㉘
改めて呑み会を再開する6人。
-㉘ 孤独だった幼馴染-
好美に手を引かれながら合流した守を含めた6人は改めて乾杯した、先程まで互いを貶し合っていた2人の英雄が今度は互いを褒め称え合っていた。
貢「やっぱり金上が上から抑え込んでくれたから逮捕できたんだよ、ありがとうな。」
金上「いやいや、貢の全力走りでなきゃ追い付かなかったさ。俺の方こそ感謝してるぜ。」
テーブル上の空いたグラスにビールを注ぎながら照れくさそうにしている2人、その光景を見ていた好美はずっと微笑んでいた。
好美「でも本当にありがとう、2人とも頼もしかったよ。」
貢「いやいや、頼もしかったのは高校時代に柔道部の主将だった金上だよ。」
金上「お前だって陸上部の副キャプテンだったんだろ?」
好美の隣で桃が芋焼酎のロックを氷の音を鳴らしながら楽しんでいた、酒のつまみにしようとしているのか、悪気の全くない表情で興味本位の質問をぶつけた。
桃「ねえ、金上君はどうして柔道をやろうと思ったの?」
桃に質問された金上は持っていたグラスを置き、少し声のトーンを落として聞いた。
金上「とてもじゃないけど酒のつまみにならない話だけど良いのか?」
桃「大丈夫、肴ならまた注文すればいいし。」
金上「暗い話だぞ?」
桃「まぁ、話してみてよ。」
金上はグラスのビールを呑み干してゆっくりと話し出した。
金上「これは俺が小学校1年生の時の話だ、実は俺は双子でもう一方である姉とは別のクラスで姉のいる教室の前を通るたびに何故かそこの男子達に睨まれていた。きっと俺みたいな奴が弟だという事自体が気に食わなかったんだろうなと思ったんだ、何かしら恨まれる様な事をした覚えが無かったからな。
当時、俺のクラスには「みぃちゃん」って呼んでた幼稚園時代からの幼馴染がいた。一緒に遊んでいた時いつも「一緒に結婚しようね」と言ってた位の仲だった。
そんなある日の休み時間、おれはフザけた同じクラスの男子に皆の前で服を脱がされた。自分の見た目がみすぼらしくて、情けなくて仕方なかった。その男子が同じ日の放課後に俺の家に直接謝罪に来たけど、脱がされた時思ったんだ、「皆に嫌われた」って、特にみぃちゃんに。だからそれから卒業するまでの6年間ずっと声を掛ける事も出来なかった。
訳あって別の中学校に進学したから、もう10年以上話していない事になるな。」
桃「好きだったんだ、そのみぃちゃんの事。」
金上「うん・・・、それでなんだけど実は俺、当時の昼休みにのぼり棒の天辺から突き落とされて足の骨を折った事があったんだ。名前の知らない別のクラスの奴が天辺から俺を見て笑ってた、そいつは何事も無かったかの様に学校へと戻っていった。全く戻って来ない俺を心配した担任と保健の先生が迎えに来てくれて、保健の先生のおんぶで保健室に行った後、俺は病院に運ばれた。
その時思ったんだよ、「全ての原因は、俺が弱い事だ」って。とにかく強くなりたい、その一心で始めたのが柔道だったんだ。強くなって、またみぃちゃんにあった時告白しようって思ったんだ。
自分で言うのも何だけど、今なら堂々と言えるような気がするな。」
その時、すぐ近くでお盆が激しく落ちる音がした後にある女性が口を挟んだ。
女性「馬鹿!!あんな事でかんちゃんの事嫌いになる訳無いじゃん、逆に全然声かけてくれなくて嫌われたって思ってたのは私の方だよ。ずっと私、寂しかったんだよ!!」
好美「美麗・・・。」
金上の幼馴染の「みぃちゃん」こと、美麗は6人の座る座敷席の前で涙を流していた。
美麗「長々と思い出話みたいに語らないで直接「好き」って言ってよ!!あの時の約束、嬉しかったあの時の約束、ずっと忘れる訳が無いじゃん!!いつまで待たせるつもり?!いつまで寂しい思いをさせるつもり?!またあの時みたいに辛い思いをさせるつもり?!」
金上は貢のグラスに入ったビールを呑み干すと勢いよく立ち上がり美麗に近付いた。
金上「みぃちゃん、いや松戸美麗さん!!俺の自己中心的な理由でずっと寂しく辛い思いをさせて申し訳ありませんでした、これからの人生全てかけて償わせて欲しい。ずっと俺の隣で笑っていて欲しい!!大好きです!!俺と付き合って下さい!!」
美麗「ずっとその言葉を待ってました、喜んで・・・!!」
長年の想いが報われた美麗はこの瞬間、多量の嬉し涙を流した。
この後、酒が過去一番美味かったという。