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夜勤族の妄想物語2 -5.あの日の僕ら-  作者: 佐行 院


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②~③

学生特有の出逢いと別れ。


-② 初見はチラ見-


 圭が電車に乗って旅立ってから約3時間後の13:30、街の中心部にある駅前のバスターミナルで高速バスから降りた倉下好美は携帯を確認していた。偶然高校からの友人が同じ学部学科に通う事になったので買い出しを兼ねて会う事になっていた、因みに今夜の夕食の予定はまだ決めていない。


挿絵(By みてみん)


好美「えっと・・・、桃と会うのが15:00だからそれまでに不動産屋に鍵を貰いに行って家に荷物を置きに行かなきゃだね。」


 駅前のロータリーから数分歩いた所にある不動産屋、こっちでの家探しを丁寧に手伝ってくれた好美にとっての相棒的な存在だった。


不動産屋「いよいよですか、楽しみですね。」

好美「不安しかないですけど何事もやってみないと分からないですからね。」

不動産屋「でも本当に良心的なお部屋をご紹介出来て私も嬉しいですよ、こちらが部屋の鍵です。宜しければ車でお部屋までお送りしましょうか。」

好美「いえ、歩いてこの街を見て回りたいので。あの・・・、地図か何かありませんか?」

不動産屋「地図ですね、簡単な物で宜しければお書きいたしましょう。」


 コピー機からA4の紙を1枚取り出すとボールペンで丁寧に線を引き出した不動産屋、好美の様な客に慣れているのかどこか軽快に書いていく。


不動産屋「どうぞ、では新生活楽しんで下さい。」

好美「ありがとうございます、本当に助かりました。」


 店を出て川沿いのボードウォークをゆっくりと歩き、商店街のアーケードを抜けた所を右に曲がる。どうやら今夜含めて夕食の買い物は近所で済ませる事が出来そうだ。

 交差点を曲がった所からは家が立ち並んでいた、街路樹がコンクリートの歩道に彩りを加えており、木陰のお陰で少し涼しく感じた。

 地図の通り住宅街をまっすぐ歩いていると双子の様に並んで建っていた2棟のビルが一際目立っていた、どうやらここが新居らしい。

 1号棟の1階部分にはコンビニ、そして2号棟には「松龍」という中華居酒屋が店舗として入っていた。その中華居酒屋はランチも人気らしく、腹を空かせた多くの学生達が学生証を手に並んでいた。学生限定の激安ランチでもあるのだろうか、入学前だが学生証だけは先に郵送されていたので好美は何となく楽しみになっていた。因みに、この事は守も同じで早速同じ学部学科に通う予定の橘と学生限定ランチを食べに来ていた様で偶然好美と目が合った。


守「この辺では見ない顔だな、でも可愛い・・・。」

橘「えっ、どこ?」

守「ごめん、あっち行っちゃった。」


ビルの目の前に立った好美は守の方をチラっと見た後に手で日陰を作りながら上を見上げた。

 

好美「いっぱい食べそうな人、それにしても改めて見ると大きいな。えっと・・・、「ニューハマタニ2号棟1407号室」ね、でも何で「ハマタニ」なんだろう。うーん・・・、まぁ良いか。」


 店舗部分脇の出入口横にあるセンサーに渡されたカードキーをかざして自動ドアを開けて奥のエレベーターに乗る、14階まで上がってやっとの思いで新居に到着した。

 新居は風呂トイレ別の1LDKで、家具家電ロフト付きで家賃が月48000円というまさかのお値段。好美は早速荷物を降ろして座布団に腰を下ろして麦茶を1口飲んだ。


好美「ちゃんと家賃と生活費稼がなきゃ、バイト探そう。」


 すると好美の携帯に電話が、同じ大学に通う予定の鹿野瀬かのせ ももからだった。


桃(電話)「好美、もう14:50だよ。どこにいるの?」

好美「ごめんごめん、今家に着いたの。」

桃(電話)「じゃあそっち向かうわ、家どの辺り?」

好美「「ニューハマタニ」の2号棟1407号室なんだけど。」

桃(電話)「ああ、あのやたら大きい所ね。じゃあ行くから待ってて。」


 一足早くこっちに引っ越してきていた桃はほんの少しだけだが土地勘があった、実は今日も夕食の食材を商店街で買うつもりだった。

 一方、数分前に偶々好美と目が合った守は橘と松龍へと入った。汗水たらしながら鍋を振る店主が笑顔で2人を迎え入れた、美味そうな香りが漂う店内は少し遅い時間だったが腹を空かせた多くの学生達で賑わっていた。


