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白月色の兎 ー妖兎の幻妖京異聞ー  作者: 御崎菟翔
終章 幻妖京の乱

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41. 不安の種

 目を覚ますと、目の前に紅翅がいた。

 慌てて起き上がろうとすると、体の中心部に激痛が走りそのまま倒れ込む。


「白月様、動いてはなりません。(やじり)が深く突き刺さり、取り除きましたが、癒やしきれていないのです」

「……鏃……? 何でそんなもの……ねえ、鬼界の穴は? 京は?カミちゃんはどうなったの?私はどれ位寝て……」

「落ち着いてください。矢を射かけられたのです。安静にしていなければ、お体に障ります」


 深刻そうな声が聞こえてそちらを見ると、璃耀がうつむき加減に私の手を握っていた。


「……お約束はきちんと守って頂かなくては困ります」

「……ごめん」


 表情はよくわからないが、随分憔悴してるようにみえる。ずっとこうして居たのだろうか。


 私が璃耀に謝ると、不意にその横から、見覚えのある子狸がひょこっと顔をのぞかせた。


「……楠葉? ……なんで……」

「我々は、一度、狐の村まで下がっています。今のところ、追手は来て居ません」


 そうだったんだ……ずっと気になってたけど、ここも無事で良かった……


「楠葉が元気そうで良かった」


 私が呟くと、楠葉が眉を寄せる。


「白月様がお元気ではありません」

「……そうだね。ごめん」


 それに、楠葉はきょとんとした顔をした。


「白月様は謝ってばかりですね。お怪我をなさったのは白月様のせいではありません」


 私は、楠葉の言葉に力なく笑みを浮かべる。


 そうだったとしても、また皆に迷惑と心配をかけてしまった。


 ただ、今後悔して立ち止まっている場合じゃない。


「誰か、今の状況を教えて」


 兎の獣姿のままで何とも格好がつかないが仕方ない。

 私が呼びかけると、宇柳がすぐに進み出た。


「白月様が眠っていらっしゃったのは半日ほどです。既に夜が明け、日が昇り始めています。

 白月様が倒れられたあの時、兵が小鬼に手間取り、護りが手薄な隙を狙って背後から射掛けられ、更に近衛の一部が急襲してきました」


 なるほど、あの痛みは射掛けられた事によるものだったんだ。


「責めてきた近衛は?」

「こちらが小鬼と近衛に苦戦している間に、栃殿の機転で烏天狗が駆けつけ、一掃できました」

「……そう。栃さんと首領に御礼を言わなきゃね。その烏天狗は何処?」


 周囲を見回してみるが、木造りの部屋の中には烏天狗どころか栃の姿も見えない。


「外で警備をしてくれています」

「京は?」

「まだ鬼は残っているようですが、蒼穹さん達の活躍で、ほぼほぼ制圧できているようです」


 私は、ほっと息を吐く。

 被害状況は気がかりではあるが、一旦騒ぎが収束しつつあるなら良かった。


 しかし宇柳はそれに、いつになく厳しい表情をする。


「ただ、ここからが本番です。近衛が攻めてきたことからも、既に国取りは始まっています。今は翠雨様達が状況の把握に奔走してくださっていますが、準備が整えば、幻妖宮に攻め入る事になります。白月様には、共に来て頂かなくてはなりません」


 あれだけ派手に立ち回ったのだ。もう、今更止まれない。


「うん。わかった」


 私が返事をするのを確認すると、紅翅が宇柳と私の間に割って入る。


「白月様、まだ少し時があるのでしょう。薬を飲んで少しお休みください。本来ならば、それほど直ぐに動いて良い状態ではありません」

「でも、宇柳、準備は……」


 私が言いかけると、紅翅に睨まれた宇柳が苦笑を漏らす。


「こちらで整えます。翠雨様から使いが来るまではお休みになってください」


 宇柳の答えに紅翅は満足そうに頷いた。


「ねえ、紅翅。兵たちのために、蓮華を宇柳にもたせてくれない? 多分、ここにいる皆も、蒼穹達も、酷く疲弊してると思う。怪我は治らないかもしれないけど、体力だけは回復させておきたいの。薬湯は量が足りないと思うけど、花弁ならたくさんあるでしょう?」


