい・・・。」


遂に告白した2人。

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