-③ 偶然なのか必然なのか-


 守と橘にとって松龍は昔からの馴染の店であった、店主は2人の顔を見るなりいつもの言い慣れた台詞を言った。


店主「おう守達じゃないか、いつものかい?」

守「いや、今日からはこれを使うんだ・・・。」

店主「お前ら大学に入ったんか、入れたんか!?」


 自慢げに手に入れたばかりの学生証を提示した守、それを見た店主は守の高校時代の成績を知っていたので驚きを隠せなかった。いつもは貝塚学園高校に学生証が無かったのでオムライス一択なのだが、今日からは堂々と「特別メニュー」を選べる。

 松龍での学生に人気のランチである「特別メニュー」とはご飯と御御御付が付き、そして好きなおかずを2種類選んで食べる事が出来る物だった、値段はワンコイン500円(学生応援価格というやつだ)。大抵は主要なおかずとサラダを選ぶ学生が多かったのだが、初めての守はロースカツとメンチカツを選んだ。


店主「お前本気かよ、うちのは両方でかいぜ。」

守「ガキん時からの夢だから良いじゃんかよ。」


 ほぼ同刻、こっちに引っ越して来たばかりで昼食がまだだった好美はどうしても手に入れた学生証を使って松龍に行ってみたかった。とにかく空腹で仕方なかったがはやる気持ちを抑えていた、桃を待っているからだ。

 思ったより早く桃が到着したらしく、好美の部屋のインターホンが鳴ったので部屋にある電話の受話器で対応した。


桃(電話)「好美、開けて。」


 このマンションの出入口の自動ドアはオートロックで常に施錠されており、住民以外の物はセンサー横のインターホンに部屋番号を入力して通話をすることになっている。住民が部屋にあるボタンで自動ドアを開けて迎え入れる事になっており、天井のセンサーが来訪者を察知するか一定時間を超えると勝手に閉まるシステムになっていた。


好美「桃、お昼食べた?」

桃(電話)「実は忙しくてまだなんだ、お腹空いたよ。」

好美「じゃあ、1階の店行ってみない?そこ学生証出したら安くなるらしいよ。」

桃(電話)「良いじゃん、じゃあ待ってるわ。」


 エレベーターの前で待つことにした桃、すると思ったより早く好美が降りて来た。


桃「本当にここに住むんだ、高かったんじゃないの?」

好美「それがだいぶ安いのよ、家具家電付きで月家賃48000円。」

桃「へ・・・、へぇ・・・。」


 桃はこっちに親戚が住んでいるので家探しをしていないからどういうリアクションを取るべきか分からなかった。

 合流した空腹の2人は早速、松龍に入った。店に入ってすぐの座敷で先程目が合った守が先程到着した大きな揚げ物がどんと乗った「特別メニュー」をがっついていた。


好美「あ、さっきの・・・。凄い食べてますね、ここ美味しいですか?」

守「えっと、昔から通ってて。美味しいですよ、おすすめです。」

好美「楽しみです、ありがとうございます。」

守「やっぱり可愛いな、どこの大学の子だろう。」


 少し顔を赤らめる守を見て橘が気付いた。


橘「もしかしたら今の子がさっきの子か?がちで可愛いじゃん。」

守「うん・・・。」


 実はこれが最初の出逢い、ただ残念な事に数日後の入学式を終えてから双方は違う学部学科で忙しい毎日を送る事になっていたので互いの事を全くもって面識が無い位に忘れてしまうのであった。

 松龍での食事を終えた女子2人は商店街へと向かった、今さっき昼食を摂ったばかりなのに話題はもう夕食の事になってしまっている。


桃「今夜ね、実はうちの親戚が好美の歓迎パーティーしたいって言って来てるの。それでね、一応引越し蕎麦とかご飯を用意してくれるみたいなんだけど何か食べたいものがあったら買って来いってお金貰っているのよ。」

好美「助かる、食費どうしようかって考えてたとこなの。」


挿絵(By みてみん)


 好美はそう言うと商店街のアーケードに入ってすぐの書店で求人雑誌を手に取った。


本格的な私生活が始まる。

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