㉖
忙しい夜になりそうだった。
-㉖ 執念-
好美のまさかの一面を目撃してしまった球技大会の夜、大学周辺の居酒屋は打ち上げと称して呑んでいる学生達で一杯となっていた。中華居酒屋である松龍も例外ではなく、その影響で曜日的には休みだった好美は龍太郎に呼び出され臨時で出勤していた。
王麗「うちの変態店主がすまないね、今日は8時までで大丈夫だからね。終わったら店のビール呑んで良いからね、そうだ・・・、瓶ビール今からキープしておいても良いよ。」
好美「良いんですか、では早速。」
王麗の言葉を聞いた好美は早速守にメッセージを送った、守からの返信はすぐにやって来た。
守「じゃあいつものメンバーで呑もう、8時前に3人で行くよ。」
そのメッセージを見た好美は関係者以外立ち入り禁止の調理場内にある瓶ビールの入った冷蔵庫を開け1本取り、ラベルに油性マジックで大きく「好美」と書いて分かりやすい場所に置くと意気揚々と仕事を始めた。
好美の仕事が終わる8時前、新たに瓶ビールの注文が入ったので冷蔵庫の方へと向かうと「学生たちのもう1人の母」と呼ばれ学生たちに愛される王麗の怒号が響いた。
王麗「成樹!!あんたここで何してんだい、あんたは出禁にしたはずだよ。」
成樹「うっせえ、ババァ!!」
成樹というその男子学生は普段から素行が悪く、何度も警察のお世話になっていた為大学関係者も頭を悩ませていた。
成樹は冷蔵庫を自分勝手に開け、中の瓶ビールをラッパ呑みしていた。
王麗「あのね、ここは関係者以外立ち入り禁止だよ!!ルールを何も守らない奴に売るビールなんてこの店には1本も置いていないね、そこの壁に「ラッパ呑み禁止」とも書いてあるだろう!!」
学生の悪酔いによる吞み過ぎの防止とまた食品衛生の観点から松龍では瓶ビールのラッパ呑みが禁止されていた、店の壁という壁にこの内容が書かれた紙が貼られている。
ただそれだけだったら警察に通報する事で終わるはずなのだが、新たな問題が発覚した。
成樹が無断で呑んでいた瓶ビールにはあの大きな「好美」の文字が、それを見た好美が震えだした。
丁度松龍で呑んでいた陸上部と柔道部の男子学生達が携帯電話を片手にし、その様子を証拠としてカメラで撮影して警察に通報した。成樹は出入口にいた好美を押しのけた。
陸上部「おい、まずくないか?」
丁度3人で好美を迎えに来ていた守が好美の肩を抱き、受け止めた。
守「てめぇ・・・。」
守は拳を握り始めた、その行動を見た王麗が守の手を取り引き止めた。
王麗「待ちな、自分が今何しようとしているか分かるかい?暴力では何にも解決しないよ。」
王麗の言葉を聞いた守は握っていた拳をゆっくりと開いて降ろした。
成樹「ふん・・・、ビビリかよ。クソが!!」
そう吐き捨てると守の頬を強く殴った。
成樹「バーカ!!」
陸上部・柔道部「待ちやがれ!!」
また吐き捨てた成樹がその場から逃げ出したので先程の陸上部と柔道部の学生たちが追いかけた、で成樹は捕まり柔道部の学生に動きを封じられながら駆けつけた警官に逮捕された。守の中学校時代の同級生だったその学生達は、偶然好美と同じ学科に通っていた。
守「貢、金上、すまん。」
貢「俺達は大丈夫だ、それよりも倉下は?」
守「震えてるよ、よっぽど怖かったんだろう。」
金上「目の前で彼氏が殴られて罵倒されたんだ、落ち着くまで待ってやれ。」
好美「つ・・・。」
桃「待って、何か言ってる・・・。」
好美「あいつ・・・、私のビール呑みやがったーーー!!」
守・貢・金上「そっち?!」
ビールへの執念。