 紅翅は僅かに眉根を寄せる。


「あれは、白月様の為にお持ちしたのですが……」

「兵が回復したら、結果的に私の為になるよ」


 私が言うと、紅翅はハアと息を吐いた。


「白月様の仰せでは仕方がありませんね」


 紅翅は持ってきていた荷物から、巾着一杯の蓮華の花弁を取り出す。


「これだけあれば十分でしょう。花弁を一人一枚ずつ、口に含んで嚥下してください」

「感謝します。白月様、紅翅殿」


 宇柳はそれを恭しく受け取った。


「さあ、殿方は出てください。白月様がお休みになれませんからね」


 紅翅はいつものように宇柳達を手際よく追い出していく。


「さあ、璃耀様も」


 しかし、璃耀は動かない。さっきから俯き加減に私の手を握ったままだ。


「……紅翅。璃耀はいいよ」

「しかし……」

「いいから」


 紅翅は私と璃耀を交互に見たあと、仕方が無さそうに小さく息を吐いた。


「……璃耀、大丈夫?」

「大丈夫でないのは、私ではなく白月様です」

「……そういうことじゃなくて……」


 私はハァと溜め息をつく。


 璃耀は何も言わない。

 でも、言いたいことはいっぱいあるのだろう。


 少し落ち着くまでこうしておくのがいいのかもしれない。


 私は璃耀に手を握られたまま紅翅に薬を飲まされ、回復させようと戦う体に身を任せ、再びすぅっと眠りについた。



「白月様、暁です。京を襲っていた鬼どもは蒼穹殿達が一掃。翠雨様が宮中へ攻め入るご準備をと」


 日が高く上がった頃、扉の向こうから声が響いた。


「わかった。直ぐに準備する」


 私は頷いて起き上がる。

 しかし、璃耀は私の手首をぐっと掴んだまま離さない。


「……璃耀?」


 璃耀は私の顔を見て、何かを言おうとするが、そのまま口を噤む。ただ、その手には強い力が込められている。

 それが、声に出さずとも、行くな、という意思表示のように思えた。


「離して、璃耀。準備して行かないと」


 しかし、璃耀は手を離そうとしない。


「ねえ、璃耀。ここまで来たら、すべてが終わるまで止まれない。わかるでしょう?皆が戦うなら、行かなきゃ」


 璃耀がこんな風に引き留めようとするとは思わなかった。


 私が困り果てていると、私達の様子を伺っていた楠葉が、不意に璃耀の袖を引っ張った。


「璃耀さん、白月様は大丈夫です。今までだって、皆が困っていることを、ちゃんと解決されてきたじゃないですか。白月様はすごいんですよ。今回だってきっと大丈夫です」


 純粋に信じてくれている楠葉がかわいい。

 その楠葉の両肩に紅翅が手を乗せる。


「ご心配はわかりますが、側近が主のことを信用しなくてどうします。不安な顔など見せず、力づけて送り出すくらいのことはなさいませ」


 璃耀は二人の言葉に、きつく目を閉じる。

 まるで、自分の中で葛藤をしているように。


「璃耀」


 私がもう片方の手で璃耀の手に触れると、璃耀は一度、痛いくらいに私の手に力を込めて握ったあと、力なくその手を離した。


「大丈夫です。我らがちゃんとお守りします」

「……頼む」


 桔梗の言葉に、璃耀は小さく頷いた。


 私は何だか璃耀の様子が心配で、楠葉に視線を移す。


「楠葉、璃耀と一緒にいてあげてくれる?」

「はい」


 楠葉は気遣わし気に璃耀を仰ぎ見た。


 着替えの間は、璃耀も紅翅に部屋を追い出された。楠葉は私の言いつけ通り、璃耀についていてくれている。


 着替えを終えると、私は自分の掌を見下ろし、グーパーさせて気の回復具合を確認する。薬湯のおかげで、傷はだいぶ良くなっている。気も回復してきているし、この分ならば十分に動けるだろう。


 準備を整えて外に出ると、軍の皆の他に、烏天狗の面々が膝をついた状態で待機していた。


「栃さん、烏天狗の皆さん、危ないところを助けてくださってありがとうございます」


 私が声をかけると、栃はいつもとは違った畏まった態度で頭を下げる。


「お役に立て光栄です。ここからが本番になりましょう。互いの領地のためにも、必ず勝利を」

「はい。引き続き、協力をお願いします」

「はっ!」


 私が軍の方に目を向けると、暁がすっと進み出て跪く。


「翠雨様がお待ちです。ご説明はあちらで」

「わかった。宇柳、此処を拠点に何名か残して、護りを固めるよう指示を。何かがあったときに戻ってこられるように」

「はっ」


 私は、自分の後ろに控える璃耀や紅翅を振り返る。


「二人はここにいて。必ず戻ってくるから」

「承知しました。お気をつけて」


 紅翅は直ぐに了承の意を示したが、璃耀は黙ったまま、僅かに目を伏せただけだった。



 私は桔梗の背に乗り、京へ飛びたつ。

 狐の村を振り返っていると、宇柳が気遣わし気に声をかけてきた。


「璃耀様が気になりますか?」

「……うん。いつもしっかりしてる璃耀があんな風になるなんて……」


 私の言葉に宇柳も頷く。


「私も信じられませんが、蒼穹さんに少しだけ教えてもらいました。璃耀様が看取ったと伺った先の帝は、妖が五百年生きるところを、二百年で崩御されたそうです。それから百年たって、白月様にお仕えした矢先に、蛍観の宴の一件があって、気丈に戦地へ送り出したところで、白月様は先程、矢を受けて倒れられました。

 戦地へ送り出すと決めてギリギリのところで踏みとどまっていた心が耐えきれなくなってしまったのかもしれません……」

「……うん」

「璃耀様のためにも、手早く終わりにしてしまいましょう」


 宇柳の言葉に、私は小さく頷いた。

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