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㉙~㉚

感動で涙が止まらない金上。


-㉙ 娘を託す両親とベタな過去を持つ友-


 酒が回ったので好美の後ろで桃が寝ていた傍らで、十数年越しの告白に成功した金上が余韻に浸っていた。


挿絵(By みてみん)


金上「こんなに嬉しいのは初めてだよ、今日は泣いても良いか?」

守「今日は俺が許す、呑んで泣けや。」


 グラスに入ったビールを一気に呑み泣き出した彼氏を見て美麗が調理場から守に罵声を浴びせた。


美麗「守君!!うちの彼氏を泣かせないで!!」


 そんな中、蓋の開いた瓶ビールを片手に龍太郎が座敷席にやって来た。


龍太郎「俺からのお祝いだ、呑んでくれ。美麗みれいの事を頼んだ・・・。」


 十数年もの長い間自分の娘の事を一途に想っていた目の前の男の存在が嬉しかったのか、父は目に涙を浮かべ、ビールを注ぐ手が震えていた。ただ、不思議な事に注がれたビールは一滴も零れる事無く綺麗にグラスへと入って行った。


王麗「どれ、私からも注ごうかね。」


 龍太郎が王麗に瓶ビールを渡すと、金上は急いでグラスを空けた。


王麗「ずっと、娘の事を想ってくれててありがとう。これからも美麗メイリーの事、よろしくね。(小声で)泣かせたらここ出禁にするからね。」


 王麗に小声で言われた言葉に目を大きく見開いてギョッとした金上からテーブルを挟んで反対側で貢が紹興酒を片手に嘆いていた。


貢「俺だけ1人者か・・・。」

王麗「何言ってんだい、出逢いなんてそこら中に転がっているじゃないか。」


 王麗の放った今の言葉は聞き飽きていたのか、大きくため息をつく貢。そんな貢に好美が質問した。


好美「誰か良いなと思っている人とかいないの?」

貢「いない事は無いんだけど・・・。」


 2人の会話が聞こえたのか未だ顔が赤い桃が無理矢理起き上がった。


桃「何・・・、恋バナ?」

好美「貢君、気になる人がいるんだって。」

桃「え?誰?」

貢「実は大学の図書館で1度しかあった事が無いから何学部の人かも、何年の誰なのかも知らないんだ。ほら、この前の授業で面倒なレポートの宿題が出ただろ?」

好美「あ・・・、川岸先生の?」


 数日前、貢は冷房の利いた図書館でレポートを済ませようと炎天下の学内を歩いていた。図書館の2階から入る裏の書庫で資料となる本を探していた。


貢(回想)「これ読んでみようかな・・・。」


 参考になりそうな1冊の本に手を延ばすと反対側から女性の手が、2人の手がそっと触れるという図書館や書店でよくあるベタな件。


貢(回想)「あ・・・、すみません。」

女性(回想)「こちらこそ、ごめんなさい。」


 静かな書庫で一瞬、気まずくなってしまった2人。


貢(回想)「あの・・・、俺まだ読んでいない本をあっちに置いてあるので良かったら先に読んで下さい。」


 嘘だ、先程書庫に入ったばかりで1冊も選んでなどいない。


女性(回想)「良いんですか?私借りようと思っているのですが。」

貢(回想)「大丈夫ですよ、別に急いでませんから。」


 これも嘘だ、レポートの提出は2日後で、図書の貸出期間は1週間だ。


-㉚ 出逢いと再会-


 他の本を指でなぞり、レポートの資料をどうしようかと悩み続けながら過ごした数日後の今現在。回想話を終えた貢はグラスを空けて紹興酒のお代わりを頼んだ。


好美「今のベタな話、何処かで聞いた様な・・・。」

貢「そうなのか?」

好美「いや、間違いならごめんなさい。」


 その時、好美の携帯に着信が。電話の主は先日、マンションのボイラーが故障したのでたまには良いかと近所の銭湯へと向かった時に出逢った同じ大学の女性だった。

 髪を濡らした好美は自らのシャンプーを使おうとしたが、目を瞑っていた為に隣にいたその女性のシャンプーを勝手に使ってしまった。


好美(回想)「あれ?香りが全然違う様な・・・。」

女性(回想)「それ・・・、私のシャンプーですね・・・。」

好美(回想)「あ、本当にごめんなさい。」

女性(回想)「いえいえ、よくある事ですから気にしないで下さい。」


 互いが歩いて銭湯に来ている事を知った好美は謝罪としてその女性にビールを奢った、入浴後も呑みながら家路についた時に2人が同じ大学に通っている事が分かった。


挿絵(By みてみん)


女性(回想)「同い年だったんですね、これからよろしくお願いします。」

好美(回想)「こちらこそ、取り敢えず敬語やめますか?」


 好美の提案をあっさりと承諾した女性。


女性(回想)「あれ・・・、家ここなんだ・・・。」


 別れ際に連絡先を交換したその女性からだった、現在22:15。


好美「私はいいけど、女将さんに聞いてみるね。女将さん、もう1人来たいって言ってるんですけど。」

王麗「私は良いけど、もう時間も遅いよ。来るの危ないんじゃないかい?」

好美「1号棟の6階に住んでる子なんですが。」

王麗「それなら大丈夫だ、すぐ呼びな。」

好美「良いって、すぐおいで。」

王麗「それとさ・・・。」


 王麗は再び寝始めた桃の方を見た。


王麗「桃ちゃん、今夜好美ちゃんちに泊めてあげてくれないかい?和多さんには私から連絡入れとくから。」

好美「分かりました。」

女性「好美!!」

好美「香奈子!!早すぎない?!」


 よっぽど嬉しかったのか、猛ダッシュでやって来た山板香奈子やまいたかなこは髪をくしゃくしゃにしながらやって来た。息を切らして顔を赤くしている。


香奈子「この店で呑めると思ったら嬉しくてさ・・・。」


 いつもは1階のコンビニで適当に買った酒を1人寂しく呑んでいる事が多かったので、念願だったこの店で好美と呑めると分かった瞬間にダッシュして来たのだそうだ。

 ただ、香奈子にとって予想外の出来事が起きた。


香奈子「あ・・・、先日の・・・。」

貢「お、お久しぶりです。」

香奈子「好美、この人と知り合いだったの?」

好美「こっちは同じ学科の友達で・・・、こっちは裸の付き合いをした仲で・・・。」


 兎にも角にも早くビールにありつきたい香奈子は好美と貢の間に座り注文した。


香奈子「図書館以来ですね。あ、本返したので次読んで下さい。」

貢「わざわざご報告ありがとうございます、すぐ読んで参考にします。」


 いや駄目だ、レポートの提出は昨日だったからだ。しかし空気を読んだ好美はその事を決して言わなかった、ただこの酔っ払いが寝言でやらかした。


桃「何言ってんの・・・、昨日までだったじゃん・・・。」

貢「げっ・・・。」


空気を読めない桃の寝言。

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