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㉑~㉓

本格的な夏に。


-㉑ 憧れ-


 4人が満喫したBBQから数日経ち、いよいよ夏祭りのシーズンがやってきた。守は中学生の頃からの夢を叶えるため、この日振り込まれた分を含めひたむきに貯めたバイト代をおろして松龍の前にいた。

 日差しが照り付け気温が高いので冷房の利いたカペンの中で待つことにした守、少年の頃から抱いていた「恋人が出来たら一緒に浴衣を着て夏祭りに行きたい」という憧れがもうすぐ叶おうとしているので興奮している。

 数か月前、守は好美を誘っていつものショッピングモールにある和装専門店へと向かった。2人に気付いた店長の女性が声をかけ、布地を数種類程サンプルとして提示した。


店長「お2人でご一緒にお祭りですか?いいですね。」

守「子供の頃から浴衣で祭りに行く事に憧れていたんです、良い物ありますかね。」

店長「そうですね・・・。」


 好美を交えた3人で並べられた布地を吟味していく、すると好美が紫をベースとした生地を手に取った。ゆっくりと開いてみると綺麗に開いた花火がデザインされている。


好美「これ・・・、これが良いです。」

店長「おや、どうやら彼女さんはお目が高い様ですね、こちらは当店自慢の1品となっております。帯は黄色などいかがでしょうか。」


 店長が布地の紫にピッタリはまる黄色の帯を見せた、好美は一目惚れしたらしく、この布地で作った浴衣をこの帯で締めて着たいと思った。


店長「かしこまりました、では彼氏さんは白などいかがでしょうか。帯はそうですね・・・、赤がピッタリかと。」


 守は綺麗に輝く布地に目を輝かせていた、どうやらこちらも一目惚れらしい。


守「仕上がりまではどれ位かかりそうですか?」

店長「そうですね・・・、短くて1ヶ月は頂戴する様になるかと思います。あ、ご料金はお渡しの時で構いませんので。」


 そして店長から仕立てが完了したとの連絡が来たので今に至る、仕上がった浴衣を着た好美の姿を想像すると顔がニヤついていた。

 いきなりだが、守は中学時代にテレビで偶然ある浴衣職人のインタビュー映像を見かけていた。

 その映像でその職人は「浴衣を作る時、どんな気持ちで作っているか」と聞かれてこう答えていた。


職人(回想)「そうですね・・・、着る女性の方々の魅力を活かせる浴衣を作る事ですね。やはり女性の方々は我々男には無い魅力を数々持ち合わせています、その沢山の魅力を私なんかが作った浴衣で覆い隠してしまうのは正直勿体なく思いますので「思わず脱がせたくなる浴衣」を作る様に心がけています。」


 守は昔聞いたこの台詞を思い出し、好美のあらぬ姿を想像してまたニヤついていた。

 同刻、バイトを終えた好美は松龍から太陽の照り付ける屋外へと出て来た。タッパに入れて貰った賄いの炒飯を手に提げうろつき、いつも通り歩いて来ていると思ったのでずっと汗を滲ませ守の姿を探していた。


好美「どこにいんのよ・・・。」


 我慢できなくなった好美は姿を見せない彼氏に電話をかけた。


挿絵(By みてみん)



好美「バイト終わったよ、何処にいんの?」

守(電話)「さっきから目の前にいるよ。」

好美「え?まさか・・・。」


 駐車場でエンジンのかかったままの車が1台あるのを見かけていたのでその車の方向へと向かった、中では守が涼し気に座っていた。

 好美は頬を膨らませながら助手席のドアを開けた。


好美「もう、意地悪!!」

守「許してくれよ、アイス奢るからさ。」


 すると好美は提げていた袋の中から炒飯とプラスチックのスプーンを取り出しながら答えた、5パックある熱々の炒飯を勢いよく頬張っていく。


好美「4つ・・・、アイス4つ!!」

守「あ・・・、はい・・・。」


-㉒ ドキドキの試着-


 折角の浴衣を汚す訳にも行かないので先にアイスの件を済ませる事にした守、1階の自動ドアから入ると早速アイスクリームショップへと向かうと早速店員が好美を誘惑した。


店員「いらっしゃいませ、今ならダブルの料金でトリプルに出来ますがいかが致しましょうか。」


 好美は目を潤ませながら守の顔を見た。


守「はぁ・・・、仕方ないな。」

好美「勿論、ダブルでお願いします!!」


 楽しそうにアイスを6種類選ぶ好美、先程炒飯を5人前平らげた様には全くもって見えない。

 選んだアイスを受け取りニコニコしながら食べる様子を見ると「デザートは別腹」という言葉は嘘では無いらしい。

 アイスを6個とも平らげてしまうと勢いよく立ち上がり守の腕を引っ張って今回の目的地へと向かった。


挿絵(By みてみん)


