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⑱~⑳

好美達はのほほんとした時間を過ごしていた。


-⑱ 母からの贈り物と緊急事態-


 宝田家でゆっくりとした時間を過ごした好美が桃と会う約束があると伝えて一旦帰宅してから数時間後のPM5:00頃、いつもなら株主総会に行った真希子が帰って来る時間なのだが影すらも見えない。

 1時間後、日が傾き西日が差し込み始めたPM6:00。いつものリムジンではなく聞き慣れない排気音エキゾーストが近づいて来たので守は駐車場に出た。

 一瞬、隣のアパートに住む光が帰って来たのかと思ったのだが本人の愛車であるカフェラッテの姿も無い。その代わりと言ってはなんだが見覚えの無いクーペタイプの軽自動車が1台止まっていた。


守「カペンだ・・・。」(うん、権利的な物問題なし。)


 守がこう呟いた瞬間、電子音と共に屋根が自動で開いてトランクらしき部分にすっぽりと入っていった。ただ驚くのは次の瞬間だった、車内にいたのが真希子だったのだ。


守「母ちゃん、どうしたんだその車。」

真希子「どうしたんだって、あんた用に買ったんだよ。入学祝兼免許取得祝いさね。」


 そう言って真希子が守に鍵を渡した。


挿絵(By みてみん)


真希子「今まで忙しすぎてろくに誕生日のプレゼントとか出来ていなかっただろ、せめてもの償いをさせておくれよ。」

守「償いだなんて・・・、本当にありがとう。」


 初めての愛車に涙する息子を運転席へと誘導する母、守が覗き込んだ黒を基調とした車内には本革張りのシートが2つ並んでいた。


真希子「車屋に言って特別にいじって貰ったのさ、あんたが「楽しく乗れる」様にね。」


 守は真希子の放った「楽しく乗れる」という言葉に疑念を持ちながら運転席に座った、ステアリングも社外パーツを使用しているらしい。よく見れば足回りにも細かく拘った6MTの走り屋仕様になっていた。

 守はやっぱりかと思いながら言葉を飲み込んだ、目の前で真希子がニコニコと笑っているからだ。

 守は車から降りて改めてお礼を言った。


守「本当に、ありがとう。」

真希子「何を言ってんだい、これからこいつであんたも一緒に山を攻めようじゃないか。それに2人乗りだから出来たばっかりの彼女と2人きりでドライブ行きな。」


 真希子が守の予想通りの発言をした時、守は心中である事件を思い出していた。そう、先程の「ハヤシライスすっからかん事件」だ。


真希子「それにしてもお腹空いたね、良い時間だから夕飯にしようね。」


 家の中に入った真希子は真っ直ぐにハヤシライスソースが入っているはずの鍋の蓋を開けた、洗ったばかりの様に鍋の内側が綺麗に輝く位にハヤシライスソースがなくなってしまっている。好美が何かで拭き取ったのだろうか(多分白飯)。


真希子「何だこれ、守どうなってんだい!!」

守「ごめん、彼女が全部食べちゃった。」


 流石に怒られるかと思ったが意外にも真希子は笑顔だった。


真希子「いい機会じゃないか、新車乗って買い物に行ってみるかい?」


 2人が駐車場へと向かうと守の携帯に着信が、結愛からだった。先日のショッピングモールでの件の続きを覚悟しながらスピーカーフォンにして電話に出たが、結愛の口調からそれ所では無いという雰囲気を感じ取った。


守「もしもし?」

結愛(電話)「もしもし、守か?お前ん所の母ちゃん帰ってねぇか?」

守「今帰って来て隣にいるけど、替わろうか?」

結愛(電話)「頼むわ、緊急なんだよ。」


 守は携帯を真希子に渡した。


真希子「もしもし?結愛ちゃん、どうしたんだい?」

結愛(電話)「おば様、大変です!!先程総会で可決した決議案に元義弘派閥のく・・・、2人が異議を申し立て始めたんです!!」


-⑲ 今日の夕食-


 大財閥の筆頭株主は代表取締役社長からの電話に驚きを隠せずにいたが、次の瞬間ため息をついた。


真希子「またあの2人かい、面倒くさい奴らだね。仕方ないから私が行くわ、結愛ちゃんはその場にいてな。」

結愛(電話)「ではリムジンを。」

真希子「それだと遅くなるよ、すぐ近くにあるから私の車で行くさね。」

守「まさか・・・、な・・・。」


 その「まさか」だった、電話を切ると真希子はスルサーティーに飛び乗ってエンジンをかけ、いつもより強めに空ぶかしをして長方形のヘッドライトを点灯させた。


真希子「守、危ないからちょっと端に寄ってな。後今夜は申し訳ないけど適当に何か買って食べておくれ!!」

守「まさか・・・。」


 どうやら2回目の「まさか」も当たってしまったらしく、真希子の愛車は出口に向けて勢いよく加速すると強烈なスキール音と共にドリフトして駐車場を出て行った。一瞬女性の「キャッ!!」という声がしたが排気音がかき消してしまった様で守は気付かなかった。


