㉝
金上と恋人らしい事をしてみたい美麗。
-㉝ 待ちわびた瞬間-
酒宴の夜が更ける中、守にはある感情が芽生えていた。授業やバイトの兼ね合いにより、最近好美とすれ違う日が多かったので、正直ご無沙汰だったのだ。少し寂し気な表情をする守に王麗が気付いていた。
実は好美も同じ気持ちでいた、先程から座敷で隣に座っていた時に守の手に指を近づけようとしていたのだがその度に守が立ち上がっていたので失敗に終わっていた。
そんな2人の様子をずっと見ていた王麗が守を呼び出した。
王麗「さっきから落ち着かないみたいだけど、何かあったのかい?」
守「実は最近好美とすれ違う日が多くてあまり会えてなかったんだ、いっそ酒の力を借りてでも今日好美とキスしたいなって思っちゃってさ・・・。」
王麗「悪い事は言わないからそう思うなら何もしないでじっとしてな、きっといい事が起こるはずだよ。」
十数分後、しびれを切らした好美が焼酎を一気呑みした。
好美「もう無理!!待てない!!」
そう叫ぶと守の両頬を両手で挟み無理くりキスをした、その様子を見ていた美麗が顔を赤くしていた。そんな娘の様子を父親は見逃さなかった。
龍太郎は美麗に紹興酒を手渡してカウンター席に座る様に促した。
龍太郎「どうした美麗、パパに聞かせてくれるかい?」
美麗は恥ずかしそうに打ち明けた。
美麗「さっきさ、好美と守君がキスしていたのを見て私もかっちゃんとしたいなって思ったの。でもね、これが私のファーストキスになると思うともっと大切にしたいなとも思ってさ。」
龍太郎は煙草に火をつけながら答えた。
龍太郎「うん・・・、そうだね・・・。美麗の人生は他の誰でも無く美麗自身の物だから決してパパは止めはしないけど、一瞬一秒を大切にして欲しいと思うな。」
美麗「うん・・・、ありがとうパパ。」
十数年もの間持ち続けた金上への想いから「今日どうしても仕掛けたい」という気持ちが強くなっていたのだが、やはり何処か恥ずかしさを覚えてしまう。
美麗は葛藤した、好美みたいに人前で堂々と出来るだろうか、そう思うと息が荒くなり涙が溢れだして来た。
美麗は意を決して行動に出た。
美麗(小声)「ねぇ・・・、じっとして。」
美麗は金上の顎を掴んで唇を重ねた、長く・・・、長く・・・。
王麗「あらま、美麗ったら、これは大胆だこと。」
美麗は顔を拭う事も忘れて笑顔で泣いていた。
美麗「嬉しい、この日をずっと待ってた。」
そう言って強くハグをした。
互いの鼓動が皮膚を通して伝わって来た。
金上「今までの努力が報われた気分だよ。」
龍太郎は再び煙草に火をつけた。
龍太郎「美麗のあんな嬉しそうな顔を見たのは初めてだ、今日はトラブルがあったが良い日になったな・・・。」
王麗「本当だね、いつもは何処か寂しそうな顔をしていたのにね。」
幼少時代、金上が美麗に声を掛けなくなってからずっと心の片隅で孤独感を感じていた美麗。友人と遊んだり食事をしている時だっていつでも頭の中では金上の事を考えていたそうだ。
美麗は顔をぐちゃぐちゃにしながら泣き続けていた、その気持ちを受け止めるかの様に金上が恋人をずっと抱いていた。
美麗「うっ・・・、だ・・・、大好き・・・。」
美麗はずっと泣き続けていた。




