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無事に貝塚学園を卒業する事になった守達、守の幼馴染である圭が県外の大学へと通う事になった事から今回の物語は始まる。
5.「あの日の僕ら」
佐行 院
-① 序章~卒業~-
義弘による貝塚学園での独裁政治が幕を閉じてから1年後の3月9日、宝田 守達は各々進学先を決めて卒業証書授与式の日を迎えていた。
前社長から貝塚財閥の全権を奪取した結愛が実質理事長となっていたが、いち生徒でもあったのでハワイから戻って来て代理として学園を支えていた会長の博から1人ひとりに手渡された卒業証書を手に守は幼馴染の赤城 圭と帰路に着いた。
守「あーあ・・・、3年間色々あったけど結局彼女出来なかったな。」
圭「何言ってんの、人生まだまだこれからじゃない。」
2人は学園を出てからすぐの場所で足を止めてため息をつく、実は密かに浜谷商店の復活を願っていたのだ。
卒業までにもう1度だけでも大好物を口にしたかったらしい。
圭「しょうがないでしょ、あの夫婦は元々大企業の社長夫婦だったんだから。元々の仕事が忙しくなったんじゃない。」
守「そうか、それにしても寂しいな。」
圭「私もよ、本当あの頃が懐かしい。」
1年の頃に毎日2人で買い食いをしていたあの頃を懐かしみながら卒業証書の筒を開け閉めして音を鳴らすというベタな遊びをずっとしていた、最後の下校は30分程で終わった。
守の家の隣にあるアパートで1人暮らしをしている吉村 光が2人を出迎えた。
光「2人共お帰りなさい、そして卒業おめでとう!!」
守「ありがとう、光おばさん。」
光「こら!!「お姉さん」だろうがー!!」
守「痛い!!痛い!!痛い!!痛い!!」
守の「おばさん」という言葉を聞いた光がプロレス技をかける、これは昔から変わらない件であり、この「プロレスごっこ」は正直言って守自身嫌いでは無かった。痛いと言いつつ満更でもない気分になっているので顔がにやけていた。それを見た圭が頬を膨らませていた、世に聞く嫉妬というやつだろうか。
圭「何、光さんの方が好きなの?」
守「良きお姉さんとして好きです。」
圭「私だっていいお姉さんだもん!!」
そう言うと圭もプロレス技をかけ始めた、守からすれば痛みも倍だが嬉しさも倍だったようだ。
それから数日間、圭は県外の大学へ通う為の新居探しなどで忙しくしており、地元に残る守は最近始めた喫茶店でのアルバイトに明け暮れていた。
この機会を利用して車の免許取得の為、自動車教習所へと通い出した。実は光の愛車に憧れを持っていたのでMTの免許を取得する為の予算と投資家である母・真希子に出して貰う予定の学費の足しにするお金を必死に稼いでいた。守は自らを女手一つで育ててきた母の負担を可能な限り減らしたいという孝行息子だった。
3月の後半、圭が窓から顔を出して守に声を掛けた。
圭「27日、空いてる?」
守「うん、何も予定無いけど。」
圭「駅まで見送りに来て欲しいんだけど、高校の制服着て来て。」
守「良いけど、何で制服?」
圭「良いじゃん、別に。」
27日当日、守は圭に言われた通り入学式や卒業式の時だけ着る様に指定されていた学生服を着て見送りに現れた。駅には既に小さなバッグを持った圭が先に到着していた、光に教えて貰いながら練習したメイクをしている。
守「遂に行っちゃうんだな、寂しくなるよ。」
圭「何今更、光さんがいるじゃない。」
守「盆と正月は帰って来るんだろ?」
圭「うん、その予定。」
それから暫くの間、静寂が続いた。ブレーキ音でその静寂を切り裂く様に圭の乗る電車が駅のホームへと入って来た。
圭は涙を流しながら守の制服から第2ボタンを千切り取って乗り降り口へと向かった。
圭「じゃあね、元気でいてね。(泣きながら小声で)ずっと、大好きでした。」
どうやら圭は本気だった様だ。