守「ゲホゲホ・・・、本当にあいつで行っちゃったよ、しかもまたここでドリフトして・・・。」


 そう、守のいた駐車場を真希子がドリフトで出て行くという件は今に始まった事では無かったのだが、それによる土埃に慣れる事は無かった。

 守がテールランプを見送ると、桃に会っていたはずの好美が歩いてやって来た。


好美「守、今の車って・・・。」


 「こうなりゃ仕方ない」と意を決した守は好美に打ち明けた。


守「今の母ちゃんなんだ、走り屋でさ。実は今、急用が出来て飛び出して行っちゃったんだよ。」

好美「そ・・・、そうなんだ・・・。」

守「隠してて悪かった・・・。」


 守は目の前の彼女の表情から驚いているのか、それとも引いているのか、好美の心境を汲み取る事が出来なかった。一先ず、話を逸らす事に。


守「それで、どうした?桃ちゃんと会ってたんじゃなかったの?」

好美「あのね・・・。」


 好美はそう言うと無言で顔を近づけ唇を重ねた、数十秒ほどキスを続けた後に顔を離してから笑顔になった好美は話し出した。


挿絵(By みてみん)


好美「あのね・・・、BBQバーベキュー行かない?」

守「え?BBQ?」


 実は数時間前、約束通り桃の住む和多家へと到着した好美を和樹が誘っていた時の事。


和樹「好美ちゃん、最近彼氏できたんだろ?お肉沢山あるから誘っちゃいなよ。」

好美「良いんですか?彼氏肉好きなので絶対来ると思います。」


どうやら先程の長いキスは用件とは全く関係無しに好美が欲望を爆発させただけの物だったらしい。


守「助かるよ、今ご覧の通りだけど母ちゃん行っちゃったから丁度夕飯に困ってたんだよ。」


 そう答えた守を連れて好美は桃の住む和多家へと向かった、和多家に到着した数秒後に正が和多家の前を通りかかった。偶然家の前にいた桃が声をかけた。


桃「あれ?正今日バイトじゃなかったの?」

正「実は店長がぎっくり腰になっちゃってさ、店自体休みにするから今日は休んどけって言われてさ。」

桃「じゃあ一緒に食べて行きなよ、肉いっぱいあるよ。」

正「ラッキー、頂きます!!」


 すると、家から桃の叔父の和樹が出て来て守に声をかけた。


和樹「あれ?もしかして好美ちゃんの彼氏って守の事だったのか?」


-⑳ 暗号-


 和樹の発言を聞いた好美は守に即座に質問した。


好美「え、知り合いなの?」

守「うん、小さい頃によく近所の河原とか公園に連れて行って貰ってたんだ。」

和樹「お前美人さん捕まえて、羨ましい奴だな。それにしても真希子さんどうしたんだ、さっきやけに慌てた様子で出て行ったけど。いつものバンじゃなくて珍しくスルサーティーまで出しちゃって、よっぽどの事だったんじゃないのか?」


 亡くなった通称「赤鬼」である渚の「エボⅢ」、その娘の光の「カフェラッテ」、そして通称「紫武者パープルナイト」であった真希子の「スルサーティー」はこの辺りでは有名で、近所の人達は排気音を聞くだけで誰の車か即座に分かる様になっていた。


守「母ちゃん?「結愛の家でお茶」しに行った。」


 この「結愛の家でお茶」というのは守・正・和樹の3人の間で「貝塚財閥で緊急事態が発生した」という意味の暗号となっていた、守と正はともかくだが和樹は真希子と同様に貝塚財閥の株主だったので情報を握っておく必要があったのだ。


和樹「守、正、家から飲み物を取り出そうと思ってんだ、よかったら手伝って(中で詳しく教えて)くれ。」


 和樹は3人で家に入るなり話し始めた。


和樹「それで?何があったんだ。」

守「元義弘派閥の奴らが今日の総会で可決された議案に改めて意義を申し立てたらしいんだ、それで結愛が母ちゃんを呼んだ訳。」

和樹「茂手木と重岡か、確かにあの2人が出て来るとかなり面倒になるもんな。持ち株率考えたら真希子さんでなきゃ対抗できないわ。」

正「乃木建設のおっさんはどうなってんの?」

守「一応母ちゃんと結愛に味方してるらしい、俺噂で聞いただけなんだけど義弘派閥の2には結愛を社長の座から引きずりおろそうとしているらしいんだ。」


 よく考えてみれば、高校時代に「貝塚財閥全権1週間強奪券」を使用した後、義弘が逮捕されたが故にそのまま社長になった結愛の事を義弘派閥の2人が良く思っていないのも分からなくもない。


正「結愛から全権を奪おうとしているのが見え見えだな、でもおばちゃん(真希子)がいるから大丈夫なんだろ?」

守「勿論、あの会社に母ちゃんに逆らえる奴なんていないからな。」

和樹「俺もわずかながら真希子さん達に協力するつもりだ、そう伝えておいてくれ。」


 真剣な話をしている男たちに後ろから何も知らない女子たちが無邪気に声を掛けた。


好美「守ー、早く来てー。食べようよー。」

桃「正も叔父さんも、肉焦げちゃうよー。」

和樹「分かった分かった、冷えたビールとラムネ持って行くから待っててくれ。」


 大量に買い込んでおいた瓶入りのラムネとビールを運び出して一同は肉を焼き始めた、ただそこには桃の叔母・芳江の姿が無かった。


挿絵(By みてみん)


桃「そう言えば叔母さんは?」

和樹「醤油付けて焼く用のおにぎりを握っているんだ、焼きおにぎり美味いぞ。」


 すると台所から芳江の声が。


芳江「沢山出来たよ、皆持って行っておくれ。」


 すると好美が喜び勇んで取りに行った、ただお握りを渡され外に出て来た時には何個かが無くなっていた。


桃「好美、あんた食べたね?」

好美「はへへはひほん(食べてないもん)。」


 口をもごもごさせているのが決定的な証拠だった、犯人への罰は即座に執行された。


桃「好美、今から5分間肉禁止!!」

好美「なんで~!!」


 好美は椅子に座りラムネを飲みながら5分間を過ごした。


この5分は長かった・・・。

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