 和装専門店に着くと先日お世話になった店長が笑顔で出迎えた。


店長「いらっしゃいませ、あ、お待ちしておりました。お二方の分、出来上がっておりますよ。宜しければご試着されますか?」

好美「はい勿論、早速させて下さい。」

店長「では彼女さんは私とこちらへ、彼氏さんは私の部下が参りますので少々お待ちください。あ、申し遅れました。私この店で店長をしております、安富と申します。」


 安富が好美を障子で仕切られた部屋へと案内した数分後、奥の部屋から法被を着た店員が笑顔でやって来た。


店員「いらっしゃいませ、大変お待たせいたしました。」


 店員はゆっくりと丁寧に守に着付けして行った、帯を「貝の口」と呼ばれる形へと結んでいく。

 帯が結ばれた時、採寸されたサイズがぴったりだったのか、それとも何処か身の引き締まる思いがした。

 店を仕切っていた障子の向こうから2人の笑い声が聞こえた。


好美「店長さーん、くすぐったいです!!」

安富「ほら、悪い様には致しませんので!!嗚呼・・・、浴衣をお着付けさせて頂くこの時が一番興奮します。」


 どうやら安富はある種のド変態らしい、正直中で何が行われているのかを想像したくはない。


店員「申し訳ございません、本当に申し訳ございません!!」

守「あはは・・・。」


 守が引き笑いをし続ける中、好美の着付けが終わったので安富が合図を送った。店員が障子を少し開けて確認した。


店員「おお・・・、やはりお似合いかと私も思っておりました。」


 守も好美の姿を見ようとしたら店員が障子を閉めて話しかけた。


店員「彼氏さん、今見ますか?それともお祭りの時の楽しみにされますか?」


 守は深く考え込み、固唾を飲んで答えた。


守「お楽しみにします・・・。」

店員「ふふっ・・・、貴方ならそう仰ると思っていました。」


 帰り道、車内でまた好美が頬を膨らませた。


好美「何で今日見なかったの?」

守「祭り当日に初めて見て、ドキドキしたいと思ったから。」


 祭り当日、王麗により先に着付けを終わらせた守は松龍の前で好美を待っていた。正と桃も同様に浴衣を買ったらしく、同様に着付けを終わらせていたのだが。


守「正・・・、お前それ、作務衣さむえじゃね?」


-㉓ 憧れた浴衣姿-


 何処からどう見ても作務衣にしか見えない姿の正とラムネ片手に松龍の前で彼女たちを待っていた守は団扇を強めに仰いで暑さを凌ごうとしていた、屋外でずっと待っている2人を見かねた龍太郎が店内へと誘導した。


龍太郎「お前ら、汗かいて余計に暑苦しいぞ。中に入れ、ラムネのお代わり位はくれてやるからよ。」

守・正「駄目だ!!」

龍太郎「綺麗にハモってんじゃねぇ、何でそんなに暑い屋外に拘るんだよ!!」

守・正「我慢した分、彼女が綺麗に見えると思ったからだ!!」

龍太郎「サウナ後のビールか!!」


 珍しく龍太郎がツッコミに回っていた時、障子で隔てられた店内の座敷席で王麗が女子2人を着つけていた。


王麗「まさかあんた達の着付けをさせて貰えるとは夢にも見なかったよ、綺麗になっちゃって羨ましいもんだね。」

桃「それにしても王麗さんが着付けできるなんて思いませんでしたよ、何処かくすぐったいですけど。」

王麗「私も日本は長いからね、何でも出来る様になっておくのも良いかと思ってね。」

好美「本当に助かりました、モールにあるお店の店長さんってド変態なんですもん。桃が言った通りくすぐったいですけど。」


 好美の言葉を聞いた王麗は両腕を組んで何かを思い出そうとしていた。


王麗「モールの店長・・・、ド変態・・・。」

好美「どうしました?」

王麗「好美ちゃん、もしかして安富って人の事かい?」

好美「そうです、何で知っているんですか?」

王麗「知っているも何もありゃ私の妹だよ、着付けも私が教えたんだ。」

好美「えっ!!」


 先程から王麗の手付きが安富に似ているなと思っていたので心の隅で不信がっていたのだが、これで理由が発覚した。どうやら姉の癖が妹にそのままうつってしまったらしい。

 しかし、器用な知り合いがいて本当に助かったと思っていた。


王麗「ほら、出来たよ。私らも今日は店を閉めて祭りに行くつもりだよ。店片付けたら行くからね、向こうで合流して皆で花火を見ようじゃないか。」


 王麗は障子を少し開けて龍太郎に合図をした、店長が障子を少し開けて確認すると勢いよく鼻血を出してしまった。


王麗「何やってんだこのド変態、あんたの汚い鼻血が浴衣に付いたらどうすんだい!!」

龍太郎「こんなに生きてて良かったって実感したの初めてだ・・・。」


 ドクドクとした鼓動を打ちながら未だ鼻血を出す龍太郎を離れた場所に移動させた王麗が外で待つ彼氏2人を店内に招き入れた、守お待ちかねの瞬間だ。


王麗「好美ちゃん、桃ちゃん、開けるよ。ほら、あんたらごらんよ、あんた達の恋人がこんなにも綺麗になっちゃったよ。」


 紫とピンクの浴衣に身を包んだ2人が障子の向こうからお目見えすると彼氏たちが顔を赤らめさせていた、どうやら惚れ直してしまったらしい。守は言葉が出なかった。


挿絵(By みてみん)


好美「どう・・・?似合うかな?」

守「・・・。」

好美「何よ、何か言ったらどうなの?」

守「・・・好きです。」


 守の言葉に顔を赤らめさせる好美、そんな2人を含めた4人は祭り会場である河原へと向かい屋台を回った。守は綿菓子をちょっとずつ食べる好美を眺めていた、何処か羨ましそうに。

 正と桃は金魚すくいの屋台にいた、仲良く並んで金魚を追いかけていた。そして4人で店じまいを済ませた王麗達と合流して飲み物片手に花火大会を待った。

 場内アナウンスの声の後、大輪の花が幾重にも咲き誇った。好美はずっとこの幸せが続けばいいなと涙を流しながら眺めていた、守はそんな好美の肩をずっと抱いていた。


挿絵(By みてみん)


守「好美・・・。」


 大輪の花が再び咲き誇った瞬間、守と好美は唇を何度も重ねた・・・。


2人の幸せを花が祝福した。

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