㉗
新たな仲間を囲んでの呑み会の中・・・。
-㉗ 男だから分かる事-
先程の出来事により一躍ヒーローとなった貢と金上を含めた5人は好美達にとってお馴染みとなっている「いつもの座敷」で呑んでいた。
金上「いや、それにしてもあんな場面に出くわすとは思いもしなかったな。」
貢「お前、走り出した時に震えてたもんな。」
金上「お前も人の事言えないじゃんか、足がガタガタ言ってたぞ。」
そんな2人を眺めながら桃が微笑んだ。
桃「でも、2人共かっこよかったじゃん。」
好美「本当助かった、ありがとう。」
貢「でもよ、倉下も鹿野瀬も彼氏いるんだもんな、俺らも彼女欲しいよな。」
桃は大きくため息を吐く2人の英雄達を宥める様に空いたグラスにビールを注いだ。
桃「あ、私の事は桃で良いよ。」
好美「私も好美で。」
そんな中、少し離れた所で守が王麗の応急処置を受けていた。塗り薬と湿布で痛みを和らげようとしていた。
王麗「あんた立派だったよ、ちゃんと好美ちゃんを守ったじゃないか。いい男に見えた。」
ただ守は王麗のこの言葉を聞いて複雑な心境でいた。その気持ちを汲み取ったのか、少し手の空いた龍太郎が守を手招きして調理場の奥にある小さな裏庭に案内し、出てすぐのベンチに座る様に促した。少し離れた草むらで数匹の蛍の光が瞬く中、龍太郎は蓋の開いた瓶ビールを渡した。
守「どうも。あ、グラス・・・。」
龍太郎「ここは店の外だ、そんな事気にすんな。」
守「頂きます・・・。」
守が受け取ったビールを煽ると、龍太郎は煙草に火をつけて燻らせ始めた。座敷で楽しそうに呑む5人と違って俯く守の表情は決して明るい物では無かった、龍太郎は煙草の煙を深く吸い込み一気に吐き出した。
龍太郎「守、1つ聞かせてくれるか?」
守「うん・・・。」
俯きながら守は小さく頷いた。
龍太郎「お前、本当は悔しかったんじゃないのか?成樹を殴る事で好美ちゃんを守ろうとしたけど出来なかったから悔しかったんじゃないのか?」
守「くっ・・・。」
声を必死に殺す守に龍太郎は続けた。
龍太郎「でもな、俺はお前の事を誇りに思っているんだ。どうしてか分かるか?」
守「いや・・・。」
守は俯いたまま首を小さく横に振った。
龍太郎「あのな、お前からすればうちの母ちゃんが止めたからだとは思うが「殴らなかった」からだ。行動するには勇気がいるが、やめるにはもっと勇気がいる。ただお前があの時成樹を殴っていたら今頃警察の世話になっているのは守、お前だ。その様子を見た好美ちゃんがあの様な屈託のない笑顔を見せ続けてくれると思うか?お前は殴る事で大切な物を守ろうとしたつもりだったと思うが、自分から大切な物を失おうとしたんだぞ。」
龍太郎の言葉に目を大きく開いた守、恋人としての「大切な宝物」を失いかけていた。
恋人である守にしかできない、大切な役割・・・。その時、座敷から好美の明るい声が。
好美「守、何でそんな所でしょぼくれた顔してんの?こっちで呑もうよ。」
龍太郎「ほら、男だったら1度でも愛した女を待たせんじゃねぇ・・・。」
「決まった」と言わんばかりの表情をした龍太郎に出入口から王麗が突っ込んだ。
王麗「父ちゃん、店主だったらお客さん待たせて煙草吸ってんじゃないよ。餃子と春巻き2人前ずつ追加だよ、早くしな。」
龍太郎「母ちゃん・・・。」
素に戻った龍太郎。