㉛~㉜
2人にどういう言葉をかけるべきか悩む好美。
-㉛ 貢の初恋-
酔っぱらった桃の寝言によりすっかり雰囲気が気まずくなってしまった貢と香奈子の間を何とかしようと好美が機転を利かせて先程の逮捕劇の話をした。
香奈子「もしかしてさっきパトカーが止まってたやつ?」
香奈子がバイトから帰って来た時、2号棟の前には規制線が張られていたので家に入れなくなっていた住民達でごった返していた。香奈子が人ごみを掻き分けて見てみると丁度逮捕された成樹がパトカーで護送される所だった。
好美「貢君が走って捕まえたんだよ。」
香奈子「貢君?」
好美は2人が未だに互いの名前を知らない事を忘れていた。
貢「貢・・・、です・・・。貢 裕孝。」
香奈子「変わった苗字ですね、初めて聞きました。」
貢「そうなんですかね、俺そういうの詳しくなくて。」
全くもって違う話題でだが盛り上がる2人を見て好美は一安心した。
丁度その頃、調理場では気を利かせた龍太郎が炒飯の注文が入った為に中華鍋で油を温めながら娘に声を掛けた。
龍太郎「美麗、今日はありがとう。もう大丈夫だからお前も座敷行って呑んで来い。そこの冷えたグラスとビール持って行って良いから。」
美麗「良いの?お金払うよ?」
龍太郎「パパからのお祝いだ、受け取ってくれるか?彼氏と一緒に呑んでおいで、パパも後で行くから。あ、エプロンは脱いで行けよ。」
美麗「パパ・・・、ありがとう。」
冷蔵庫から冷えたグラスとビールを取り出し、金上がいる座敷に行こうとした美麗を今度は皿洗いをしていた王麗が呼び止めた。
王麗「美麗、ちょっと良いかい?」
美麗「うん、どうした?」
美麗は一旦瓶ビールを座敷に置くと母の元へと向かった、王麗は黒い小さな壺を持って娘を待っていた。
王麗「これ、ママ特製の黒糖梅酒だよ。あんたに彼氏が出来た時に一緒に呑んで貰おうと作ったんだ、後でママも行くから呑んでおくれ。守君や好美ちゃんにも分けてあげな。」
美麗「ママもありがとう・・・。」
美麗は王麗から受け取った壺を胸に抱えて座敷席に戻った。
金上「みぃちゃん、仕事はもう良いの?」
美麗「うん、パパとママが一緒に呑んで来いって。」
金上「そうか、じゃあお言葉に甘えて。」
金上が美麗のグラスにビールを注ぐと、美麗は嬉しそうに呑み干した。その光景を好美と香奈子が優しい目をして見ていた。
好美「あの2人、さっきの事件をきっかけに今日から付き合いだしたの。」
香奈子「あれって・・・、美麗かな?彼氏さんの方は誰か分からないけど。」
好美「金上君だよ、柔道部でさっきの犯人を貢君が捕まえた後に取り押さえてたの。」
香奈子「金上君って、あの金上君?!雰囲気変わったね・・・。」
美麗や金上と同じ小学校に通っていた為に金上の過去の姿を知っていた香奈子。
好美「金上君、ずっと美麗の事を一途に想ってたんだってさ。さてと、私も行こう。」
好美は守達が黒糖梅酒をロックで呑み始めたのでテーブルを挟んで反対側へと向かった、香奈子は4人の恋人達を羨ましそうに眺めていた。
香奈子「恋人か・・・。」
こう呟きながら眺める香奈子の横顔を見た貢に人生で初めての感情が生まれていた、香奈子の横顔を隣でずっと眺めていたい・・・。そう、貢は香奈子の事が好きになっていた。
香奈子「あの・・・、私の顔に何か付いてます?」
-㉜ 良い雰囲気-
香奈子の言葉により冷静さを取り戻した貢は少し顔を赤らめた。
貢「すみません・・・、お気になさらず。」
未だによそよそしい2人に好美が絡みだした。
好美「何で同い年なのにずっと敬語なのよ、もう一緒に呑んだ仲なんだからそんなの気にしなくてもいいじゃん。」
貢「仕方ないだろ、女の子とあんまり話した事が無いんだよ。」
そんな中、やっと目を覚ました桃が1人寂しく冷酒をちびちびと呑んでいた正の隣に座った。
桃「水・・・、水欲しい・・・。」
正「呑みすぎだよ、ほら。」
そう言うと水と間違って冷酒を渡した。
桃「あれ・・・、水ってこんな味だっけ?まぁ、いいか。」
好美「桃、まだ呑むの?本当相変わらずだね。」
誰もが皆冷静な判断が出来ていない中、好美が先程から感じていた事を正直に言った。
好美「ねぇ、さっきから貢君と香奈子って良い雰囲気じゃない?いっその事付き合っちゃえば?」
香奈子「何言ってんの、会うの2回目だよ。」
貢「う、うん・・・。」
貢は香奈子に意見を合わせて首を縦に振った、本当は横に振りたかったが。
何となく気を紛らわせたくなった貢はおつまみとして出ていたピーナッツを口に流し込んだ、口いっぱいに入ったので何も話せなくなっていた。
香奈子「そんなにピーナッツって好きになる物ですか?!」
貢「ふぁ・・・、ふぁい・・・。」
ぼりぼりと口内でピーナッツを砕く音が響き渡った、それを聞いた香奈子は大爆笑していた。その光景を肴に恋人たちはビールを煽った。
好美「アハハ・・・!!貢君、馬鹿じゃないの?!」
守「お前そんな奴だったか?!」
貢「ふ(う)・・・、ふふへ(うるせ)ー。」
美麗に至っては鼻から梅酒を出しかける位だった、隣にいる金上と付き合う事になったので一層笑顔が増している。
1人者同士の良い雰囲気の2人はやっと敬語をやめた。
香奈子「ねぇ・・・、連絡先聞いて良い?」
勇気を出して先に声を掛けたのはまさかの香奈子だった。
貢「う・・・、うん・・・。」
携帯を取り出した貢は香奈子のまさかの一言に動揺したのか、操作が上手く行かなかった。
貢「ご・・・、ごめん・・・。」
好美「あれ?貢君本気で惚れちゃったんじゃないの、顔が赤いよ。」
貢は慌てて否定した。
貢「違ぇし、酒が回って来ただけだよ。」
桃「もう、分かりやすくて何か可愛い!!」
正の冷酒を呑み干して顔がまた赤くなっている桃が大爆笑していた、座敷席の誰よりも楽しそうにしているので全員許容した。
香奈子「ねぇ・・・、水でも飲む?」
貢「うん・・・、助かった。」
美麗「もう、既に2人の答えは出たみたいだね。」
もう、そろそろか・・・。